~卑劣! サプライズニンジャ・推測解答編~
山小屋にいた4人。
そして、まるでこちらを見張るように現れていたオロチ。
この中にニンジャがいる。
それは――
「全員だ」
「そうなんですの!?」
ルビーが驚いた声をあげた。
まったくもって予想していなかったのだろう。
それでなくともルビーは『お人好し』な部分がある。山小屋にいた全員を信用していても不思議ではないので、今さら彼らがニンジャだったと告げられても信じられないのかもしれない。
「まぁ、推測でしかないが」
岩肌の階段のようになった場所を登りつつ、俺は答えた。
手を差し伸べて、パルとルビーを引き上げる。
「パルは分かりましたの?」
「なんとなく、みんな変だったよ」
「えぇ……変でした?」
俺とパルは同時にうなずく。
「どこで分かったのか教えて頂いてもよろしい?」
「まず一番変に感じたのは母親だな」
「どこか不自然なところなんてあったでしょうか……?」
山を登りながら腕を組んで考えるルビー。
結構な段差をひょいひょいとキモノのまま登っていく。この姿こそ違和感の塊ではあるが、正体はニンジャではなく吸血鬼。
豪奢なキモノを汚さずに苦もなく登っているのも、さもありなん、という具合か。
「決め手はなんでしたの?」
「調味料と食材だ」
「あのスープに入れたヤツですわね。美味しかったですわ」
パルみたいな感想を言うルビー。
「で、あの調味料……おミソでしたかしら。それとお野菜がどうして違和感ですの?」
「重いだろ」
「はぁ……? え?」
「女性で子ども連れで、雪山を越える。そんな時にわざわざ重い調味料なんて持ち歩くか? 野菜だってそうだ。あの場に滞在するのなら分かるが、山越えしてきたと考えると、過剰だと思う」
「言われてみれば……ですが、そういう時もあるのでは。ほら、旦那さまに会いに行ってらしたのであれば、お土産にいろいろともらったのかもしれませんわよ」
俺は、うむ、とうなずく。
「だから、あくまで推測でしかない」
「疑ってかかる、というわけですわね。これが盗賊の生き方なのでしょうか」
「そうやって生きてきた、と言うしかないかもな」
ルビーはパルを見る。
パルは、なんとも子どもらしくもない苦笑した表情を浮かべた。
孤児として生き残れた理由でもあるのかもしれないが、あんまり考えたくもない事実ではある。
「では、あの女の子がニンジャな理由は?」
「母親がニンジャなら、子どももニンジャじゃない?」
パルが答え、ルビーが呆れたような声で不満を漏らす。
「それはあまりにも乱暴な理論ですわ」
「ハハハ、そうかもしれんが。一応、演技が極端なところがあったぞ」
「どこですの?」
「オロチを発見したのは、あの少女だ。俺やパルが見ていたよりも早く見つけたぞ。ルビーの探知よりも早かったんじゃないか?」
「そういえば……そうでしたわね。あれぇ、あの時わたしは何をしてましたっけ……? サボってた覚えはありませんので、マジであの女の子が一番に見つけてるんですのね。えぇ……」
さすがにこれは言い訳ができないほどに怪しい部分ではある。
無論、偶然の一言で片付けてもいいが。
「あとは極端な演技かな」
オロチがやってきた際、パルたちが外に向かった。
そのとき、少女は酷く怯えており、母親に抱き付いている。
「はい。それが極端ってことですの?」
「逆だ。そこだけしか怯えていない。あの状況では、もっと母親にべったりとくっ付いているのが『普通』ではないか?」
残念ながら俺には母親という存在がいないので、あまり確証はないが。
それでも成人の半分程度の年齢の少女が、未知の怪物に襲われている状況で、あそこまで大人しくしていられるものだろうか。
下手をすれば、恐怖でずっと母親に抱き付いていてもおかしくはない。
「自律した賢いお子様、という可能性もあるのでは?」
「あるなぁ。だからこれも、あくまで推測だ」
そろそろ山肌に雪が見えてきた。
気温も下がってきて、息が白くなっていく。
「狩人はどうですの? 率先して見張りをしてくれていましたが、どこか怪しい部分はあったでしょうか?」
「夜の見張りだ」
「見張り? サボっている様子はありませんでしたが」
「ルビーなら分かったんじゃないか? 狩人もサムライも、山小屋の周囲を警戒していなかった」
「周囲ですか……あぁ、そういえば……?」
ルビーは昨夜を思い出すように口元に指を当てて思い出す。
彼らが見張っていたのは、途中でオロチが現れた方向のみだ。つまり、山小屋から一方向だけしか見張っていなかったことになる。
暗い夜では気配察知に頼る、という言い訳が成り立つこともあるが。
あの『明るい夜』において、視力に頼らないというのも奇妙な話だ。
「パルは山小屋の周囲を歩いて警戒してただろ」
「はい。だって、どっちからオロチが来るか分かんないんだもん」
一方向から襲いかかってくる。
正面から敵はやってくる。
そんなものは思い込みだ。
狩りに関しては盗賊の上位互換でもある狩人が、そんな判断ミスをするはずがない。
加えて、戦闘職であるサムライもまた、そんなミスを犯すはずがない。
「狩人もサムライも、気配遮断と忍び足が上手でした、という可能性はありませんの?」
「それも確認済みだ。窓のガラスが歪んでいたおかげで、パルの姿が影程度であるが見えた。月明かりのおかげだな。対して、狩人もサムライも窓から動いている様子が見えなかったんだ」
小さなパルを確認できたのに、それより大きな狩人やサムライが見えなかった、というのは矛盾する。
つまり、ふたりは山小屋の周囲を歩いていなかった、ということになる。
「なるほど。それは納得できる理論ですわ。ですが……単なる愚か者の可能性もありません? 見張りの素人だった、という話か、オロチの来る方向を過信していた、みたいな」
いいや、と俺は首を横に振る。
「全員がニンジャ、と言っただろ」
「はい?」
「オロチもニンジャだったんじゃないか」
「マジですの!?」
声をあげて驚くルビーに、パルはケラケラと笑った。
「あんな首がいっぱい付いてるヘビがニンジャって、どういうことですの?」
「忍術だろう。シュユがロープを自分自身に変化させたのを覚えているか?」
「覚えていませんわ」
堂々と宣言されると困る。
「ちょっとは思い出しなよ、アホルビー」
「わたし、これでもかなり長生きでして。覚えていないといけないことがいっぱいありますの。コップの中に水は一定量しか入りませんのよ」
「コップなんだ……せめてバケツとか言えばいいのに……」
俺もそう思った。
「おパルの記憶力に比べたら、わたしの記憶力などおたまですくえる程度でしょう。つまり、オロチはニンジャでしたのね」
「恐らく。絶妙に知能が高過ぎるんだよな、あのバケモノ」
「言われてみれば……確かに?」
しっかりとこっちを確認し、それでいて無謀に襲ってこない。
定期的に現れる伝説として残ってはいるが、モンスターでもなく野生動物でもない。また、幻想種と呼ばれるドラゴンなどの一種としては、どことなく神秘性が欠けるというか、なんというか逸話として『弱い』んだよな。
なにより大きさだ。
絶妙に小さい。
いや、人間らしい大きさである。
「3つの頭があったし、両手を上げてたんじゃないか」
俺は両腕をあげて、手でヘビの頭の形を作ってパクパクと親指を動かしてみせた。
「8つも頭があったのなら、まぁ信用したかもしれないが。3つだと簡単に偽れそうだろ」
忍術がなかったとしても。
3つ頭のヘビならば、変装スキルでぎりぎり誤魔化せそうな気がしないでもない。
まぁ、遠くから見れば、の話だが。
近づかれるとアウトだ。
「あら、師匠さんには4つ目のヘビの頭が――」
「言わせねーよ!?」
雪山に俺の声が響く。
せっかくの綺麗な風景が台無しになってしまうところだった。
危ない危ない。
「師匠が頑張れば両手両足とあそこで5個の頭が可能ってことだ。すごいすごい」
パルが乗っかってしまった。
「さすが師匠さんですわ。是非とも見たいです。頂上で大公開しません?」
「指が腐り落ちる山で!?」
恐ろしいことを言うお嬢さんたちだった。
あと――
「俺の本物の頭を忘れないでもらいたい」
5つ頭ではなく。
6つ頭です。
両手両足になんでプラス1が、股のほうなんだよ。
首だろ、首。
「あ、師匠の頭のこと忘れてた」
「はいはい。そんな下品な冗談を言う弟子は嫌いです」
「あーん、ごめんなさい師匠」
「ちょっと待ってください。わたしのことはどういう扱いなんですの? もしかして、ずっと嫌いだったとか? それだったら泣きますけど?」
「最初から下品な吸血鬼は大丈夫だ」
「それを聞いて一安心しました」
果たして安心していいのだろうか。
なんて思いつつも、そろそろ雪の地帯に突入する。
「パルは成長するブーツがあるから大丈夫だと思うが、滑り落ちないようにな。もしも俺が滑り落ちたら助けてくれ、ルビー」
「分かりました。命がけで助けます」
ありがたい話だ。
さてさて、ここからはノンキな会話をしている場合じゃない。
シッカリと雪山を登って行こう。




