第29話 食い違う記録
避難所の閉館後、リンは端末の光だけを残していた。
一般権限では、深い情報は出ない。
それでも公開データと、自分の勤務記録を重ねることはできる。
噴火の再燃時刻。
誘導終了の報告。
環象社の『対応完了』発表。
三つを並べると、隙間がある。
完了のあとで再燃し、再燃のあとに誰かが止めて、発表は最初の完了のまま更新が薄い。
「……おかしい」
声は小さい。
彼女は他の災害も開く。
雨の日。
雹の日。
光の日。
目撃メモの端に、装備や体格の食い違いが残っている。
同じ「特殊部隊」にしては、説明がばらばらだ。
ある日は長身に砲。
ある日は小柄に大鎌。
ある日は翼。
ある日は目隠し。
04_ERUPTION。
弓に見えた刻印を、再び検索する。
何も出ない。
一般権限の壁は、今夜も厚い。
リンは私用のノートに手書きで移す。
端末に残す気がしなかった。
『属性ごとに違う個体が動いている可能性』
『意思がある』
『環象社の発表と現場の時刻がずれる』
カツヤからの短い文が届く。
『今日も遅い。寝るなとは言わない』
リンは画面を見たまま、返信を打たない。
打っても、昨夜と同じ平行になるだけだ。
外では、復旧の音がしている。
守られている側の夜は、静かに戻っていく。
リンだけが、記録の隙間に足をかけたまま動けない。
彼女はノートを閉じ、照明を落とす。
調べる。
何も出なくても、食い違いがある限り、止められない。




