第38話 やることをやっているだけ
雨はすでに止んでいた。
焼けた建物の隙間から、白い蒸気が上がっている。
黒鋼の回収部隊は後退を始めていた。
カツヤもその一人だった。
リンは、指定された避難経路を外れて、彼の元に来ていた。
蒸気の向こうに、さっき雹を止めた影が残っている。
【02(ヘイル)】だった。
カツヤは反射的に銃を構えた。
リンは息を止めた。
04とは違う。
格が違う何かが、そこに立っている。
【02(ヘイル)】は二人を見た。
興味なさそうに、目だけを向ける。
『……民間か』
低い声だった。
カツヤの声が、少し掠れる。
「……噂の三体の一人か」
【02(ヘイル)】は砲口を向けなかった。
ただ、少しだけ面倒臭そうに息を吐いた。
『倒すつもりか』
短く吐き捨てる。
『あたしらが、お前らに何かしたかよ』
カツヤの喉が、一度鳴った。
「……お前らは危険だ。
だから倒す。それが、俺たちの任務だった」
自分でも、うまく説明できていないのが分かっていた。
目の前で雹を止めた存在に、銃を向けている理由を、正しく言葉にできない。
【02(ヘイル)】は肩の砲を構えるでもなく、ただそこに立っている。
『知らねーよ、お前らの事情なんて。
あたしらは、やることをやってるだけだ』
蒸気が揺れる。
『邪魔すんな』
それだけ言って、【02(ヘイル)】は背を向けた。
追撃も、威嚇も、何もない。
雹を鎮めたあと、そのまま去っていく。
カツヤは銃を持ったまま、動けなかった。
リンは、その背中を見ていた。
助けられたわけではない。
守られたわけでもない。
ただ、目の前の歪みが消え、自分たちはたまたまそこにいただけだった。
それでも、胸の奥が熱い。
04に助けられた夜から抱えていたものが、今、別の形で胸に落ちてくる。
この人たちは、私たちのために動いているのではない。
なのに、結果として、誰かの死を減らしている。
リンが、そっとカツヤの袖に触れる。
「……危害を加える気は、ないんだね」
カツヤはゆっくりと銃を下ろした。
指先が、わずかに震えていた。
危険だと思っていた。
倒すべき存在だと思っていた。
なのに、今しがた雹を止め、自分たちを一瞥しただけだった。
敵とも味方ともつかない背中が、蒸気の中へ消えていく。




