~卑劣! 氷護へ向けて出発だ~
朝。
なんというか、眠っている間に物凄くしあわせな夢を見た気がするが……
現実ではもっとしあわせだったので、なんというか損をした気がする。
「もったいない」
両手に花。
両手に美少女。
両手にロリとロリババァ。
いや、そこまで言ってしまうと下品だな。
すまない勇者よ、俺は調子に乗っていた……
「寝てしまったのがもったいない」
この現実を甘く噛みしめておきたいものだが、なんというか、よく我慢したな俺……という感想のほうが強い気がする。
今でも腕にしがみつくようにしているパルがいるし、反対側には寝たフリを続けているルビーがいるので。
いつでも、なんかやろうと思えばできる。
でも、それをやってしまっては大人の責任というか、常識的にというか。
せめて。
せめてパルが成人になるまでは待たないといけないよね。
「……」
そういう思いが、俺を普通の範疇に留めてくれる。
これも全部、勇者パーティだったおかげ、だろうか。
もしも勇者が勇者でなければ。
アウダクスが単なるアウダとして、いっしょに冒険者でもやっていたとしたらば。
今ごろ、俺は連続幼女誘拐犯として名前を馳せていたかもしれない。
「いや、最低だろ」
「わたしがですか?」
「んぅ……? もう朝ぁ……?」
最低最悪な『もしも』の自分にツッコミを入れたところでルビーとパルが反応した。
「おはよう、パル」
「おはようございましゅ……ふあ~ぁ~」
「眠そうだな。だいじょうぶか?」
「久しぶりになんかすっごく深く眠れた気がするぅ……ふあ~ぁ~」
そのわりには眠そうだなぁ。
「あら、わたしもですわ。あんまり眠る必要はありませんが、よく眠れました」
「そうなのか」
「えぇ。これもすべて師匠さんにくっ付いていたおかげです。そうだ、これからは毎日これで眠りませんか?」
「あたしもそれがいいと思う」
「却下だ」
えぇー、と不満を述べる美少女たちを腕から引き剥がすように立ち上がると、さっさと朝の準備に取り掛かる。
「ほら、パルも。顔を洗わないとせっかくの可愛い顔がもったいない」
「ぶぅ。何点減ります?」
「3点だな」
「それ、現時点で何点ですの?」
「2億9999万9997」
にへへ~、とパルが嬉しそうに笑った。
「のろけもいいところの点数ですわね。ちなみにわたしは何点でしょうか?」
「3億だ。ほれ、パルも3点取って追いついてこい」
「はーい」
お上手ですこと、と笑うルビーを置いて、それぞれ準備に取り掛かる。トイレに行って、宿の裏にある井戸で顔を洗い、部屋に戻ってくると装備点検をした。
「ほれ、手伝ってやる」
「はーい」
俺のほうが先に終わったので、パルの装備を手伝ってやる。
「師匠ししょう。太もものツールバック、師匠が付けて」
「そんなエロすぎること、朝からはできん。夜ならば危なかった」
「ルビー、今すぐ夜にして」
「無茶を言いますわね。それこそ神か精霊女王に頼んではいかがでしょうか。あの憎き太陽を沈めてくださるかもしれませんし、月が太陽を蹴っ飛ばしてくださる可能性もゼロではありませんわ」
「じゃぁ、光の精霊女王ラビアンさまに――」
「「やめてください」」
俺とルビーふたりで同時に止めた。
普通に怒られそうなので。
「こんなことで精霊女王の怒りを買いたくありませんわ。特に光は最悪です。せめて闇の精霊女王にしてくださいな」
「大丈夫だよ、ラビアンさま優しいし」
「優しさに甘えていると、いつか痛い目をみますわよ。優しい人とは我慢している人なのですから」
あぁ~、なんとなく分かる。
さすが長年を生きてるだけはある吸血鬼だ。
含蓄あるなぁ。
「師匠は優しいけど、我慢してる?」
「そんなつもりはなかったけどな。でも、我慢はしてる。昨日の夜とか」
「あはは。師匠、もうあたしに優しくしなくてもいいですよ」
「でも、初めての時は優しくするべきだろ」
「あ、確かに。え~、ねぇねぇルビー。どうしたらいいの?」
「こう言ってあげなさいな」
ルビーはこしょこしょとパルに耳打ちした。
ケラケラと笑いながらパルはうなずくと、俺を見て笑いながら言う。
「師匠ってばドーテーのくせに」
「ぐぅ……!?」
心にダメージが入った。
いや、悪いダメージではなく、なんというか、小生意気に煽ってくるメスガキのような雰囲気に危うく『大人』を見せつけたくなってしまったかのような、そんなダメージ!
「効いた? 効きました、師匠?」
「あぁ。危うく優しさを捨てるところだった」
つまり。
我慢できなくなるところだった。
危ないあぶない。
そんな感じできゃっきゃしつつ装備点検まで終わらせると、宿を後にする。
「朝食を食べてからヒューゴへ向けて出発する。旅の準備をするので、なんか必要なものがあるのなら、食べてる間に考えててくれ」
「お肉ほしい」
「干し肉か。分かった」
「あたらしい下着が欲しいですわ。倭国のぱんつ」
「あ、はい」
「ですが、キモノだとぱんつを履かないというのも良いそうで。どちらがいいでしょうか?」
「履いてくれ」
「師匠さんがそう言うのなら、仕方ありませんわね。選んでくださる?」
「パル、選んでやってくれ」
「ダッサイのにしてあげるね」
「なんでですのよ!」
という感じで、わっちゃわっちゃと朝食と買い物を済ませると、エンゴの城下街から出発した。
方角は北へ。
「乗り合い馬車とか無いんですね」
「倭国は基本的に歩きの文化だ。もともと、この島には馬がいなかったのかもしれん」
海を渡らないといけないので、馬がこちらに移り住んでいない、みたいな話だろうか。もしくは大陸から運ばなかったのかもしれない。
それにしては牛とか豚とか鳥とかはいるので、馬だけいないっていうのも変な話だけど。
「もしかして、馬もモンスターの一種であった……とかいう話はないでしょうか」
「馬は死んでも消滅することはないぞ。馬の肉だって食べる地域はある」
日出ずる国、での話だが。
あそこは食にうるさいというか、食に本気を出し過ぎてる国というか。義の倭の国と似ているようでまったく違うという奇妙さがある。
そういう意味では、こちらにも馬がたくさんいてもおかしくはないと思うのだが。
「分かった。みんな食べちゃったんだ」
「その結論はどうなんですの、食いしん坊さん。倭国の人間種が、みんなあなたみたいではなくってよ」
「え~、違うかなぁ~」
違うと思います。
「エルフや有翼種が少ない、っていうのもポイントかもしれんな。なんにせよ、歩いて移動するしかないんだが……」
俺はちらりとルビーを見た。
「眷属召喚ですわね。別にかまいませんが、目立ってしまいませんか?」
「人目が無いところだけ頼む」
「了解ですわ。それこそオオカミよりお馬さんに乗るほうが目撃されても安全でしょうか」
そうだな、と俺はうなずく。
土地勘がまったくないので街道を外れるのも怖い。
だからといって目立ち過ぎれば、せっかくセツナたちが陽動してくれる予定が台無しになってしまう。
「早すぎてもダメ、遅すぎてもダメ。なかなか難しいな」
最南端から北上してくるセツナたちを、どのタイミングでヤツルギ家は把握するのか。
また、その対応でどう動いてくるのか。
それらを見極めつつ、七星護剣の在処を探らなくてはならない。
骨が折れるというよりも、骨を折って探すしかなさそうだ。
「ともあれ。とりあえず、ヒョーゴに向かわないと話にならない」
「はい」
「了解ですわ」
倭国の街道を歩き、北上する。
さて、旅人らしく旅をすることにしようか。




