第44話 二つの組織
夜の食卓で、リンはノートを開いた。
カツヤは最初、それを見るのを嫌がった。
それでも、昨夜の「話す」を自分から書いた以上、閉じる理由がなかった。
「環象社は表で完了を出す」
リンが指で行をなぞる。
「黒鋼はあとから痕跡を拾う。壊すな、中枢を残せ、と」
カツヤは杯を置いた。
「俺たちは危険物を倒す組織だと思ってた。
実際は、倒すより確保が先になってる」
「私が助けられた相手も、環象社の制服じゃなかった。
04_ERUPTION。一般権限では何も出ない」
短い沈黙が落ちる。
二つの名前が、初めて同じテーブルに並ぶ。
環象社。
黒鋼。
同じ災害を挟んで、役割が分かれている。
「親父は上層だ」
カツヤの声が低い。
「方針の出元に近い。なのに、俺には何も言わない」
「言わない方が、現場が動くからじゃないの」
リンは責めない。
整理しているだけだ。
ノートの端に、昨夜までの実感が並ぶ。
『影は危害を加えるために動いていない』
『属性ごとに別個体』
『環象社の発表と現場がずれる』
『黒鋼は回収を優先する』
カツヤが続きを置く。
「上は技術を欲しがってる。
少なくとも、ただの排除じゃない」
二人の間で、ようやく同じ地図が共有される。
完成はしていない。
それでも、片方だけで見ていた頃より輪郭が太い。
外で、環象社の広報車が定型を流す音がした。
『平常通りお過ごしください』
リンはノートを閉じる。
「表と、もう一つの現場」
カツヤは頷いた。
頷いても、明日また回収に出る自分は消えない。
リンも、避難所の名簿を閉じる仕事へ戻る。
それでも今夜は、平行線のまま終わらなかった。
二つの組織の隙間に、自分たちが立っていることだけは、共有できた。




