第30話 現場の違和感
帰投後の点検室は、金属と油の匂いが強かった。
加賀美カツヤは回収袋の封を確認しながら、今日の指示ログをスクロールする。
『確保優先』の文字が、過去一週間分ほとんど途切れない。
班の誰かが、後ろでヘルメットを棚に置く。
「最近、撃たせてくれねえな」
「上は壊すな一辺倒だ。中身が欲しいんだろ」
別の声が短く笑う。
「中身って何だよ。人型の残骸か」
誰も本気では答えない。
答えられるほど、末端は知らされていない。
カツヤはログを閉じる。
危険物を止める組織にしては、拾うものが多すぎる。
断面の写真、可動部の部品、熱源の残渣。
倒すための記録というより、分解するための材料に見えた。
父の顔が、一瞬よぎる。
加賀美イサオは上層にいる。
息子に方針を説明したことは一度もない。
それでも、この丁寧な回収の冷たさには、同じ血の匂いがした。
更衣室で、端末に私用の通知が一つ残っていた。
リンからだ。
『ご飯ある。いらないなら言って』
カツヤはしばらく画面を見たあと、短く返す。
『食べる』
それ以上は打たない。
昨夜の平行線を、今は持ち込めなかった。
帰宅途中、交差点の向こうで環象社の広報車が止まっているのが見えた。
『対応完了。平常通りお過ごしください』の電光が、濁った夜空に白い。
平常。
カツヤはハンドルを握り直す。
現場では残骸を拾い、表では完了が流れる。
その隙間に、自分が立っている。
隙間の正体は、まだ言葉にならない。
家の明かりが見えたとき、カツヤは初めて小さく息を吐いた。
違和感は、消えていなかった。
むしろ、拾えば拾うほど濃くなっていた。




