~卑劣! サプライズニンジャ・出題編1~
5人いたと思ったが、山小屋の中には4人しかいない。
消えたひとりは、歪んだ窓のせいで見間違えなのか、それとも――
しかし、それを確かめようにも、不容易な言葉を発すれば墓穴を掘りかねない。
もしも消えたひとりがセツナに関連するニンジャだったら?
それならば、質問した瞬間に勘付かれてしまう可能性もある。
ただでさえ監視が厳しいというのに……
いや。
むしろ、確定だと思っていたほうがいいだろう。
この状況を作り出している者こそ、ニンジャである。
そう考えておくほうが無難だ。
あとは――
「……」
「なんですの?」
ルビーが何も反応していない、ということは姿を隠しているニンジャはいない、ということでもある。
学園都市で俺やパルが察知できなかった物陰に潜んだニンジャを、ルビーは普通に捕らえていた。
「いや、『大丈夫かな』と思って」
ニュアンスを少し変えてルビーに聞いてみる。
「心配性ですわね、旅人さん。これでも旅慣れしていますの。問題ないですわ」
……伝わってる?
なんかこう、意図が通じてるようには思えなかった。
あと、ルビーはキモノを着ている状態なので、いっしょに旅に同行しているような雰囲気を出している。
護衛される側として演じているのだろうか。
まぁ、いいけど。
「あたしも手伝えることありますか?」
「お嬢ちゃんは冒険者か」
「はい。旅人さんに護衛で雇われました。未熟者ですけど、よろしくお願いします」
「いや心強い。寝ずの番を交代でしようと思っていたところでござる。一枠、引き受けてくれるか」
サムライに言われて、パルはうなずいた。
戦える者はパルとサムライと狩人か。
サムライの実力は分からないが、少なくとも戦闘職ではある。おびえることなく落ち着いている雰囲気から考えて、そこそこの実力はありそうだ。
キモノの女性と少女は確実に戦力外。
――とは思うが、この中にニンジャが潜んでいた場合、たとえパルよりも年齢が下の少女であったとしても、油断しないほうがいいだろう。
仙人になるとニンゲン族でも若い身体を保っていられる、とか聞いたこともある。
少女のフリをしているニンジャ、とも限らないわけで。
「……」
全員がニンジャ。
加えて、ニンジャがひとり隠れている。
その可能性は充分にある。
全員を疑ってかかったほうが、むしろ安全だ。
「…………」
いや、無理じゃね?
まったくもって余計なことはせず、大人しく旅人のフリをして乗り切るのが無難にして一番の方法に思えた。
わざわざニンジャを特定しなくてもスルーしておけば良い。
幸いにも、こちらはいま獣耳種に擬態中だしな。
「夕飯はどうしますか? 一応、それなりに食料はありますが」
俺はバックパックの中から干し肉を取り出し、提供する。
「では拙者も」
サムライも懐から干し肉を出した。
「オレは野菜がいくつかある」
「私は野菜と味噌がありますので、お味噌汁を作りますね」
女性が立ち上がり、料理の準備を始めた。
少女がすこし不安そうにしているので、ルビーに目配せしておく。
これは通じたようで、ルビーは少女に声をかけた。
「あなた年齢は何歳でして? ちなみにわたしは1万と2千歳ですわ」
「お姉ちゃん、お婆ちゃんなの?」
「はい。ゼロを抜くと12歳になるので」
「あはは。あたしは6万歳だよ」
「おぉっと。わたしより年上でしたか。ではお姉ちゃんと呼ばないといけませんわね。甘えていいですか?」
「いいよ!」
きゃっきゃ、と少女がルビーに抱き付いている。
うらやまし――いや、違う。
速攻で仲良くなる素晴らしいルビーの人心掌握だ。
……これを人心掌握と言っていいのか分からないけど。
まぁ、支配者らしいというか、人好きというか、人たらしというか。
俺が同じことをやると、途端にロリコン扱いになってしまうので、ルビーがいてくれて助かる。
「水を汲みに行くんだったら言ってくれ。外に水瓶があるんで」
狩人が女性に告げた。
雨水でも溜めているのか、それとも近くに湧き水でもあるのか。とりあえず、ルビーの魔導書を使わなくても水が確保できるのは良かった。
「じゃ、あたしが窓の外を見てます」
「頼む」
女性の護衛のように狩人が外へ行ったので、代わりにパルが監視となる。
ちょっとしたチャンスでもあるので、俺はパルの隣に立った。
「真っ暗かと思いきや、そこそこ見えるな」
「月明かりのおかげかなぁ。精霊女王さまに感謝しないと」
そんな世間話をしておいて、単なる会話を演出しておく。
「歪んだ窓ガラスでも見通せるものか?」
「ほえ? 歪んでます?」
あら?
パルには歪んでいるように見えないのか、と思ってパルと視線の高さを合わせるように屈んでみる。
「あぁ、下の方は歪んでないようですね」
「上は歪んでるんですか」
「えぇ。上下に引き延ばされたように見えますよ」
「抱っこ抱っこ」
「えぇ……」
まぁ、いいか。
パルを後ろから抱っこしてあげて、視線の高さをあげた。
重い……!
マグの効果、こういう時は切ってくださいよぅ。
「あ、ほんとだ」
「――4人だったか――?」
盗賊スキル『妖精の歌声』を応用して、耳元で小さく聞いてみる。
「ふひゅん」
なんか奇妙な声をあげて、パルの身体が震えた。
「い、息が……」
「すいません」
パルには向いてない方法だったみたいです。
難しいですね、周囲にバレないように会話するのって。
「おじちゃん、あたしも抱っこ」
「いいぞ。ほら」
パルを下ろして少女を抱っこする。
かっる!?
と、思うのはパルが重すぎるせいか。この子なら、小脇に抱えながら戦闘できそうな気がするなぁ。
「夜なのに明るいね」
「そうだな。月のおかげだね」
にこやかに会話できている。
やったぜ。
おじさん頑張れてるよね!
と、同意を求めるように隣をみたらパルが半眼で俺を見上げていた。
「あたしの時は重そうだったのに……」
おまえ、重いだろうが。
マグを切れ、マグを!
「ひっ!?」
なんて思ってると少女が短く悲鳴をあげて、顔を伏せた。
なんだ、と思い窓の外を見ると――
「ヘビ……いや、あれがオロチか!」
俺の言葉に跳ねるようにサムライが動き、窓に近づく。
「旅人殿たちは下がれ」
「はい!」
サムライとパルが警戒するように外に出ていくのを見送り、俺は少女を抱きかかえたまま、後ろへと下がった。
ルビーが隣に立ったので、少女を預ける。
「目をつぶり、耳をふさいでいなさい。母親が来るまで抱きしめてあげます」
「うん」
ぎゅっと抱きしめるルビー。
「監視は?」
チャンスだ、とばかりに俺はルビーに素早く確認する。
「いません。周囲に反応もなし」
「了解」
短く確認が取れた。
やはり見間違いだったのだろうか――?
そう考えると、慌てるように女性が戻ってきた。ご丁寧に水の入った鍋を持っているので、相当に混乱しているらしい。
「こちらへ」
「はい」
鍋を置いて、小屋のすみに集合する。母親が戻ってきたと伝え、少女は母親に抱き付いた。
おびえている様子は本物だ。
また、母親の様子にも不審なところはない。
この親子は白と考えても良いだろうか……?
「……襲ってくる様子がありませんわね」
しばらく物音などはせず、モンスターの気配が近づいてくるような雰囲気もなかった。外に出たパルたちも慌てるような様子もない。
オロチは好戦的なモンスターではないのだろうか。
大昔から伝説として残ってるくらいだ。
そこそこ危険なモンスターのはずだが、どうなっているのだろうか?
「……」
しばらく静かな時間が続き、パルと狩人とサムライが小屋の中に戻ってきた。
「どうなりました?」
「戻っていった。こちらの人数を確かめていたように思えるな」
狩人がそう答えてくれる。
「大きさはあれが通常なのでしょうか。なんというか、想像していたよりは小さい」
伝説のバケモノ、みたいに言われると巨大なヘビを想像していたのだが。割りと現実的というか、見上げるほどに巨大というわけではなかった。
無論、本物のヘビと比べると遥かに大きく、長さは俺の身長を優に越えている。
頭も3つほどあったように見えたので、充分にバケモノだ。鎌首を持ち上げている高さは、ちょうど人間の大人ほどだったか。
「そうでござるな。まだ若いような雰囲気があった」
サムライも同意するように答える。
「成長途中ってこと?」
パルが狩人に聞くと、狩人は曖昧にうなずくようなニュアンスで答える。
「そうかもしれんなぁ。ここで退治しておくのがいいのかもしれん」
「こちらから打って出るでござるか」
「いや、さすがに夜は危険だ。あんたらは逃げたほうがいい。退治はこの山で生きる狩人の仕事だ」
とにかく今は飯を作って万全に備えよう。
狩人に言われ、俺たちは夕飯の準備をすることにした。
俺は野菜を切るのを手伝う。狩人が持っていた鹿肉は女性が下処理をしてくれる。干し肉はミソシルというスープに入れるとほぐれて良いらしい。
鹿肉は串に刺してイロリの炭火でしっかりと焼いていく。
簡素ながら、なかなか美味しそうな夕飯ができあがった。
「パルは先に食べててくれ。窓から見張るのは俺でも出来る」
ごはんは温かい内に食べたいだろうと思って、パルに先に食べてもらうことにした。
狩人といっしょに窓から見張る。
何事もなく時間が過ぎていくのが、どうにも不気味だった。




