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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! ヒメノミチ~

 街道を進み続け、ようやく辿り着いたヒメノミチという街はそれなりに大きく、エンゴの城下街と似たような雰囲気があった。


「ほえ~」


 特徴的なのは街の中心部にそびえ立つ砦だろうか。

 複数の建物からなる砦で構成されており、ここが戦場だったことを安易に思い出させてくれる。

 しかし、周囲の街の様子は平和そのものであり、住人たちも普通に暮らしているのが不思議な感覚だ。


「大陸から来た者の感想でしょうか。それともわたしが魔物種だからでしょうか」

「俺も同じ感想だから大陸の感想じゃないか」


 なるほど、とルビーはうなずきパルを見た。

 俺もパルを見て、感想を促す。


「なんかカッコイイって思いました」

「時々あなたがたまらなく愛しく思います。それが今」

「なんでよぅ」


 恥ずかしがってるパルがたまらなく愛しいです。


「そういうボケはわたしの役目ですので、おパルは真面目に考えなさい。じゃないとわたしがいる意味がありません」

「はーい」


 まぁ、俺たちの意見を言った後だと、どうしても意識が引っ張られるからなぁ。

 案外カッコイイというのは住人の感想と近いのかもしれない。

 そうじゃないと、いつまでも戦争の道具など残しておかないと思うのだが……これもまた、大陸の人間の考えかもしれない。

 文化の違いってのは大きいなぁ。

 なんて思いつつ、ヒメノミチへ入る。

 ここもまた、他の街や村と同じように外壁などはなく、すんなりと街の中へ入れた。

 監視のサムライもいるが、そこまで警戒されている様子もない。


「ふむ、大きい街だし、ちらほらと旅人の姿もあるな」


 どうやら観光地のようになっているらしく、俺以外にも旅人の姿がある。そのおかげで、警戒が緩んでいるようなので、逆にありがたいか。

 さすがに護衛にふたりの美少女を連れているのは俺だけだが、大陸の者から倭国の人まで、それなりに人気のある地なのかもしれない。


「好都合だな。情報収集しよう」

「はーい」

「では、わたしはユーカクでオイランのお供をしてきます」

「それはもういい」


 行く先々でオイランに名前を売っていては、ヤツルギの屋敷に到着する頃には有名人になりかねない。

 いや、俺たちより早く情報が先へと伝播するとは思えないが、相手はニンジャだ。情報伝達手段も忍術で何とかするかもしれない。

 それくらいのことはやりそうだし、やってくるだろうと思っていたほうが無難だ。


「む。つまらないですわ。わたしにどうしろと?」

「倭国の本でも探せばいいんじゃないの?」

「おパル!」


 ルビーが瞳を輝かせた。


「あなた天才って言われない? 言われなさい。名乗りなさい」

「ルビーに言われる~。師匠に言われたい。自分で名乗るのはヤだ」


 才能はめちゃくちゃあると思いますよ。

 俺なんかより、よっぽど。

 しかし、世の中にはパルよりよっぽど才能に溢れるバケモノみたいな人間もいるので、おいそれと天才と呼べないんだよなぁ。

 まぁ、天から授かった才能でギフトと呼ばれてるので、パルの記憶力がそれに当たるんだけど。

 それを活かす盗賊と言えば、ルクス・ビリディみたいなギルドでの受付役となる。


「記憶ギフトを使うんであれば、情報役を目指すか? 結構重要ポジションで、待遇はいいぞ」

「やだ。あたしは師匠のパートナーを目指します」

「もう立派なパートナーだけどなぁ。背中を任せられる」

「ルビーみたいなのが相手でも?」


 う。

 難しい質問をなさる。

 これだから天才さまは困る。


「そんときゃいっしょに逃げるぞ。ふたりで生き延びて、しあわせな家庭を築こう」

「はい!」


 まぁ、俺はオトリになるのでパルだけでも逃げられれば俺の勝利だけどな。

 多少は泣いてくれるだろうか。

 悲しませるだろうな。

 やっぱり死ぬわけにはいかないよな。

 生きよう。


「ではわたしはおパルの命令に従って本の調査をしてきます。あぁ、仕方がありませんわよね、おパルの命令では。仕方がない仕方がない」


 そんなことをつぶやきながら、楽しそうにルビーは歩いて行った。

 キモノの少女、ということでそこまで悪目立ちはしないだろう。

 たぶん。


「あたし、余計なこと言った?」

「いや、ルビーの能力をあてにするのも危ういからな。マジで協力してくれない時もあるだろうし」

「気まぐれ吸血鬼」

「もともと、ここにいること事態が気まぐれの塊だしなぁ。今さら裏切りはしないだろうけど」


 飽きた、と言われれば、それ以上は協力してくれない。

 そういう意味では、ルビーの興味があることを引き出してくれたパルは本当に天才と言えるかもしれない。


「よし、俺たちで情報収集するぞ」

「わーい、デートだ」

「情報収集と書いてデートと読むんじゃありません」


 パルの頭をぐりぐりと撫でる。

 きゃっきゃと喜ぶパルといっしょに、とりあえず砦を目指すことにした。


「やっぱりあの砦、カッコイイですよ」

「そうだなぁ。昔は強固な砦だったんだろう。なかなか攻めにくそうだ」

「高いところにありますもんね。あそこから魔法とか弓矢とか撃ってくるんでしょ。うへ~」

「しかも一ヶ所だけじゃなく、左右からもある。本体を落とすには左右から攻めないといけないが、そこを狙ってると削られていく、という具合かな。う~む?」


 砦を見ると攻略したくなる。

 男の子あるあるだ。

 勇者と戦士といっしょにあーだこーだ言いながら砦を見物していたのが懐かしい。

 賢者が仲間になった後は、すんなりと攻略方法を提示されるものだから、あんまりしなくなったんだよなぁ。

 天才軍師にも困ったものだ。

 遊びがない、遊びが。


「さて、情報収集だが……」


 周囲を見渡し、俺の他にも砦を見上げている旅人に声をかけてみる。


「やぁ、旅人さん」

「おや、なんでしょうか旅人さん」


 少しボロボロになったローブをかぶっている女性だった。目の色が黄色なので、恐らく大陸から来たんだろう。

 にこやかな表情で返事をしてくれるので、話しやすそうな雰囲気がある。


「倭国を旅しているんだが、ヤツルギの屋敷があるカミノトという場所へ行ってみたいんだ。どこか分かるかい?」

「あぁ、それは大変な旅になるね」


 大変……?


「カミノトはあっちだよ」


 彼女が指差したのは砦……ではなく、その向こうに見える山だ。

 それなりに標高が高く、春が来てそれなりに経っているというのに、まだ雪が残っているほど。そんな山々が連なるようにして、どーんと壁のようにそびえたっていた。

 迂回しようにも、迂回する場所がないように思える。


「あの山を越えた先がカミノトだ」

「あれを越えるんですか。うへぇ」


 パルの正直な気持ちに女性といっしょに苦笑する。


「険しい山ではあるが道はちゃんと舗装されているよ。無論、油断すると命の危険があるので、しっかりと準備はすることだ」

「なるほど。このヒメノミチは山越え前の準備で栄えた街、という感じですか」

「そうだろうね。このような街は倭国では多い。険しい山が多いから、なのかもしれないね」


 旅人の醍醐味、というやつを女性は噛みしめている。

 定住せず、各地を放浪するなぞ数寄者ではあるのだが、自然や歴史、土地や街の成り立ちに興味のある学者肌とも言えるかもしれない。


「ちなみに、この砦はどこから攻略しますか?」


 興が乗ったので、そんな質問をしてみる。


「おっと、難しい質問をしてくるね旅人さん。う~む、私なら兵糧攻めを狙うかなぁ」

「やはりそちらですか」

「ここまで強固だと直接の攻略が難しそうだ。ならば補給を断つのが一番だ。幸いなことにあの山があるだろ」


 女性は連なる山々を指差した。


「つまり、後方を警戒しなくていい。こちら側からの補給を断てば攻略できるはず」


 そう答えてから肩をすくめた。


「空論だけどね。そんなことは砦側も百も承知だろうから、早々上手くはいかないだろうし。君ならどうする?」

「兵糧攻めに加えて毒でしょうか。井戸に毒を入れて使えなくしまう。短期で決着が付くはず」

「ひどい案を出すなぁ、君。せっかく砦を攻略しても、自分たちで使えないじゃないか」


 ですね、と苦笑する。

 なにより、どうやって毒を井戸に放り込むのか。

 やはり空論でしかないなぁ。


「パルは何か案はあるか――どうした?」


 なんかご機嫌ナナメっぽいけど。


「旅人さん、仲良さそう」

「え~」


 ちょっとお話してただけなんですけど……?


「護衛者と旅人との仲は自然と深まっていくと聞いたことがあるが……旅人さん、その年齢の少女に手を出すのはどうかと思う」

「待て。待ってくれ。違う。神に誓ってもいい。聞いてくれ。手は出してない」

「うろたえるところが怪しいな。おいおい、護衛ちゃんも気をつけるんだ。考え直したほうがいい。まともな大人は君を子ども扱いする」

「この旅人さん、あたしのこと大人扱いしてくれないです」

「それは正解であり、正しいのだが……んぅ?」


 女性が悩んでしまった。


「質の悪い冗談はやめてくれ、パル。相手を困らせていいことなんて、ひとつもないぞ」

「えへへ~。ごめんなさい」

「なんだ冗談か。私も誤解して悪かったよ」


 いいえ、真実なのであなたは何も間違っていないです。

 間違っているのは俺の性癖です。

 改めまして、自分がどれくらい狂っているのかを客観視できて良かったです。

 ありがとうございました。


「山越えに注意することってありますか? 護衛として聞いておきたいです」

「見てのとおり、あの山は標高が高く寒い。しっかりと指を防御しないと指先が腐り落ちることもあるそうだ」

「えぇ!?」


 思わず自分の指先を見るパル。

 革グローブを装備しているのだが、投げナイフにおける指先の感覚は重要なので穴開きを使っている。

 つまり、このままの装備では指が凍り付いて腐り落ちてしまうようだ。


「よっぽど長い時間を滞在した場合の話だが、一応注意したほうが良いよ。がんばってね、小さな護衛ちゃん」

「頑張ります!」


 それでは、と女性は手をあげて行ってしまった。


「師匠。指って腐るんですか?」

「経験したことはないが……まぁ、氷漬けになった指がどうなるかと想像すると、腐るのも分かる気がする」


 うへぇ~、とパルが顔をしかめている。


「恐らく山越えに適した道具を売る店があるはずだ。そこで装備を整えよう」

「手袋、大丈夫かなぁ」


 感覚はかなり狂うことになる。


「戦闘になれば、外すほうが無難だろう。一手遅れるが、かじかんだ手で戦うより、よっぽどマシだ」

「そっか~」

「まぁ、パルは手袋云々と言う前に薄着過ぎるんだよな。お腹も太ももも隠していこう」

「あはは。見れなくなって残念?」

「うん」

「師匠のえっち、すけべ、童貞」

「全部事実なので、甘んじて受け入れよう」

「ひとつだけ消す方法、あたし知ってます!」

「パルは賢いなぁ。俺にはさっぱり分からない」

「ダウト」


 嘘には本当のことを混ぜればいい。

 パルは賢いという真実を混ぜたんですけど、ぜんぜんダメでした。


「罰として、師匠は今日だけあたしのお兄ちゃんね」

「それはご褒美なのでは?」

「にひひ~」


 まぁ、パルが嬉しそうなので別にいいか。


「お兄ちゃん、顔がめっちゃ緩んでる」

「顔がめっちゃ緩んでる旅人の偽装をしてるんだ、妹よ」

「なるほど。お兄ちゃんも天才だったか」

「パルには負けるけどな」


 うへへへへ、とふたりで笑い合ってから。

 山越えの道具屋を探して砦を後にするのでした。

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