表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/107

第11話 避難所の朝

避難所の朝は、いつも少し早い。

加賀美リンは名簿を開き、返却された毛布の数を数えていた。

昨夜の指示はC。

雨が強かったが、人的被害は少ないと環象社から連絡が入っている。

「こちら側からお帰りください。荷物はまとめて」

リンの声は、慣れた高さだった。

避難者の一人が、安堵したように言う。

「また対処してくれたみたいだね。エージェントさん」

「いないと、本当にどうなってたか」

リンは頷いて、次の名前を呼ぶ。

彼女も同じことを思っていた。

暴れる気象のあとに、必ず収束が来る。

環象社が動き、特殊部隊が入り、被害は最小限になる。

それが、この数年の普通だった。

端末に、夫からの短い文が届く。

『今日も遅くなる。現場の回収』

カツヤは黒鋼の人間だ。

リンは詳細を知らない。

知っているのは、災害のあとに彼が忙しくなることだけだ。

「加賀美さん、東棟の水、まだ残ってます」

同僚の声に、リンは立ち上がる。

「分かった。今行く」

廊下を歩きながら、彼女は窓の外を一度だけ見た。

空は、もう昨夜の色ではない。

それでも完全な青でもない。

濁りが、薄く残っている。

避難者の子どもが、母の手を引いて言う。

「また雨、来るの」

「大丈夫。ちゃんと指示が出るから」

その言葉を、リンは否定しない。

否定できる材料を、彼女は持っていない。

名簿の端に、昨夜の対応時刻が残っている。

収束は早かった。

早すぎるほどだった。

リンはペンを止め、そのまま数字を見つめる。

違和感、と名付けるほど明確なものではない。

ただ、守られている側の朝にしては、説明が少なすぎる。

「加賀美さん?」

「うん。今行く」

リンは名簿を抱え直し、東棟へ足を向ける。

日常が、何事もなかったように戻っていく。

彼女は、まだ何も見ていない。

見ていないまま、次の指示に備える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ