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第35話 別ゲー

黒鋼の監視記録が、会議室の壁に並んだ。

雨の収束。

雹の収束。

雷の収束。

時刻は近くても、地点はばらばらだ。

「また別行動か」

「連携の形跡なし。通信も拾えていない」

若い隊員が画面を指す。

「問題は強さだ。同じ対象でも、桁が違う」

映像は不鮮明だ。

小柄な影が鎌を振るう雨。

砲口が空を向く雹。

そして、ほとんど写っていない雷。

「雷のやつは、結果しか残らねえ」

「動いてないように見える、って報告もあった」

誰かが短く笑う。

「笑えないだろ。08が消えたあとも、残ってる三体の方が重い」

上席が資料を畳む。

「三体を個別に見るな。まとめて危険物だ。

 ただし破壊より確保。方針は変わらない」

末端には、それ以上の説明は降りない。

それでも部屋の温度は、数字より先に決まっていた。

同じ頃、高所で【04(イラプション)】が弓を下ろしていた。

遠方で雨が収まり、別の方角で雹が粉になる。

さらに遠くで、雷のねじれが消える。

三つの気配は、どれも自分の射程の外側にあった。

『……測れない』

以前、雨の現場で【03(レイン)】と重なったことがある。

止めるつもりで矢を番えた。

その瞬間、鎌の軌道が自分の予測の外側へ外れた。

遊ばれた。

矢は届かない。

間合いも、タイミングも、最後まで自分の手に残らなかった。

終わったあと、【03(レイン)】は振り向きざまに短く笑った。

『弱いね』

嘲笑だった。

本気で潰す価値もない、と切り捨てる声。

【04(イラプション)】は、その一言の方が傷より残った。

勝敗にすらなっていない。

その事実が、彼女の立ち位置を決めた。

三傑と呼ばれる距離は、数字の差以上に深い。

同じ七嵐でも、見える世界が違う。

04以降が全力を出しても、土俵に乗れないことがある。

『深入りしない』

それが、彼女が選んだ立ち位置だった。

勝てない相手に並ぼうとしない。

代わりに、他の番号が不用意に突っ込まないよう、先に抑える。

下の街では、環象社の定型が流れる。

「現在、大きな発令はありません」

平常の文面の下で、格の違う影が別々に歩いている。

黒鋼はそれを危険物と呼び、環象社は完了と呼び、

当の本人たちは、誰の呼称にも応答しない。

【07(オーロラ)】が、別の屋根で欠伸を噛み殺す。

『あの三人、別ゲーだよね』

軽く言って、目は笑っていない。

誰も否定しなかった。

否定する相手も、今夜はいなかった。

青は、まだ戻っていない。

別ゲーの距離だけが、はっきり残っていた。

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