第33話 教団の影
リェンが沈黙した夜のあと、別の場所で白い噂が動いていた。
地下の会議室ではない。
もっと整った、儀式めいた部屋だ。
壁に淡い光が走り、机の上には粒子の観測記録が並んでいる。
「リェンは失敗した」
誰かが短く言う。
「荒い。触れる資格がなかった」
別の声が続く。
「白は、奪うものではない。迎えるものだ」
その中央で、銀白の髪の女が資料に目を落としていた。
セレスティーヌだ。
表情は荒れない。
怒りより、失望に近かった。
「力だけを欲しがる手は、必ず弾かれる。
見ての通りよ」
部屋の誰もが、黙って頷く。
ここには黒鋼のような回収の論理はない。
あるのは、白を完全なものとして扱う思想だった。
セレスティーヌは画面を切り替える。
歪みの分布。
属性ごとの収束。
そして、説明のつかない断面の報告。
「影が動いている。複数。
環象社の表層では説明がつかない」
「七……いや、対象と呼ばれているものですか」
「名前はどうでもいい。
重要なのは、白に近い場所へ、誰が一番早く反応するか」
彼女の指が、雷の記号の上で一度止まる。
次に、雨と雹の記号をなぞる。
「強いものがいる。
だが、強いだけでは足りない。
欠けた世界を、純白で上書きする手が必要なの」
誰かが躊躇いがちに聞く。
「リェンの粒子は、回収できますか」
「破片は拾いなさい。
ただし、ああいう使い方は二度としない。
白は道具ではない」
その言葉には、信仰に近い熱があった。
熱はあるが、声は高い。
セレスティーヌは立ち上がり、窓のない壁を見る。
壁の向こうに街があるわけではない。
それでも彼女は、どこかの空を見ている目をしていた。
「次は、もっと近い位置へ行く。
風と光。手が届きやすい番号から」
部屋の空気が、わずかに動く。
作戦というより、儀式の予告に近かった。
表の街では、環象社が定型を流している。
「現在、大きな発令はありません」
その平常の下で、白を迎えるための影が、静かに位置を変えていた。




