第22話 夫婦の温度差
夜の食卓は、湯気だけが真っすぐだった。
リンは膝の傷を隠すように座り、カツヤは黒鋼の作業着の袖を折り返している。
二人とも、先に災害の話をしない。
しないまま、箸が進む。
「今日も遅かったね」
「回収が残ってた」
それ以上を、カツヤは言わない。
リンも、すぐには踏み込まない。
沈黙が、食器の音で埋まる。
洗い物のあと、リンが先に口を開いた。
「ねえ。昨夜の噴火の再燃、現場にいたの」
カツヤの手が一瞬止まる。
「規制内だろ。入るな」
「誘導の確認で。……助けられた」
「環象社の部隊か」
リンは首を横に振る。
「違う。動きが違った。装備も。
弓に、04_ERUPTIONって刻印があった」
カツヤが顔を上げる。
笑っていない。
だが、信じる目でもない。
「なんだそれ。型番か。特殊部隊の個体識別だろ」
「意思があった。命令を待ってる感じじゃなかった。
人を助けるというより、歪みを止めるための動きだった」
「リン」
「アンドロイドかもしれない」
その言葉で、カツヤの表情が固くなる。
呆れと、疲労と、現場の人間特有の拒絶が混ざっていた。
「やめろ。映画みたいなこと言うな。
俺たちは危険な対象を追ってる。人が死ぬ現場だ。
そこにファンタジーを持ち込むな」
「見てきたの」
「見た気になってるだけだ。遭難のあとは、誰でも錯覚する」
リンは拳を握る。
反論はできる。
しても、今のカツヤには届かないと分かっていた。
「……調べる」
「仕事に戻れ。余計なところを掘るな」
「あなたこそ、回収ばっかりで、何を追ってるの」
短い空気が、部屋に落ちる。
カツヤはそれ以上答えず、端末を袋にしまう。
リンはシンクに手をつき、昨夜の背中を思い出す。
同じ家にいて、見ている現場が違う。
同じ災害を挟んで、言葉が噛み合わない。
夜が更ける。
夫婦の温度は、平行したまま朝へ向かう




