第21話 回収優先
黒鋼の配備室は、常に金属の匂いがした。
加賀美カツヤは端末に表示された指示を二度見た。
『対象接触時、破壊より確保。中枢を残せ。残骸は全点回収』
隣の隊員が肩をすくめる。
「また回収か。倒すんじゃねえのか」
「上の方針だ。俺たちは現場だ」
カツヤは返事を短くして、装備を確認する。
七嵐と呼ばれる影を、彼は危険物だと思っている。
制御不能の兵器。
排除するのが任務。
そう聞かされてきた。
だが最近、指示の重心がずれている。
現場へ出る前、通信に父の声が混じることはない。
加賀美イサオは上層にいる。
息子に直接語る男ではない。
それでも方針の冷たさには、同じ血の匂いがした。
「東区画、光の収束あとを洗え。断面と部品、全部拾う」
「環象社はもう完了出してるぞ」
「表は表だ。俺たちは跡を拾う」
カツヤは車両に乗り込み、規制の緩い通りを走る。
昨夜リンから短い連絡があった。
『今日も遅くなる?』
『なる』
それだけ返した。
災害のあとに遅くなる夫、以上の説明をしていない。
現場に着くと、熱の残る金属が散っていた。
誰かが剣で切ったような跡。
誰かが止めを刺さなかったような、生きた敵の搬送跡。
「また生かしやがった」
隊員が吐き捨てる。
「対象は一体。翼がある。光を纏う」
カツヤは記録を取る。
記録しながら、胸の奥で小さな違和感が動く。
排除が目的なら、なぜ中枢を残せと書く。
危険物なら、なぜ壊すなと繰り返す。
「カツヤ、======= 拾え」
「……分かってる」
彼は破片を袋へ入れる。
危険を止める仕事をしているはずだった。
今の手元にあるのは、止めたあとの残骸回収だ。
帰路、端末に上層向けの定型文が流れる。
『確保優先。技術的価値を損なう破壊を避けること』
カツヤは画面を見たまま、エンジン音の中で黙っていた。
倒すための組織にしては、拾い方が丁寧すぎる。




