第24話 発火を押さえる
焦げた臭いが、雨上がりの街に残っていた。
雷でも雹でもない。
細い発火点が、廃工場の二階で連続して立ち上がる。
環象社のランクはC。
避難は局部のみ。
それでも放置すれば延焼する。
【02(ヘイル)】は、砲を担いだまま工場の前で止まる。
『……またか』
本来の属性ではない。
08が消えてから、この手の歪みを拾う回数が増えた。
三傑なら、ある程度は他の現象にも手を出せる。
出せるが、気に入らない。
彼女は砲口を上げ、冷却を回す。
雹砲・零式の機構が、低い音を立てる。
『無理やり、押さえる』
一発。
氷の粒が火点を叩き、熱の芯を潰す。
二発。
延焼しかけた梁が白く割れ、煙が下へ落ちる。
きれいな鎮圧ではない。
力で封じた跡が残る。
『08の分まで、やってらんねえ』
誰にも届かない言葉だった。
応答もない。
通信先もない。
黒鋼の監視が、遠方から記録を取る。
「対象02。発火を止めてる」
「属性、雹だよな。なんで火を」
「知るか。上は回収優先だ。今は近づくな」
【02(ヘイル)】は三発目を込め、最後の火筋を粉砕する。
工場の中が、急に静かになる。
熱は残る。
牙は折れた。
彼女は砲を下ろし、肩の装甲を一度叩く。
『……面倒くさい』
08がいた頃は、ここに来る必要がなかった。
今は違う。
穴の空いた属性を、隣の番号が埋める。
環象社の無線が遅れて流れる。
「局部的な発火が収束に向かっています」
【02(ヘイル)】は背を向け、蒸気の中へ歩いていく。
あとに残るのは、白い粉と、消えた熱の匂いだけだ。
青は、まだ戻っていない。
彼女の仕事は、それでも終わらない。




