第43話 前哨
風が収まった倉庫街に、熱の予兆が混じった。
【06(ハリケーン)】が槍を立て直すより先に、高所から矢が一本、軌道を裂く。
歪みではない。
人の隊列を止めるための矢だった。
【04(イラプション)】が、壊れたクレーンの上に立っている。
『近づかないで』
短く、はっきりしていた。
下では、セレスティーヌ側の観測班が足を止める。
黒鋼とは装備が違う。
回収袋ではなく、計測と拘束の器具が見える。
「邪魔が入った」
「04だ。抑止の側」
【07(オーロラ)】が別の屋根から顔を出す。
『うわ、面倒くさいのが増えた』
『深入りするな』
【04(イラプション)】は07を見ない。
見るのは、距離を詰めてくる人間の方だ。
『06も07も、今は動かなくていい。
私が見る』
【06(ハリケーン)】は一瞬だけ迷う。
争いを好まない。
だが、守るべきものが背後に残っている。
『……分かった』
【07(オーロラ)】は肩をすくめる。
『じゃあ任せる。めんどいし』
前哨は、それで始まった。
本戦ではない。
接触の可否を測る衝突だ。
【04(イラプション)】の矢が、地面を叩き、隊形を崩す。
殺さない。
近づかせない。
抑止力としての仕事だった。
相手側も、すぐに全力は出さない。
04の射程、反応、単独行動かどうかを見る。
「三傑ではない」
「ただし、軽い相手でもない」
引き際を決めた観測班が、煙の向こうへ下がる。
【04(イラプション)】は追わない。
追えば、次の火種になる。
『深入りしない』
今夜の役割は、そこまでだ。
06と07は無事に現場を離れる。
狙う側は、一度下がって温度を測り直す。
環象社の拡声器が、遅れて平常を流す。
「大きな発令はありません」
前哨は、静かに終わった。
終わったのではなく、次の手番へ持ち越されただけだった。




