第40話 揺れる任務
配備室の蛍光灯が、いつもより白く見えた。
加賀美カツヤは回収記録を入力しながら、昨夜の背中を何度も思い出す。
雹を止めた影。
銃を向けても、撃たれていない。
『やることをやってるだけだ』
危険物。
倒す対象。
その前提が、言葉のままでは立たなくなっている。
班長が肩を叩く。
「カツヤ、今日も東だ。残骸の再確認」
「……了解」
車両に乗り込む指が、わずかに重い。
隣の隊員が欠伸を噛み殺す。
「また拾いか。最近、撃たせてくれねえな」
カツヤは返事をしない。
撃て、と上は言わない。
拾え、とだけ言う。
そのズレが、昨夜の対峙と重なる。
現場に着くと、氷の粉がまだ溝に残っていた。
収束のきれいさに対して、説明文は短い。
『環象社対応により収束』
カツヤは破片を袋へ入れながら、自分に問う。
俺たちは何を守っている。
何を倒そうとしている。
父の顔がよぎる。
加賀美イサオは上層にいる。
方針の冷たさの出元に近い位置だ。
なのに、息子には何も言わない。
『現場は現場の仕事をすればいい』
言われたわけでもない言葉が、胸の中で再生される。
帰路、端末にリンから短い文が届く。
『今日も遅い?』
カツヤは赤信号の間だけ画面を見る。
『なる。話す』
以前より、一文だけ長かった。
話す、と書いた自分に、少しだけ驚く。
家に着くと、リンは何も急かさなかった。
テーブルに湯気の立つ杯がある。
カツヤは装備を下ろし、先に息を吐く。
「……任務が、揺れてる」
リンは頷いただけだった。
責めない。
訂正もしない。
「私も、まだ整理できてない」
二人の平行線は、まだ消えていない。
それでも、昨夜まではなかった共有が、一つだけ増えていた。
影は危険だと思っていた。
倒すのが仕事だと思っていた。
なのに、雹を止めて去っていく背中は、敵の形をしていなかった。
カツヤは杯を両手で包む。
揺れる任務の正体は、まだ名前にならない。
ならないまま、次の配備時刻が近づいていた。




