第十一話 隔離
収容区画。
静かだった。
誰も喋らない。
ただ。
巨大モニターだけが光っている。
レイは壁にもたれながら、
自分の頬を触る。
まだ熱い。
ジャブ。
思い出すだけで、
視界が揺れる気がした。
「……クソ」
拳。
怖ぇ。
あんな速ぇもん、
見えるわけねぇだろ。
その時だった。
『第二試合終了』
機械音声。
空気が少し張る。
『試合時間――二分十一秒』
『決まり手――肘関節破壊』
『勝者――柔術』
短い。
それだけ。
映像はない。
誰がどう勝ったかも見えない。
ただ。
結果だけ。
「……見せねぇのかよ」
レイが呟く。
誰も答えない。
⸻
『第三試合終了』
『試合時間――三十八秒』
『決まり手――肝臓打撃による行動不能』
『勝者――ムエタイ』
空気が少し重くなる。
三十八秒。
短すぎる。
レイは眉をひそめる。
肝臓?
なんだそれ。
殴っただけで、
三十八秒で終わるのか?
知らない。
知らないことばっかりだ。
⸻
『第四試合終了』
『試合時間――五分四秒』
『決まり手――裸絞めによる失神』
『勝者――サンボ』
また知らない。
サンボ。
なんだそれ。
レスリングみたいなもんか?
だが。
“裸絞め”って言葉に、
レイの背筋が少しだけ反応する。
絞め。
首。
呼吸。
レスリングにも近い。
(組み技か……?)
⸻
『第五試合開始』
静寂。
誰も動かない。
レイはモニターを見る。
表示される名前。
『戦闘思想――八極拳』
リン。
レイの目が細くなる。
対戦相手。
『戦闘思想――キックボクシング』
長い脚の奴か。
だが。
映像は映らない。
ただ、
試合開始の文字だけ。
「……チッ」
何もわからない。
音もない。
実況もない。
ただ待つだけ。
気味が悪い。
時間だけが流れる。
十秒。
十一秒。
そして。
『第五試合終了』
レイの目が開く。
早い。
早すぎる。
『試合時間――十一秒』
収容区画の空気が変わる。
誰かが小さく息を呑む。
『決まり手――胸部破壊』
静寂。
レイの背筋が冷える。
胸部破壊?
なんだそれ。
殴ったのか?
折ったのか?
何をした?
『勝者――八極拳』
リン。
勝った。
だが。
どう勝ったのかわからない。
それが怖い。
「……なんだよ八極拳」
レイが呟く。
想像しかできない。
だから余計怖い。
見えない相手は、
理解できない。
⸻
『情報汚染防止のため、
勝利個体を隔離します』
機械音声。
空気が張り詰める。
『勝利個体同士の接触は禁止されています』
『戦闘情報共有を確認した場合、
即時処分対象となります』
レイの眉が動く。
隔離。
つまり。
もうリンとは会えない。
他の勝者とも。
話せない。
聞けない。
何も。
『戦闘情報の共有は、
NULL PROJECTにおける重大違反です』
NULL PROJECT。
またその名前。
レイは舌打ちする。
「徹底してやがる……」
その時。
ガコン。
鉄扉が開く。
黒服。
「育成個体No.14」
冷たい声。
「移動してください」
レイは立ち上がる。
「どこに」
「隔離区画です」
短い。
感情がない。
レイは少しだけ、
収容区画を振り返る。
みんな無言で、
モニターを見ている。
次に死ぬのが、
自分かもしれない顔で。
レイは歩き出す。
長い通路。
冷たい照明。
足音だけが響く。
そして。
ふと思う。
(……リン)
十一秒。
何をした?
どう戦った?
わからない。
でも。
たぶん。
あいつも俺を知らない。
それが、
少しだけ怖かった。




