第2話 結果だけが残る
雨が止んだあとも、街は乾いていなかった。
排水は溢れ、折れた枝が車道を塞ぎ、シャッターには水の筋が残っている。
環象社の車両が交差点に停まり、職員が誘導を続けていた。
「まもなく避難解除です。被害は最小限に抑えられています」
誰もが、その「最小限」を当然のように受け取っている。
止め方が見えなくても、結果だけがあれば足りる。
路地の奥で、黒の装備を着た男たちが立ち話をしていた。
環象社ではない。
回収と記録を担う、別の現場の人間たちだ。
「またか」
一人が舌打ちをする。
「痕跡が薄い。収束の瞬間を押さえた班も、映像が残っていない」
もう一人が、濡れた路面を靴先で叩く。
「特殊部隊の対処、で通すのか」
「通すしかないだろ。上はそれでいいってさ」
彼らは、雨の中心にいた小さな影を見ていない。
高台の廃ビルにいた女のことも知らない。
知っているのは、暴れていた気象が、いつの間にか収まっていたという結果だけだった。
無線が入る。
「東側、建物の一部が裂けてる。人的被害なし。原因は雷か、別の衝撃か、判別不能」
「判別不能ってなんだよ」
「文字通りだ。切断面がきれいすぎる。爆発でも崩落でもない」
男たちは顔を見合わせた。
誰も、それをどう書くべきか知らない。
記録欄には、結局こう入る。
【環象社対応により収束。詳細不明】
それで足りる。
表では、それで足りてしまう。
夜が落ちると、水の匂いだけが残った。
高台の廃ビルでは、布で目を覆った女が、鞘に手を添えたまま立っていた。
今は動かない。
雨の気配は、すでに遠い。
彼女の前に、敵はいない。
いたとしても、いた痕跡の方が先に消えている。
下の街で、誰かが言う。
「助かったよ。ちゃんと対処してくれるんだな」
別の誰かが頷く。
「いないと、本当にどうなってたか」
感謝の向け先は、いつも曖昧だ。
エージェントへ。
環象社へ。
見えない対処へ。
女は、その声を訂正しない。
訂正する位置に、自分を置いていない。
遠くで、乾いた衝撃のようなものが一度だけ空間を走る。
雷ではない。
雨でもない。
短い。
そして、すぐに静まる。
結果だけが残る。
理由は、あとから誰も説明できない。
青は、まだ戻っていない。
それでも夜は、何事もなかったように更けていく。




