第37話 鎮める背中
雹の音が、不揃いになっていた。
粉になった氷が、路面に白い膜を作る。
環象社の規制線の外で、リンは息を詰めた。
蒸気の向こうに、人影がある。
高身長で、日焼けした肌。
白を基調にした角張った装甲。
肩に、巨大な砲を担いでいる。
【02(ヘイル)】だった。
彼女は空を見上げない。
砲口を上げ、引き金に指をかける。
一発。
落ちてきた氷の粒が、途中で砕け、粉になる。
硬い打撃音が止まり、白い粒子だけがゆっくりと舞う。
暴れていた雹は、強引に、だが正確に押さえ込まれていく。
リンは、その背中しか見えない。
04のときと同じではなかった。
熱を裂く弓ではなく、空を叩く砲。
それでも共通しているのは、迷いの少なさだった。
同じ街区の角で、カツヤも固まっていた。
黒鋼の班はまだ降りない。
端末に、短い記録だけが入る。
「対象02。収束動作確認」
「間合い取る。今は触るな」
カツヤは銃に手をかけたまま、動けない。
危険物だと思っていた影が、今、雹を止めている。
排除対象が、被害を止めている。
【02(ヘイル)】は砲を下ろした。
周囲を一瞥するでもなく、すでに次の気配を測っている。
『……まだ残ってる』
点火の臭いに近い、細い歪み。
彼女は舌打ちをして、砲口をわずかにずらす。
二発目は短く、冷たい。
火の粉のようなものが、空中で消える。
環象社の拡声器が遅れて鳴る。
「雹が収束に向かっています。被害は最小限です」
最小限。
その言葉の裏側で、リンは自分の指が震えていないことを確認した。
震えていないのに、胸の奥が熱い。
カツヤは班長の指示で車両の陰に下がる。
下がっても、目は離せない。
鎮める背中が、蒸気の中に立っている。
英雄の立ち方ではない。
感謝を受ける位置にもいない。
ただ、やることをやって、次へ移ろうとしている。
リンとカツヤは、まだ互いを見つけていない。
同じ影を、別々の位置から見ていた。




