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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! サプライズニンジャ・出題編2~

 おミソシルは美味しかった。

 基本的には塩味が強いっぽいのだが、それでいて塩辛いとまではいかず、普通に飲み干せてしまうほど。

 携帯できるスープと考えれば、これほど頼もしいことはない。

 まぁ、塩よりも重くなってしまうことが難点なので、あまり多くを持ち歩くことはできないだろうが――


「先に寝ます~。おやすみなさい」


 寝ずの番……つまり、見張りを交代するためにパルは床に敷かれた動物の皮の上に寝転ぶ。鹿だろうか。なかなかに立派な皮だ。

 毛布は山小屋にあったみたいだが、なんというか、他人のにおいが染みついていた。


「……なんかヤだ」


 というパルの一言で、手持ちの薄い布で少女といっしょにくるまっている。

 どうやら少女といっしょに寝ることにしたようで、母親である女性が微笑ましく見ていた。


「倭国は平穏で良いところと思っていましたが、こんなこともあるんですね」


 世間話のように女性に話しかける。


「えぇ……私も驚きました……」

「子どもとふたりで山越えですか?」

「はい。あぁ、私たちはカミノトから来たので、ようやく一息ついたところでした……」

「なるほど」


 子どもの足では時間もかかる。

 そのせいで、山小屋で一泊することになったのだろうが……まったくもってオロチに出くわすとは運が悪い。


「母子で旅行でしょうか?」

「いえいえ。夫に届け物をしたので、その帰りです」

「あぁ、それは大変だ」


 旦那は商人だろうか、それともサムライだろうか。

 ともかく、大変なことには違いない。


「では、私も寝させてもらいますね」

「はい。おやすみなさい」


 女性が一礼するのに合わせて、俺も頭を下げた。


「旅人殿も眠られてはいかがでござるか」


 イロリのそばで静かに俺たちの会話を聞いていたサムライが言ってくる。


「火は拙者が見ていよう。オロチはそう簡単に襲ってこぬようだしな」

「そうですね……どうして襲ってこないのでしょうか」


 俺はそう聞いてみると、サムライは顎に手を添えつつ答えた。


「こちらの人数が多い。不利をさとっているのではないだろうか」

「なるほど。頭の数が多いだけに、賢いのか」


 人型のモンスターは、時に群れを作り砦を築いたりする。場合によっては罠を仕掛けてくることもあるし、女性をさらって慰み者にするようなモンスターもいる。

 しかし、動物型で賢いモンスターはなかなか聞いたことがない。無論、例外は山ほどあるので、一概には言えないが。基本的には人型のモンスターのほうが賢く、動物型のモンスターは本能的と言えた。

 頭が多いと、そのあたりの知恵も良くまわるのだろうか。

 それとも、本能的が故に襲って来ないのだろうか。


「……」


 俺はちらりとルビーを見た。

 ぼけ~、と炭火を見ているようで、眠そうな演技をしている。

 ……演技か?

 ホントに演技だったらいいのだが……なんというか退屈過ぎてぼ~っとしてるように思える。


「大丈夫か、ルビー。不安だったら寝てしまってもいいぞ」

「う~ん……そうですわね。今のところ『何も問題は無い』ので、寝させていただきます」


 どうやら周囲は安全らしい。

 オロチも無理やり襲ってくるようなことは無さそうだが、それに加えてニンジャが潜伏しているような様子もない、ということか。

 失礼します、と小さく答えてルビーはパルたちの近くに寝転んだ。


「旅人殿も遠慮なく休んでくだされ」


 サムライが気遣って言ってくれる。


「はい……もう少しだけ起きていようかと。ところで、あなたは仕事ですか?」

「拙者は周回の任務でな。何か問題がないか見回っているでござる」


 サムライは苦笑するように肩をすくめた。

 厳格なだけではなく、息の抜き方も分かっているらしい。


「大変ですね。山越えの仕事とは」

「慣れれば大したことがござらぬよ。ひとつ聞いてもいいでござろうか?」


 サムライが俺を見てからルビーを見た。


「彼女は何者でござる?」


 少し声をひそめたもの。

 本人に聞かれたくないような素振りなので、吸血鬼と露見したわけではないだろう。


「ルビーでしょうか」

「その名前からして大陸の者なのだろうが、見事な着物ではあるので。高貴な身分の方でござろうか。どこかの姫であれば、失礼な物言いをしていないか非礼を詫びなければならぬ」


 う~む、どう答えたものか。


「いえ、単なる物好きの娘です。俺なんかに同行しているような変わり者ですよ」


 余計なことを言って重要人物と認識されるのも困るし。

 道楽娘とでも思ってもらったほうが良い。


「ふむ」


 サムライはすこし考え込むような仕草を見せた。


「なるほど。失礼があったのでは、と思っていたが。取り越し苦労でござったか」


 信用されてはいないが、そういうことにしておこう。

 みたいなニュアンスで納得されてしまったようだ。

 それはそれでオッケーかな。

 正体は魔王直属の四天王だったりするので、概ね間違っていない対処法ではある。

 と、思う。

 たぶん。

 いやもう、特殊過ぎて分かんねぇわ。


「俺もそろそろ寝させてもらいます」

「あぁ。婦女子に混ざるわけにもいくまい。あちらで寝るのが良かろう」


 パルたちが寝ている場所と離れたところを示すサムライ。

 あ、はい。

 パルとルビーだけでなく、普通に母子もいますもんね。

 それに混ざるわけにもいかないので、素直に離れた場所で寝転ぶ。

 鹿の皮が敷いてあるが、まぁ無いよりマシな程度か。

 自分の腕を枕にしつつ眠っているフリをする。


「……」


 さて。

 このまま無事に朝を迎えられればいいが――

 しばらくは何事もなく、周囲で何者も動くような気配もしなかった。

 時折、風の音が聞こえる程度で静かなものだ。オロチが近づいてくる気配や、何者かが山小屋に近づいてくる気配もない。

 パチパチと爆ぜる炭火にサムライが薪を追加する音などを聞きながら、時間が過ぎていき、夜が深まっていく。

 しばらく無音の世界でまどろんでいた。

 完全に寝てしまうことは、むしろ硬い床なので防いでくれるのが便利とも言えるが。環境としては劣悪だな。

 雪が残っているような寒さではない。毛布にくるまれなくても眠れるのが幸いか。


「……」


 不意に空気が動いた気配がしたので、チラリとうかがうとサムライが立っていた。

 どうやら交代の時間らしく、狩人と入れ替わったようだ。

 狩人はこちらをちらりと見て、起こしてしまって申し訳ない、という手をチョップの形にしたジェスチャーを見せて、イロリのそばに座った。

 パルと入れ替わって寝るわけではなく、イロリの番をしてくれるようだ。

 ありがたい。

 またしばらく何事もなく時間が過ぎていく。

 次に動きがあったのは、サムライが山小屋の中に入ってくる気配。

 どうやらパルと交代する時間のようで、静かにパルへと近づいて起こしているのが分かった。


「ん……交代しましゅ……」

「眠いのであれば無理はなされるな」

「ふぁい……だいじょうぶぅ……んっ」


 しっかりと目が覚めたアピールをしてパルは外へと出ていく。

 眠いフリをしている素晴らしい演技だなぁ。なんて思いつつも、パルの気配を追っておく。

 何かあれば駆けつけないといけない。

 正体が露見したとしても、ね。


「……」


 パルは山小屋の周囲を探索するように歩いていたようで、時折歪んだ窓から影が動いているのが分かる。

 月明かりのおかげだな。

 足音は消しているようだが、気配はそこまで消していない。

 これもワザとやっているようだ。

 問題もなく、静かに時間は過ぎていき……


「夜明けか」


 そろそろ窓から見える歪んだ空が紫色に染まってきたところで身を起こした。


「おはよう旅人さん」


 イロリのそばに座っていた狩人が挨拶してくれる。

 それに答えていると、ルビーと母子が起きてきた。


「おはようございます。朝ごはんの準備をしますね」


 女性はそういうと手慣れた様子で再びミソシルを作ってくれたので、狩人と交代したパルといっしょに食べた。


「何も問題は無かったか?」

「はい。オロチの気配も無かったし、静かな夜でした。襲ってこなくて一安心です」


 パルの言葉にうなずきつつ、お椀に注がれたミソシルを飲み干す。

 温かくて美味いなぁ。

 二食続けて食べても、満足感がある。

 野菜も肉もたっぷり入っているおかげだろう。

 食べ終わり、後かたずけをすると山小屋から手早く出発することにした。


「オロチが雪山に現れたという話は聞いたことがないので、むしろ進むのが安全でござろう。母子は拙者が送っていく」


 サムライに言われて俺たちはうなずいた。


「お世話になりました。どうぞ、皆さんもお気をつけて」

「ばいばーい」

「失礼します」


 パルは手を振って、ルビーは頭を下げてお別れの挨拶をした。

 狩人たちも見送ってくれる。

 無事に出発でき、曲がりくねるように登っていく山道を進んで行った。


「ふぅ」


 山小屋が見えなくなったところで、俺はようやく重くなった息を胸から吐き出した。


「どうしました、師匠さん。お疲れでしょうか?」

「気疲れだな。気付かれなくて一安心した」

「ダジャレですわね。上手い」


 偶然だ、と肩をすくめる。


「パルは気付いていたか?」

「はい」


 優秀でなにより、とパルの頭を撫でた。


「どういうことですの?」

「ルビーはのんき」

「はい。否定はしませんし、せっかちと呼ばれるほど生き急いでいるわけではありませんので、教えてください。なにかありまして?」


 どちらかというと、この場合は『お人好し』ではないだろうか。

 人間種が大好きな吸血鬼としては、そのままな感じなので、むしろ気付いていないのが微笑ましくていいのかもしれない。

 ま、それはともかくとして――


「ニンジャがいたぞ」

「え? そうなんですの? いったいどこ……いえ、誰がニンジャだったのでしょうか?」


 ルビーの感知に引っかからなかった。

 つまり、ニンジャは隠れていたわけではなかった。

 だからこそ、山小屋にいたあの4人の中にニンジャがいると推測はできたようだ。

 そのあたりは、さすがではある。

 さてさて。


「もちろん推測でしかないし、外れている可能性はある。だが、俺はその可能性が高いんじゃないかと思う。あの山小屋の中にいたニンジャは――」


 俺はあの場にいたニンジャの正体を告げるのだった。

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