第12話 再出動
雷の匂いが、先に来た。
環象社の端末がBを点灯させ、拡声器が避難を流す。
「ただちに建物内へ。特殊部隊が対処に向かっています」
高台の廃ビルで、布で目を覆った女が鞘に手を置いた。
【01(ライトニング)】は、短く息を吸う。
『……行く』
誰にも届かない声だった。
通信先はない。
応答もない。
彼女は棟を出る。
雨の夜とは違う。
今度は、自分の番だ。
現場は、すでに焦げていた。
電柱が折れ、路面に黒い筋が走る。
落下が連続し、次のねじれが空に溜まっている。
【01(ライトニング)】は刀を一本だけ抜いた。
二本目は、まだ鞘にある。
軌道は、傍目にはほとんど残らない。
ただ、空間が薄く裂ける感触だけが先に来る。
次の瞬間、ねじれて落ちようとしていた雷の束が途中で断たれる。
音より先に、結果がある。
遠くで、黒鋼の回収班が足を止める。
「今の、見たか」
「見えてねえ。収まってる」
「また断面だ。きれいすぎる」
彼らは記録を取る。
記録しても、説明欄は埋まりにくい。
【01(ライトニング)】は刀を戻す。
周囲の電磁の乱れが、収束へ向かうのを確認するだけだ。
感謝の声も、拡声器の文面も、彼女の後ろで流れる。
「異常雷が収束に向かっています。環象社の対応により、被害は最小限です」
訂正しない。
訂正する位置に、自分を置いていない。
廃ビルへ戻る途中、【01(ライトニング)】は一度だけ足を止めた。
遠くで、別の歪みの予兆がある。
自分の属性ではない。
今は、行かない。
布の下の眼は、光を持たない。
その事実を、彼女は今夜も言葉にしない。
再出動は、静かに終わった。
あとに残るのは、焦げた匂いと、最小限の被害報告だけだ。




