第34話 雷を追う
アヤの私用メモは、すでに数ページを超えていた。
雷の現場。
目隠しの女。
姉に瓜二つの横顔。
収束の時刻と、環象社発表のズレ。
表の仕事では、同じ事象を『対応完了』と整形する。
夜は、その裏側を手書きで拾う。
「白石さん、今日の文面確認お願いします」
「……はい」
昼のアヤは、丁寧に頷く。
夜のアヤは、検索履歴を残さないよう端末を切り替える。
姉の死んだ日の記録も、改めて開いた。
避難指示は適正とされている。
被害報告は短い。
弔いの手続きは、形式的に整っている。
整いすぎていて、何も見えない。
『だから、雷を追う』
声に出さず、メモの端に書く。
属性ごとに違う影が動いている。
雨のあとに小柄な影。
雹のあとに砲。
光のあとに翼。
そして雷のあとに、姉の顔。
全部を同時には追えない。
なら、一本に絞る。
姉の死の真相。
瓜二つの人物の正体。
どちらも、雷の現場に沈んでいる。
翌日、アヤは不要不急の現場同行を自ら希望した。
広報として、写真選定と住民向け文面の精度を上げるため、と理由をつける。
嘘ではない。
全部でもない。
端末に、次の雷注意報の下書きが流れる。
まだ発令ではない。
予兆の段階だ。
アヤは画面を見たまま、指を止める。
逃げない。
次に雷が立てば、規制線の外まで行く。
必要なら、その先も見る。
姉の顔をした誰かが、また煙の中を歩くなら。
今度は、背中だけで終わらせない。
夜のメモの最後に、短い一文が加わる。
『雷を追う。他は後回し』
方針は、それで固まった。




