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卑劣! 勇者パーティに追い出されたので盗賊ギルドで成り上がることにした!  作者: 久我拓人


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~卑劣! 階上の襲撃者~

 上階に何者かがいる。

 わずかな気配を読み取れたのは運が良かったか。すぐに気配が消えてしまった。


「……」


 気配断ちが上手い。

 それこそ、存在が消えたかのように思える。逆にほころびがあったのが不思議なくらいだが、恐らく俺たちの気配が急に現れたことに驚いたのだろう。

 無理もない。

 足元に急に人が現れたのなら、たとえ魔王であってもびっくりするはずだ。

 まぁ、そのあとすぐ殺されると思うので、単なる自殺の方法でしかないんだけど。

 さて。

 誰かが上にいることは分かったが、状況としては非常にマズい。

 かなり不利な状況だ。

 地下の部屋から出るには床の一部を押し上げないといけない。その際に、必ず無防備になってしまう。

 このレベルの気配断ちが出来るということは、かなり実力が高いことを示している。仮に戦闘レベルが低いとしても、基本くらいは習得しているはずだ。

 つまり。

 無防備に階段を上がると首を刎ね飛ばされる可能性がある。

 クリティカルヒットされては、さすがにエクス・ポーションも手遅れになるだろう。逆に時間蘇生薬のほうが効果がありそうで怖い。

 これ以上若くなるのも、やぶさかではないが……


「すまん、ルビー。安全に行こう。反則技を使ってくれ」

「謝る必要はありませんわ、師匠さん。便利に使ってこそチートです」


 ルビーはそういうと、いつものように足元に沈んでいった。ほぼ真っ暗な部屋の中なので、影は天井にも及んでいる。

 建物内なら自由に移動できる能力は、やはり便利だ。

 盗賊向きだよな、吸血鬼って。


「師匠ししょう」


 声を押し殺しつつパルが呼びかけてくる。

 ルビーが対応するので、もう相手にバレても問題ない。パルは遠慮なく声を発したようだ。


「こういう場合、ルビーがいなかったらどうするんですか?」

「ひとりで対応する場合はフェイントだな。一度、フタを開けて顔を出さない。そのあと、持っている道具を投げたりして視線誘導を起こし、その間に飛び出す」


 なるほど、とパルはうなずいた。


「ふたりの場合は、それにプラスして時間差で飛び出してもいい。ただし、一人目はやられる可能性が高い。なので、こちらの人数が多いことを偽装してもいいな」

「偽装?」

「たとえば、こうする」


 俺は四つん這いになり、両手に投げナイフを持った。そのままブーツの先で床をコツコツと鳴らしながら、投げナイフでもカツカツと音を立てる。


「これでひとり増えた」

「おー。バレないんですか、これ?」

「相手の力量によってはバレバレだろうな。そもそも上に誰かいるのが分かってる時点で使う手だ。偽装するにもこれが限界だろう。あんまりレベルが高いスキルではないよ」

「あ~、そっか。普通はこっそり行動しますもんね」


 そういうことだ、とパルの頭を撫でておく。


「大した授業ね、エラント。でも大事なことを忘れてないかしら」

「え、なんですかナーさま……」

「私は心の声が聞こえる神よ。利用しなさい」

「あ……」


 なるほど、確かに。

 上で待ち伏せしている者の思考を聞いてもらえれば、いったい何が起こっているのか簡単に把握できたというのに……

 危険、という考えが先行しすぎて、柔軟な発想ができなかった。


「これが年を取るということか」

「年齢のせいにしない。あなたが未熟なだけよ、エラント」

「うっ」


 そりゃそうですよね。

 卑怯、卑劣と言われる手段しか習得してこなかったし、勇者パーティに追放されるくらいですもんね。

 未熟でした。うぅ。


「もう、ナーさま。師匠をイジメないで。すっごい盗賊なんだから。世界一っ」


 パルが擁護してくれる。

 好き。もう結婚する。


「はいはい分かった分かった。でも大概よ、この男。今もあんたと結婚することしか考えてないから」

「え、そうなんですか師匠?」

「結婚しよう」

「うん!」


 俺たちはしあわせになった。


「アホしかいないのかしら。ふざけてないで上がるわよ」

「……大丈夫なの?」


 サチの言葉にナーさまはうなずく。


「上にいるのは忍者よ。知り合いでしょ、あんた達」

「ニンジャ……あぁ、シュユか」


 なんだ、シュユか。

 正体が分かれば気配遮断の上手さも、ここにいる理由も納得できる。

 ナーさまが自分でフタを開けて出ていくのは、なんというか申し訳ない感じでもあるのだが、なんの警戒もなく地下から出ていった。


「ナーさまをオトリにしても良かったんじゃないですか、師匠」

「俺も思った」

「……ふたりともひどい」


 サチに文句を言われたが、まぁ笑っているので許されたと思いたい。いや、許す神官もどうかと思うけど。

 さて、ナーさまに続いて地上に上がると――

 いつもはナーさまが座っていらっしゃる台座の上に、黒い影が蜘蛛の糸のように周囲の壁や天井から伸びているのが分かった。

 ルビーの能力だろう。

 かなり派手にやっているみたいで、禍々しい雰囲気がある。

 まるで、魔王に支配された神殿、みたいな感じ。

 どうやらルビーは能力を使って拘束したみたいだが、その相手がシュユだと分からなかったのだろうか?

 なにか事情が……と、思ったが絶対にワザだということが分かる。。


「んー! ん~~~!」


 台座の上で拘束されてるシュユちゃんは、両手をバンザイしている状態で宙釣り状態になっており、膝を曲げた状態で開かされている。

 いつものように、ぱんつは履いておらず紙のようなものが貼り付けてあるだけ。

 女盗賊を捕らえて拘束した時と同じようなポーズだった。

 むちゃくちゃエロい。

 素晴らしい。

 ある種の芸術ではないだろうか。

 ドワーフの芸術家、ララ・スペークラに見せてあげたい。

 俺以上の芸術的価値を見い出してくれるに違いない。


「んんん! んんんんんん!」


 おっといかん。

 これ以上、シュユちゃんをえっちな目で見てはセツナ殿に申し訳ない。むしろ、セツナ殿だけに楽しんでもらいたいので、俺は背中を向けた。


「おーっほっほっほ! わたし達を狙うとはニンジャ娘も裏切る時代になったのですわね。忠義でしょうか。つまりサムライが裏切ったと。まったくもって嘆かわしい。ですが問題ありません。あなたを犯し尽くして、サムライの前に差し出してあげましょう。まずはその邪魔な紙切れを取ろうかしら。それとも服から――」

「やめてあげなさい」


 ナーさまがルビーを蹴ったのだろう。なんとなく分かる。痛くないナーさまのキックだ。


「あら。上がってきたのですね。見事に敵を捕らえましたので安心してください」

「離してあげてって言ってるのよ、このダメ吸血鬼」

「珍しくお優しいですわね、大神ナー。師匠さんも見ておくなら今のうちですわよ」


 いらん、と俺は手のひらをヒラヒラと後ろに向けて振った。

 ……いらん、というのは逆に失礼か?

 シュユは可愛らしく魅力的だ、ということの証明に見ておくべきなのだろうか……?

 いや、しかし、う~ん?


「ぷはぁ! はぁはぁ、ひ、ひどいでござるルビー殿!」


 悩んでいる間にもシュユは解放されたようで、振り返ればよだれを拭いている。口の中にも影が入り込んでいたようだ。かわいそうに。


「あなたが怪しい動きをするのが悪いのです」

「急に足元に気配が現れたら、警戒するのは普通でござるよ……うぅ……」

「警戒する前に気配が漏れましたわよ、シュユ。まだまだ修行不足ですわね」

「うっ……はい。だからシュユはダメなんですぅ」


 シュユは膝を抱えるようにして座り込んでしまった。

 あらら。

 落ち込んじゃった。

 口調も素が出てしまっている。


「まぁまぁ、シュユ。こんな状況だったら誰でも驚くから無理もないよ。俺でも無理だ」

「そ、そうでござる?」

「おう。だから気を落とさず」

「ご主人にはナイショにしておいて欲しいでござる」

「もちろん――」

「黙っていて欲しければ、全裸になって土下座をしてくださいな。誠意というものを見せるのが、義の倭の国の流儀ではなかったかしら?」


 吸血鬼が余計なことを言うんですけど?


「はい、土下座させてもらいます」


 シュユちゃんも、なんの抵抗もなく脱ごうとしないで!


「いい、いい。脱がなくていいし、土下座もしなくていいから。このアホの話は聞かないでいいので落ち込まないでくれ」

「はい……分かったでござる」


 ふぅ、と息を吐いてシュユは膝を曲げてスネを床に押し付けるようにして座った。

 正座だったか。

 痛そうな座り方だなぁ。


「で、ここで何かあったのか?」

「エラントさん達を待ってたでござる」

「俺たちを?」


 はい、とシュユはうなずいた。


「新しい七星護剣の場所でも見つかったのか?」

「そうといえば、そう、でござる」

「うん?」


 どういう意味だ?


「詳しくはご主人様の話を聞いてもらいたいでござる」


 なるほど。


「いま説明できない理由がある、と」

「のっぴきらない事情があるでござる。できれば安全にご主人様と姐さまと合流したいでござるが……」


 なにかしら事情があるようだ。


「ふたりはどこに?」

「学園校舎の中に潜伏してもらってるでござる。できれば、そっちに転移してもらいたいでござるが……」

「俺の転移の腕輪はチャージ時間が長いからな。しばらくは無理だ」

「で、ござるよね。では、普通に移動してもらえたら嬉しく思うでござる」


 分かった、と返事をしたところでナーさまが話しかけてきた。


「私は必要?」

「え、えっと大神ナーさまとお見受けするでござるが……大神ナーさまなんでござる?」

「えぇ。あなた、なかなかよね」

「はぁ……え?」

「良かったら私の信徒になって欲しかったけど、忍者だと負荷にしかならなそうね。残念だわ」

「は、はぁ……」


 あら、珍しい。

 ナーさまが信者にならないかと勧誘してらっしゃる。

 それを聞いて、サチはナーさまの腕を掴んだ。

 どうやら嫉妬しているようだ。


「大丈夫よ。あなたは特別だもの、私のサチアルドーティス」


 サチアルドーティス。

 旧き言葉で『神官』だったか。

 ナーさまは愛しそうにサチの頬を撫でる。なんとも複雑そうな表情で、それを受けるサチ。

 愛されて嬉しいような、それでいてシュユを勧誘したことに不満があるような。

 そんな表情だ。

 可愛らしい。


「じゃ、私は帰るわ。付いていってもいいけど、あとで怒られそうだし」


 そういうと、ナーさまは台座の上に飛び乗る。そこに置いてある椅子に座ると、フ、と意識が抜けるように弛緩した。

 その前には半透明で真っ白で綺麗なワンピース姿のナーさまが現れる。

 まるでゴーストみたいではあるが、ひしひしと神威と表現される圧みたいなものを感じた。

 神々しいな。

 まぶしくもないのに、目を細めたい感じ。


「じゃぁね、サチ。また遊びましょ。パルも楽しかったわ」

「うん。またねナーさま」

「エラントと吸血鬼は、真面目に生きなさい」

「あ、はい」

「お断りですわ」


 神に対して堂々と拒絶するルビーさん、すごい。


「ふふ、だからダメなのよ、あんた達は」


 それだけ言って、ナーさまの姿が消える。

 天界に帰ったのだろう。サチが天井を見上げるようにして、上を向いた。


「神さまとお話しちゃった……」


 シュユがちょっと感動している。

 まぁ、それが普通の反応なんだろうけど……なんというか、神さまと対話することに慣れてしまっている自分がいるのが、まったくもって奇妙な感じがした。

 それでなくとも、普段から光の精霊女王ラビアンさまに御声をかけて頂けているし。

 不敬になってないか心配だなぁ。

 大丈夫でしょうか、ラビアンさま。

 失礼だったら言ってください。


「――」


 返事があった。

 問題ないらしい。

 相変わらず、お優しい精霊女王さまで助かる。

 俺のことはいいので、勇者を見守ってください。

 そう祈っておいた。

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