第18話 噴火の救助
避難誘導が終わったあとも、地面の熱は残っていた。
環象社のランクはC。
噴煙と細かい火の粉が、街区の東端で上がっている。
加賀美リンは最後の名簿確認を終え、指定経路へ戻る途中だった。
「加賀美さん、もう大丈夫です。東は規制が残ってます」
同僚の声を背に、リンは足を速める。
そのとき、足元のアスファルトが膨らんだ。
熱が、縦に走る。
避難が「終わった」はずの区画で、歪みが再燃していた。
リンは転ぶ。
膝が路面に擦れ、息が止まる。
前は火の壁で、後ろは崩れた足場だ。
声を上げるより先に、影が落ちた。
長い足、低い重心。
大弓を構えた女が、リンの前に立っていた。
【04(イラプション)】は、短く言う。
『動くな』
矢が放たれる。
火の筋が裂かれ、熱の核が上へ逸らされる。
噴き上がりかけた炎が、不自然な角度で折れた。
リンは、その背中しか見えない。
人間の動きではなかった。
呼吸の間合いも、熱への耐性も、違う。
『……行ける』
【04(イラプション)】が振り返らないまま続ける。
『今のうちに離れろ』
リンは走った。
転びそうになりながら、規制線の外まで出る。
振り返ると、火の色はすでに落ちていた。
女の姿も、煙の奥に溶ける。
環象社の拡声器が遅れて鳴る。
「再燃を確認しましたが、収束に向かっています。被害は最小限です」
最小限。
その言葉の裏で、リンは自分の手が震えているのを見ていた。
助けられた。
それだけは確かだった。
だが、助けた相手は、環象社の制服でも、普通の防護装備でもない。
意思があった。
迷いのない判断があった。
そして、人を助けるためというより、歪みを止めるための動きだった。
リンは膝の傷を押さえたまま、夜の避難所へ戻る。
名簿の数字は、もう頭に入らない。
彼女は、初めて「見てしまった」側に立った。




