~卑劣! 闇に紛れて生きる者たち~
さて、ナーさまが天に帰られたのはいいが。
「ちょっとした事故現場に見えるな……」
なにせ肉体は残されるので、台座からそのまま倒れ落ちているように見える。
そのままにしておくわけにはいかないので、倒れたナーさまの体をみんなで椅子の上に座らせた。
めちゃくちゃ軽いのでサチひとりでも大丈夫そうなのだが、さっきまで神さまが入っていると思うと、なんとなく手伝わないといけないよな、と思ってしまう。
やっぱり神さまっていうのは、気安く接していてもどこか凄い存在だと深層心理に刻まれているのかもしれない。
もしくは、美少女でカワイイからついつい、という可能性も……
「……エラントさん、ナーさまが笑いながら怒ってる」
「あ、すいません」
それはさておき――
「サチはどうする?」
いっしょに来るか、という質問にサチは首を横に振った。
「分かった。ありがとう」
「またね、サチ」
「大神ナーの体は、もともとわたしの影です。それをお忘れなきよう、伝えておいてくださいな、サチ」
「……ふふ。またね」
おだやかに笑うサチだが、すこし心残りがありそう。
まぁ、いつもパルたちとキスしてお別れしてるもんな。今は時間が無さそうなので、そんなヒマもなく、神殿の入口まで移動する。
「おっと、キスするのを忘れてましたわ。サチ、やりますわよ」
いや、まぁ、おまえはそういうヤツだよルビー。
パルの分までたっぷりやっててくれ。
「わぁ……」
シュユが興味津々で見ていた。
「おーい、シュユ」
「ハッ!?」
ルビーとサチのキスに心を奪われていたシュユだが、すぐに意識を取り戻す。
気持ちは分からなくもないが、今は優先順位を遵守したい。
「どうだ、シュユ」
入口の扉から周囲をうかがう。
状況は何も分からないが、どうやら監視されているらしい。それはあくまでシュユが監視されているようだが、その対象には俺たちも含まれてしまうようだ。
ナーさまに邪神について聞きに来たときも気配があったが、それ関連だろうか。
「学園校舎に移動してください。シュユがオトリになるのでお願いします。監視者をまいたら、そっちで合流するでござる」
「分かった」
そう告げるとシュユは素早く外へ出る。
それを見送る形で、周囲の動く気配を探った。
「何人か、シュユちゃんを追った……?」
「そうだな。行くぞパル、ルビー」
返事を待たずに外へ出た。
後ろからのサチの視線に答えつつ外へ出ると、大通りからすぐに路地へと入る。
「このまま大通りを利用せずに学園校舎を目指す。何かあったら、遠慮なく叫んでくれ」
「はい」
「分かりましたわ」
下手に隠れながら移動すると、それはそれで逆に怪しまれる可能性もある。
加えて、相変わらず騒々しくてにぎやかなのが学園都市だ。こそこそとする方が目立つかもしれない。
乗り合い馬車に乗り込むのがいいのかもしれないが、当たりハズレがあるからな。
運が良ければ早く到着するが、悪ければ歩くのとそう変わらないパターンもある。
だったら、移動中に身動きが取れない馬車よりも徒歩のほうが融通が利く。
「どうだ?」
「誰も付いてこないみたいです。安全そう?」
「ニンジャ娘にメロメロのようですわね。うまくオトリになられたのではないでしょうか」
つまり、今のところ俺たちの存在は露見していない状況を作れた。
そこを重要視した可能性があるな。
もっとも、見つかってしまったら、それはそれで問題ないのかもしれない。
う~む。
いまいちセツナたちに何が起こっているのか想像できないな。
七星護剣に関連したことだとは思うが……
なんて考えている間にも学園校舎が見えてきた。それと同時に周囲のにぎやかさもアップしていく。
近づけば近づくほど、監視が難しくなるというか気が散りまくるような状況が増えていくわけで。
なるほど、潜伏したり隠れたりするには、学園校舎が一番かもしれない。
「そういう意味では、犯罪者の巣窟だったりするのだろうか」
できれば、そんな状況になっていないことを祈りつつ、校舎に入った。
「ふぅ」
パルが息を吐いているが――
「まだ合流してないぞ。油断しないこと」
「あ、はいっ」
気を抜くには早いので、ポンポンと背中を叩いておく。
「合流はどこでするのでしょうか。そもそもサムライ仮面とハーフ・ドラゴンしっぽ娘はどこにいまして?」
あだ名が酷いことになってるなぁ。
「十中八九、学園長の元だろうが……目立つかもしれないな。ふむ?」
「目立つ場所ですが、近寄る者は少ないですわよ」
確かに、中央樹を監視するのは不可能、という状況でもある。
「確かにな。あと校舎に潜伏してるんじゃなくて、あくまで合流する場所として設定されたんじゃないだろうか」
「そうなんですの?」
「むしろ、セツナもナユタもバラバラにいて、全員でここを目指している。と、俺は思ったのだが、どうだろうか?」
「分かんないです」
「説明しないニンジャ娘が悪いですわ。合流したら揉みしだいてやります」
やめてあげてください。
あと、パルはちゃんと思考してください。
「そう考えると、やはり学園長のもとへ行くのが正解か」
「はい、行きましょう」
だからちょっとは思考してください、パルヴァスさん。
「あたしの考えなんて、師匠の足元にも及ばないですよ」
「それでも思考は大事だ。考えたことを述べよ」
「師匠大好き」
「ありがとう」
えへへへへ、とパルと向かい合って笑ったらルビーに背中を叩かれた。
「真面目にやりなさい、バカ師弟」
「あい、すいません」
「アホに怒られた」
ま、いいや。
とりあえず学園長の元へ行ってみよう。
「ルビー、警戒を強めてくれ。何かあったら頼む」
「ラークスくんとデート一回で請負いますわ」
「分かった」
「そこは悩んでくださいまし。いいんですか、一線を越えますわよ」
「ルビーの線はどこにあるんだよ」
「このあたり?」
パルが移動する俺とルビーの間に縦線を引くジェスチャーをした。
「近づいただけで一線を越えてしまうじゃないですか、おパル」
「むしろ師匠と離れる方向で一線を越えて欲しい」
「いま越えてる状態なんですの!?」
にぎやかだなぁ~。
とても警戒しつつ移動しているようには思えないが……学園校舎内がもっと騒々しいので、逆にカモフラージュになるのが恐ろしい。
そんな場所である学園都市が恐ろしい。
今もどこかで爆発がした。
毎度思うのだが、何が爆発してるんだろうか。というか、爆発するような実験を校舎内でやらないで欲しいのだが?
まぁ、言ったところでこの学園の生徒が話を聞くはずもなく。寝不足とイカれた頭で謎の解釈をして目の前で爆発するところを見せられかねないので、近づかないのが吉だ。
さて学園校舎を移動していく。
中央樹に向かって移動していくと、どんどん静かになっていった。剥き出しの根っこを飛び越えつつ薄暗くなっていく廊下を進んでいく。
「師匠さん」
「どうした?」
「います」
なにが、と答える前にルビーが動いた。
音もなく飛ぶように前方へ走ると、ルビーの姿が物陰に消える。
「ッ!?」
影に沈んだわけではない。そこが暗闇で見えなくなっていたのだ。
「パル」
「はいっ」
警戒をうながし、後方へ意識を飛ばす。
前方をパルに任せて素早くパルと背中を合わせるようにして後方へ向いた。
こちらが警戒を強めたことに関して、動いたりする気配は無し。そのまま後方を警戒しつつ、パルに前へと進んでもらい、ルビーが消えた場所まで移動した。
物陰になっていたのは、大きな木材が立てかけてある場所。そこには人がひとり隠れる隙間すらないはずだが、ルビーの姿は消えている。
だが、そこにはルビーの気配が確かに感じられ、くぐもるような男の声が聞こえた。
なんだ、と思っていると何も無い空間からルビーの姿がヌッと現れた。
「うわぁ!?」
パルが驚くのも無理はない。
マジで何もない空間からルビーの頭だけが出てきたので、生首に見えた。
ちょっとしたモンスターに見えなくもない。
「この男が潜んでおりました」
何も無い空間が途端に霧散して、単なる物陰になる。
暗いことは暗いが、なにも見えないほどの闇ではなく、あくまで影になっている程度。
どう考えても異様な光景だった。
ルビーが捕らえたのは、黒い装束に全身を包んだ男だった。目元だけしか見えておらず、非常にシンプルな姿をしており、武器の類も持っていないように思える。
首を鷲掴みにしているせいか、男の意識はなくグッタリしており、手足は弛緩していた。
「殺しちゃったの?」
どうにも息をしている雰囲気はない。
「掴んだだけでこうなりました。誓って殺してはいませんわ」
「離すな」
「え、はい」
床に捨てようとするルビーに注意して、その状態のままロープで拘束する。
う~む、最近拘束することが増えてきたな。
ちゃんと捕縛スキルを習得しておけば良かった。モンスター相手に捕縛なんてしないので、覚える機会が無かったもんなぁ。
なんて思いつつ、ぐるぐる巻きにしておく。
その状態になって、ようやくルビーに手を離してもらった。
「何をそこまで警戒してましたの?」
「死を偽装しているかもしれん。仮死状態というやつだ」
先ほどのまったく見えなかった空間といい、この装束を鑑みて、ひとつ思うところがある。
なにより、セツナたちが狙われているような状況をプラスしてみれば――
「恐らくニンジャだ」
盗賊の上位互換たる存在。
ニンジャ。
「あ、もしかしてさっきのって忍術?」
「恐らくは。仙術や忍術でもない限り、あれは無理だろ」
隠れられる場所ではない部分でマジで気配遮断をやられたら見つけられるのはほぼ不可能だ。
真横にいても気付かない自信がある。
「助かったルビー」
逆に。
このレベルの気配遮断を看破する吸血鬼が仲間になっていてくれて助かる。
「お礼はキスで充分ですわ」
「あとでな。今は合流を急ごう。すまんが、こいつを運んでくれ。逃げられるかもしれない」
「ほんとに仮死なんでしょうか。顔を拝んでもいいです?」
ぐるぐる巻きにされているが顔は見えている状態だ。黒い装束のマスクを外すようにしてルビーが布をめくると、その下からは男の顔が出てきた。
ただし――
「うわっ!?」
「なんだこりゃ」
「これは、どういうことですの……?」
男の口は太い糸で縫い合わされていた。まるで×印を連続で連ねるように、男の口は黒く太い糸で強制的に閉じられている。
「うへぇ。ニンジャって、みんなこうなの?」
「いや、違うはずだ。詳しいことは俺も知らないが、これはあまりにも……」
人間としての扱いが間違っている……
いや――
「もしかしたら罪人や抜け忍かもしれんな」
「ぬけにん?」
「ニンジャをやめようとして捕まった者のことだ」
「じゃあ、シュユちゃんも抜け忍?」
確か、シュユは自身でニンジャとして失格だとかなんとか言っていた気がする。少しニュアンスは違うかもしれないが、カテゴリー的には同じかもしれない。
「とりあえず移動しよう。それこそ合流したら何か分かるだろうし」
「では、持って行きますわね」
ひょい、と軽く持ち上げるルビー。
マジでルビーがいてくれて助かるなぁ。
あとで、ホントにキスしなくては。
本人が望んでいるのでね。ホント、仕方がないよね。うん。
というわけで。
急いで中央樹に向かうのだった。
いや、別に早くキスしたいから急いだわけじゃないので。
勘違いしないでよね。




