~卑劣! 新しい装備は可愛いよ!~
雪山装備を整えよう。
「でもお兄ちゃん。マグがあるから大丈夫じゃないの?」
「まだ罰ゲーム続けるのか……」
うひひ、とパルがいたずらっ子な笑顔を浮かべる。
年相応というよりも幼い表現なのだが……年相応の生活ができなかった孤児だから仕方がない。
路地裏で生きていた一年間を差し引けば、ちょうど良いぐらいなのではないだろうか。
そう思った。
もっとも。
『大人の対応』をされるより、よっぽど可愛い!
「お兄ちゃん?」
「ぐぅ――!? やめてくれ、パル。やっぱ俺、お兄ちゃんに弱いわ……」
「じゃ、初めての時に取っておきます!」
「いやぁ、それだと早く終わっちゃいそうで……」
「ほへ?」
「あ、いえ、なんでもないです」
耐えよう。
耐えてみよう。
俺だって男だ。元勇者パーティの一員だ。過酷な環境や人間関係を耐え抜いた男だ。最前線で一撃も喰らわずに生き抜いてきた男だ。すべての攻撃を避け続けてきた男だ。
パルからの攻撃を真正面から受け止めてみせる!
それくらいできる!
たぶん!
「おぉ。なんかお兄ちゃんが固い決意をしてる」
よし。
まぁ、それはともかくとして。
「ヤツルギの屋敷があるというカミノトは、言ってしまえば領主の住む街だ。それなりに人の行き来があるはず」
「あ、急に真面目な話だ」
「そうですから、聞いてくださいパルヴァスさん」
「はい、先生」
お兄ちゃんより全然マシだな、先生って。
「往来があるということは、人目があるということだ。加えて、出入口が極端に限られていることを示す」
「出入口?」
「そう。山道ってのは、およそのルートが限られている。それは街道も同じなのだが、こと山道に至っては、特に重要となってくる」
「どうしてですか?」
「安全が確保された道、だからだ」
あんぜん……と、いまいち理解しきれなかったパルが小首を傾げた。
「パルは山に登るのは初めてだな。まぁ、ひとつのダンジョンだと思えばいい」
「あ、分かった。狩人の罠が仕掛けてあるんだ」
「まぁ、それも無いとは言い切れないが……どちらかというと天然の罠だな。平野ばかりを歩いていると分からない感覚かもしれないが、山ってのはいきなり崖になっていたりする。しかも、崖の寸前まで草木やヤブが生えていたりして分からないんだ」
「それって、ちゃんと前を見ていたら分かりませんか?」
「なにも断崖絶壁だけが崖じゃないぞ。ウチの家の屋上から不意に落とされたら、ちゃんと着地できる自信はあるか?」
しかもとびっきり足場の悪い状態だ。岩がゴツゴツしてるかもしれないし、ずぶずぶの底なし沼かもしれない。
「うっ……」
普段ならば着地できる自信はあっても、あくまで不意打ちのように落とされたら。
おいそれと大丈夫と言い切れないのが、山というフィールドだったりする。
「難しいかもです」
「ちゃんと想定できて偉い。自信過剰は死を招く。特に盗賊はな」
パルの頭を撫でる。
「でも、それぐらいで死なないんじゃないんですか?」
「だから厄介。足が折れたまま、死ぬまで苦しむ」
パルが物凄い痛そうな顔をした。
「落ちた衝撃でポーションの瓶も割れてしまった。自分がどこにいるのかも分からない。鬱蒼とした山の中でひとりぼっちで助けを呼んでも誰も来ない。足からは血も流れているか。このままでは生きたままケモノに喰われてしまう」
「ひぃ!?」
「という具合にならないように。山道はルートに従って登りましょう」
「分かりました! じゃぁ、監視するニンジャはそのルートを見張ってればいい、というわけですね」
「そのとおり。やっぱりパルは頭がいいなぁ~」
「えへへ~」
もう一度、頭を撫でてやる。
「セツナたちが陽動してる今、恐らく山道は見張られていると思っていい。迂回するにも相当な距離となるだろうし、下手をすれば海から回り込む必要があるかもしれん。だからといって山道を反れれば危険度が跳ね上がる。なので、旅人として溶け込む必要がある」
「変に目立たないように?」
「そのとおり。雪山に向かうんだ。温かい装備を整えよう」
「はーい」
授業はおしまい、ということでパルの頭から手を離す。
少々名残惜しいのは俺だけでなくパルも同じようで、少しだけふたりで苦笑した。
そのまま人に訪ねたりして山越えの装備が売ってる店へと移動する。
相変わらず看板の文字が読めないが……店先に出ている商品などを見ると、間違ってはいないだろう。
店内に俺たちと同じような旅人の姿もあるしな。
「ひとまず、パルのインナーだな」
「動きの邪魔にならないやつがいいです」
「そんなのがあるなら、俺も欲しいくらいだ」
店の棚を見ていくと倭国特有のキモノばかりではなく、大陸でも使われているようなデザインもある。
まぁ、倭国のキモノはスカスカというか、隙間が多いというか。
風通しという意味ではキモノが一番かもしれないが、雪山でそれは死を意味しているし、大陸風の服を扱っていてもおかしくはないか。
「あ、師匠ししょう。じゃなかった旅人さん。タイツがありますよ。これでいいんじゃない?」
ルビーがいつも履いてるような黒いタイツがあった。
パルのホットパンツの下に黒タイツか……ふむ、悪くない。いや、見た目じゃなくて防寒の意味でね。
「あとはそのお腹も隠しておきたいが……あ、すまない店員さん。彼女のお腹を守ってやりたいのだが」
「それなら、こちらにモモヒキと同じ素材で作られた下着がありますよ」
ももひき……?
どうやら、こちらではタイツではなくモモヒキというらしい。
まぁ、名前が違うだけで同じ商品だろうし、問題なかろう。
「あ、これなんかどうですか?」
同じような素材の黒いインナーを見つけたパルは身体に当ててみる。
首から手首、お腹までぴっちりと覆う黒インナーだ。
「ふむ、悪くない。むしろイイ」
「むしろ?」
「いや、防御力も上がっていい、と思ってな」
「ふ~ん。師匠だったら露出が減って残念がると思ったのになぁ……」
くっくっく。
甘いなぁ、パル。
男の子ってのはな、見えないなら見えないなりに、なんかこう、そこにエロさを感じる生き物なんだよ!
ミニスカートじゃなくてロングスカートでぱんつが見えたほうが嬉しい。
そういう生き物なんです、ごめんなさい。
「あとは……こっちのフード付きの毛皮マントでいいか」
「はーい。あっ、あたしこの白いのでもいいですか? かわいい!」
「いいぞ。俺はまぁ、無難に薄茶色にしておくか」
雪山ではパルの白いマントは姿を消すことができて良さそうだ。俺が着るには、恐ろしいほど可愛すぎるので、無理だ。諦めよう。
まぁ、茶色いのは雪山ではなく普段使いとして優秀なので、問題ないかな。
「じゃぁ、ルビーのはこれかな?」
「暗い赤だな。ワインレッドという感じか」
「おしゃれー」
まぁ、ルビーの紅にあってそうだから、これでいいか。
「あとは手袋と靴下もいくつか買っておこう。好きなのを持ってきてくれ」
「はーい」
というわけで、お会計した。
「師匠、もう着てもいい?」
「いいぞ。早く慣れておいたほうがいいしな」
「わーい」
お店にある仕切りの奥にパルが着替えに行く。
「覗いてもいいですよ、師匠」
「普通は逆を言うんだが?」
「ふひひ」
先ほども言ったように、男という生き物は見えないからこそ興奮するのです。
カーテンで仕切られただけの空間でパルが今まさに服を脱いでいるという状況を想像するだけで――あ、いえ、なんでもないです~。
「すぅ、はぁ~」
「なんで深呼吸してるんですか、師匠?」
「ちょっと賢者と神官のことを考えてる」
「なんで!?」
心頭滅却できるので。
イヤな記憶で気分を落ち込ませることができるので。
ただし、そのままマイナスまで気分が突入してしまって、憂鬱になってしまうのがこのワザの弱点だ。
「よし、問題ない」
「あたし、まだ師匠のことが分かんない」
「ふ。男心を理解するのは難しいぞ、パル」
「パル心を理解するのは簡単ですよ師匠」
簡単か。
「お肉を用意します。なんでも言う事を聞いちゃいます」
あははは、とお店の中で笑ってしまい、店員さんとかお客の人に見られてしまった。
なんでもないです、と手を少しあげて謝った。
「超恥ずかしい」
両手で顔を覆う。
「師匠って、ときどきアホですよね」
「自分でもそう思う。勇者パーティでずっと孤独だったから、その反動なのかもしれん。あと、似合ってるなパル。かわいい」
「えへへ~」
着替え終わったパルを見てそう思った。
超かわいい。
露出がゼロになったけど、ぴっちりと黒インナーが覆っているのが素晴らしいんじゃないかな。
なんというか、エロくなった気がする。
うん。
あと白いフード付きのマントも子どもらしい感じがして、ふんわりとした雰囲気もあって、かわいい。
「師匠、また賢者さんと神官さんのこと考えてるの?」
「はい。危ないので」
「なにが?」
「いえ、べつに」
というわけで、装備と情報が整ったのでカミノトへ向かおう。




