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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! まずは炎護へ~

 シュユが呪文のようなものを唱え、忍術を起動させる。

 仙人の術――つまり、仙術だ。それは魔法とは異なり、魔力で発動しているわけではないそうだ。

 だからこそニンジャが使えるわけだが……生まれつきの才能でしか術を行使することはできず、使えない者はどんな修行を経たとしても絶対に使えないそうだ。

 俺やパルは絶対にニンジャになれない。

 残念だ。


「盗賊の上位互換だなぁ」


 目の前にいるのに、荷物ごと姿が消えてしまうシュユ。

 気配遮断はしていないので、まだシュユがいることがギリギリ感知できるが……少しでも気配を断つとどこにいるのか分からなくなる。

 味方でいるうちは頼もしいが……


「これから、ニンジャを相手にしないといけないかも、なんですよね」


 パルが難しそうに、うにゅぅ、と唸った。

 似たような声を俺も発したかもしれない。


「気配察知を研ぎ澄ますことだ。わずなか風の流れも見逃さず、周囲の音に気を張っていれば、無茶な話ではない」

「意外と分かるもんさね」


 常にシュユといっしょにいるセツナとナユタには分かるらしい。

 つまり、まだまだ俺たちの修行不足ということだ。

 いやいや、永遠に気配察知で周囲に気を張り続けることなど不可能ではないだろか……


「あたしできるかも」

「そうなのか?」

「路地裏ってそんな感じだったし」

「あぁ~……」


 そうか。

 そうなってしまうのか。


「俺はぬるい環境で育ったようだ」


 親に捨てられた人間であっても、能力に差がついてしまうらしい。

 もっとも。

 それが良いことだとは思えないし、思わないほうがいいんだろうけど。


「では、頼みましたよ」


 セツナは商人モードに雰囲気を変えて歩き始める。その後ろをナユタが付いていった。

 俺は精神を集中させ、気配を読む。

 なんとか、ぺこり、と頭を下げてからセツナに付いていくシュユの気配を読み取ることができた。


「分かったか、パル?」

「な、なんとか」


 路地裏の経験と俺の人生経験はかろうじてイコールで結べるようだ。

 しかし、怖いのは砂浜に足跡を残さないシュユの歩方技術だろうか。セツナかナユタの足跡に自分の足を重ねているんだろうけど、その技術がひたすら高い。

 一流の盗賊であると自負している俺だが。

 やはり、ニンジャはその一流を軽く越えてくる。


「すまんが、ルビーに頼ることが増えそうだ」

「やぶさかではありませんが、つまんなければお断りしますわよ。義の倭の国は初めてですので、見物したいですわ」

「え~、手伝ってよルビー。師匠を困らせないで」

「そう言われると、ますます困らせたくなりますわね。さて、どうしようかしら」

「じゃ、手伝ってくれなくていいもん。そのかわり、ルビーのマグは没収ね」


 ルビーのマグは太陽の光を防いでくれている。

 昼間でも吸血鬼の能力を使えるようになったルビーだが、それを外してしまえば単なる吸血鬼。

 太陽の下では相変わらず燃え上がってしまう。


「わたしに死ねと」

「うん」


 きぃ、と楽しそうに声をあげてルビーはパルに掴みかかる。

 いつものケンカが始まったので、俺はふたりの頭を押さえて引き離した。


「ふざけてないで、とりあえず転移するぞ。俺は旅人で、ふたりは冒険者として護衛の依頼を受けたことにする。何か質問はあるか?」

「ないでふ」

「ありまへんひゃ」


 舌を引っ張られているパルと口を横に広げられているルビーから返事を聞き、俺はコツンと転移の腕輪同士をくっ付けた。


「転移するぞ。置いていかれたくなかったら掴まれ」

「はーい」

「了解ですわ」


 魔力のチャージも終わっているので、遠慮なく転移して先へ進もう。

 ふたりがしっかりと俺に掴まったのを確認してから、俺は起動キーを唱えた。


「アクティヴァーテ」


 視界が真っ暗になったかと思うと、入れ替わるように景色が変わる。先ほどまで浜辺だった景色が、一瞬にして森の中になった。

 ふわり、と浮いていた体が地面へと引っ張られ、転ばないように着地する。


「ここは……なんですか、これ?」


 きょろきょろと見渡したパルだが、大きな石が積まれているのに注目した。

 石垣ではなく、適当な大きさの石が腰ほどの高さまで整頓された形で積まれていて、その上に岩が置いてある。その岩の一面が平に削られており、なにやら文字が彫られていた。


「読めませんわね。倭国の文字でしょうか」


 かなり古い時代に作られた物らしく、風雨で浸食されコケも生えている。判読しようにも、まるで読めない。

 旧き言葉に近いものではあるんだろうけど、それを認識したとしても読めるものではなかった。


「昔のお墓らしい。以前、勇者たちとここへ来たんだ」


 ちょっとした依頼だったのだが、印象深く覚えている。

 このお墓に祀られているのは倭国の『名も無き神』らしい。忘れられ、祈ることもなくなった倭国の神は荒ぶる邪神と成り果てる。

 そんな言い伝えがあるので定期的に手入れをされているらしいが、運悪くこのあたりにモンスターが発生してしまい、管理している一族が近づけなくなった。

 ということで、モンスターの討伐とお墓の手入れを頼まれた。


「――そんな依頼だった。誰とも知らぬ神のお墓だ」

「ほへ~。じゃぁ、お祈りしたほうがいい?」

「そうだな。ついでに祈っておくか」


 俺とパルは目を閉じて、名も知らぬ神に祈りを捧げる。

 残念ながらこちらの作法を知らないので、これで合っているかどうかは分からないが。それでも無視するより、よっぽどマシだろう。

 どうぞ、安らかにお過ごしください。

 そう願うように、祈っておいた。


「ふ~ん」


 ルビーは興味深く石や岩を観察していた。

 神さまも魔物種に祈られるのは本望ではないかもしれないので、これはこれでイイのかもしれない。


「さて、行くぞ」


 ふたりの返事を聞いてから、岩に掘られた文字が向いている面を参考にして森の中を進む。

 確か、街の方角を向いていたはずだ。

 枯れ葉や枯れ枝が散乱し、獣道も把握しにくい。

 どうやらしばらくの間は誰も来てないらしく、なんとも名も知らぬ神がかわいそうになってくる。


「師匠ししよう。エンゴの街で気をつけることはありますか?」

「そうだな。まず、俺たちは思いっ切り目立ってしまうのでジロジロと見られることが多い」

「そうなんですか?」

「あぁ。セツナとナユタみたいなキモノと呼ばれる服装をしていることが多くてな。俺たちみたいな服装はあまりいない」

「冒険者でも?」


 あぁ、とうなずいた。


「冒険者は少ない。あと、装備品が違うんだよな。この国の装備品はなんというか独得なんだよ。マジで文化が違う」


 蛇腹のように板を並べたような鎧だとか、装飾品が額に付いている兜だとか。

 そういう意味では、セツナの仮面も兜と言えるかもしれない。


「あと、極端な話にはなるのだが、パルの髪色が非常に珍しい」

「ほえ」


 パルは思わず自分の頭を触る。

 綺麗でサラサラな金髪だ。出会った時はガビガビにくすんだ黄色をしていたが、今では綺麗な金色をしている。


「倭国の民は、ほぼ黒髪ばかりのニンゲン族ばかりだ。茶色や赤色、白色の髪はいるんだが、金髪のニンゲンはまずいない」

「ほへ~、そうなんだ」

「あぁ。だからイヤでも目立つ」

「う……どうしましょう?」


 フードでも被るしかないだろうな、と俺は苦笑する。


「師匠さん、先ほどニンゲン族と仰いましたが。他の種族はいないんですの?」

「大陸のほとんどの国でもそうだと思うが、ほぼニンゲン族だな。エルフはまず間違いなくいない。有翼種もいないんじゃないかな。ドワーフと獣耳種がちらほらといる程度で、ほとんどがニンゲンだ」


 どうしてニンゲン種ばかりで、エルフも有翼種もこの国に来ないのか。

 理由はその種族になってみないことには分からないのかもしれない。


「では、わたしはキモノにでも着替えます。黒髪ですし、それだけで変装できるでしょう」

「いいなぁ。あたしもキモノ着たいけど……」

「俺たちは装備品の関係で無理かもしれんな」


 投げナイフを隠し持っていたりするので、そう簡単に服装を変えられない。

 キモノは男女で大きく違っている。

 男性用はゆったりと体のラインを隠すような作りになっているので、逆に隠せる場所が増えるっちゃぁ増えるのだが……いつもと勝手が違うのはミスに繋がりやすいからな。

 やめておいた方が無難だろう。


「俺は旅人として偽装できるだろうけど……パルは冒険者のままか。う~む。護衛の他に何か良い手はないものか……」

「うぅ、あたし足手まといだ」


 まぁまぁ、とルビーといっしょに慰めた。


「この際、家族とすればいいんじゃないでしょうか。いっしょに旅行中ということで、よろしいのではなくて」

「んふ。師匠のお嫁さんならいいかも」

「あ、いえ、師匠さんの娘」

「なんで娘なのさ!?」


 いや、まぁ、お嫁さんより娘のほうが自然なので、ルビーは何も間違っていない。

 間違っているのは俺の性癖だ。

 いや、俺の性癖を甘んじて受け入れているパルも間違っているのかもしれない。

 うん。

 とても難しい話だ。


「とりあえず当初の予定通り冒険者で頼む。状況によっては、娘ってことにしてもいい」

「分かりました。師匠の護衛になります」

「そっちのがいいのか?」

「はい。貧乏な師匠に雇われたレベル2の冒険者です」

「……説得力があるなぁ」


 大した経験もしていないレベル2の冒険者(美少女)を雇うおじさん。

 その情報だけで、俺を見る目が白くなりそうだ。

 しかも、嘘をついていそうな設定なのに、なにひとつ嘘になっていない気もする。

 いや、貧乏じゃないんだけどね。


「あ、見えてきましたわよ」


 森の木々がまばらになってきたところで、遠くに建物が見えてきた。

 義の倭の国ではモンスターの被害が少ない。というわけで、大きな塀や城壁などはなく、学園都市と同じような感じで建物で街の内外の境界を表しているような感じだ。


「お~。黄金城で見たのとそっくりだ~」


 森を抜け、街が見えてくるとパルが声をあげる。

 黄金城では区画ごとに住民が別れていたのだが、その倭国区画と同じような雰囲気がただよっていた。

 まぁ、本来はこちらが本家本元であり、黄金城側をそっくりと表現するべきなのだが。

 先にそちらを知ってしまっているので仕方がない。

 もっとも――


「師匠、あの大きくて白い建物ってなんですか?」


 一ヶ所だけ、まったく違う部分がある。


「あれが倭国の城だ。エンゴは、いわゆる王都だからな。あそこに倭国の王が住んでいる。名前は……なんだったか。まぁ、エンゴ王と呼んでおけば問題ない」

「ほへ~。ぜんぜん違うんですね。砂漠の国も変わってたけど、もっと違う感じ」

「文化がまったく違うよな。面白いものだ」


 大陸の城は石で作られていることが多いが、倭国の城は石垣こそあるものの、真っ白な壁で覆われている。

 なにか特別な色でも塗られているわけではなく、そういう素材なのかもしれない。

 そんな城に対して普通の建物は木製の物ばかりであり、火事が大変だとも聞いたことがある。

 燃え広がりやすいので、放火は殺人よりも重い大罪だとか、なんとか。

 できればそれはやりたくないな。

 なんて、思いつつエンゴの城下街へ到着した。

 街道から街へと入る際、サムライが近づいてくる。


「旅の者か」

「えぇ。そちらは?」

「失礼。拙者は監視をしている。まぁ、分かりやすい悪人などいないので、こうして声をかけさせてもらっておる。荷物を検めてもよろしいか?」

「もちろん」


 俺は背負っていたバックパックをおろして、見せる。

 パルも背負っていたランドセルを見せた。


「そちらの娘子らとの関係は?」

「あたし、冒険者だよ。ほら」

「わたしもですわ。護衛任務で雇われました。夜道が怖いと情けないことを言われる殿方でして」


 冒険者の証であるプレートを見せながらルビーが余計なことを言う。


「はっはっは。倭国の夜は大陸よりも暗いか。少し月と星が遠いのかもしれんな」

「臆病なもので申し訳ない」


 苦笑しつつ頭をかいておく。


「それくらいが旅をするのに丁度良いのであろう。足を止めて悪かった、旅の者よ。冒険者殿も、ごくろうである」


 無事に通してくれるらしい。


「そうだ。頃合いの宿を探しているのだが、おススメはあるだろうか」

「ふむ。それなら『喜楽亭』が良かろう。少し部屋は狭いが、安くて良い宿だ」

「ありがとうございます」


 衛兵サムライに礼を言ってエンゴの城下街へと入った。

 さて。


「まずはその『キラク亭』に行ってみるか」

「はーい。部屋はいっしょですよね。お金ないし」

「仕方ありませんわね。依頼者と同じ部屋で泊まるのは不本意ですが。あぁ、仕方がない仕方がない」


 なぜか貧乏設定が確定してしまっている。

 まぁ、いいか。

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