表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/107

第32話 許さない

白は、まだ収まっていなかった。

リェンは杖を回し、粒子の密度を上げる。

車の塗装が剥げ、窓が白く濁り、人が規制線の外へ下がる。

「制御できている。見ろ」

誰も見ていない。

見ているのは、逃げ道と、端末の異常値だけだ。

空気が、一度、薄く縮む。

足音はない。

気配の移動もない。

気づいたときには、布で目を覆った女が、杖の間合いの内側に立っていた。

【01(ライトニング)】は、刀をまだ抜いていない。

姿勢も、ほとんど変わっていない。

なのに、周囲の声が一斉に落ちた。

リェンが顔を向ける。

「なんだお前は。観客か」

答えはない。

あるのは、短い、深い静けさだけだった。

怒声ではない。

罵倒でもない。

白を、その使い方を、認めないという意思だけが、温度を持って落ちる。

『……許さない』

声は低かった。

リェンの顔が歪む。

次の言葉を作るより先に、世界の方が先に終わっていた。

刀が一瞬だけ光る。

軌道は、誰の目にも残らない。

振りかぶりも、踏み込みも、見た者の記憶に定着しない。

あるのは、直前の静けさと、直後の結果だけだ。

杖が真っ二つに落ちる。

白い粒子が、音もなく霧散する。

リェンの体は、立ったまま機能を失っていた。

派手な爆発はない。

血しぶきの演出もない。

ただ、終わっている。

黒鋼の隊員が硬直する。

「今……何が起きた」

「わからない。何も起きていないとしか」

【01(ライトニング)】は刀を鞘に戻す。

動作は最小だ。

リェンの顔も、叫びも、もう必要ない。

『白を、弄ぶな』

誰にも届かない言葉だった。

彼女は背を向け、煙の薄い夜へ溶ける。

あとに残ったのは、折れた杖と、説明のつかない収束だけだ。

環象社の拡声器が、遅れて定型を流す。

「原因不明の粒子現象は収束しました。被害は調査中です」

調査中。

その言葉の奥で、白を触った男は、すでに沈黙していた。

高台へ戻る途中、【01(ライトニング)】は一度だけ足を止める。

指先が、わずかに鞘を強く握っていたかどうかは、誰にも分からない。

眼は、布に覆われていて感情が感じられない。

それでも彼女は、白を弄ぶ手を、許さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ