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第23話 動物の側

風の歪みは、住宅街の公園から上がっていた。

環象社のランクはC。


環象社が公表している異常気象ランクは、六段階だ。

Sは広域が壊滅級で、都市機能の停止を前提に全避難。

Aは複数区域に深刻な被害が出る。

Bは単一都市規模で建物損壊やインフラ停止が起きうる。

Cは局地的に人的被害や小規模破壊が発生する段階で、ここから避難指示が発令される。

Dは注意喚起が中心。

Eはデータ上の異常に留まる。

表の運用では、C以上で文面が硬くなる。

「ただちに避難を」「特殊部隊が対処に向かっています」という定型が、ここから本格的に使われる。

住民が知るのは、その運用面までだ。


そして、今回も避難指示が発令された。

遊具が傾き、木の枝が連続して折れる。

人の避難は終わっている。

残っているのは、逃げ遅れた野良の気配だけだ。

【06(ハリケーン)】は、長槍を立てたまま公園の入口で止まる。

『……ごめんね』

誰に謝っているのでもない。

風が牙を向くたび、住処が壊れる。

そのたびに、彼女は同じ場所へ戻ってくる。

黒鋼の小部隊が、遠巻きに配置を取る。

「対象06。風。接近注意」

「回収優先。ただし今は間合いが悪い」

【06(ハリケーン)】は彼らを一瞥するだけで、銃口には向かない。

先に動いたのは、歪みの核だった。

槍が回り、気流が上へ逃がされる。

倒れたベンチの下で、小さな犬が身を縮めていた。

彼女は一度だけ、兵士たちの方へ風を返す。

殺傷ではない。

足元を崩し、距離を取らせる。

『退いて』

「ちょ——」

「寄せるな! 今は止めろ!」

黒鋼が下がる間に、【06(ハリケーン)】は犬の前へ膝をつく。

震える頭に、装甲の指を添える。

噛まれない。

逃げもしない。

『怖かったね』

歪みの残りが、最後に木立を揺する。

彼女は立ち上がり、槍でその揺れを裂く。

風が弱まり、公園の音が戻る。

環象社の無線が流れる。

「強風が収束に向かっています」

【06(ハリケーン)】は犬を抱えたまま、兵士たちにもう一度だけ言う。

『動物に、手を出さないで』

誰も、すぐには返せなかった。

対象を追う側にとって、その優先順位は理解しにくい。

理解できなくても、圧だけは届く。

彼女は公園の奥へ歩き、壊れた柵の陰で犬を下ろす。

争いを好まない番号が、今日も最小の衝突で済ませた。

守るものが先で、敵は後だ。

青は、まだ戻っていない。

それでも【06(ハリケーン)】は、動物の側の距離を選ぶ。

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