~卑劣! ニセ神官事件・解決!~
ニセ神官たちは無事にジックス街の盗賊ギルドに引き渡すことができた。
「お疲れッス、エラントさん」
衛兵に変装してる盗賊青年にそう声をかけられた。目深にかぶった兜が、どことなくワザとらしくも思える。
どうやら犯罪者を移送する、みたいな形で連れ出すらしい。馬車まで偽装して、大掛かりなこった。
ここまで気合いを入れるってことは、相当な儲けがあると踏んでいるのだろう。
そんなにデカい案件だったのか、と知らず知らずのうちに関わることへの怖さ、みたいなのを感じる。貴族が関わっているので、さもありなん、と言ったところなんだろうが。
無知の怖さ、というやつだな。
もっとも――のんきにそのあたりを歩いている豪商の娘みたいな女の子が、まさか神さまだった。なんていうのよりかは、遥かにマシだけど。
というかナーさまはまだ帰らなくていいのか。
神さまの時間感覚も、ハイ・エルフと似たようなところがあるのかもしれない。
ニンゲンの感覚での1年が、神さまたちの1日……みたいな。
「さすがエラントさんッスね。こんなバカでかい案件を見事にやり遂げるなんて。俺なら足が震えて、関係者全員を殺してしまいそうッスよ」
物騒なことを言う同僚だった。
まぁ、気持ちは分からなくもない。
「俺も殺してしまうかもしれない、と思ってたが。まぁ、上手くいって助かったよ。運が良かったのは確かだ」
「またまた謙遜して。ドンと胸を張ってくださいよ。へへへ」
そういうもんかねぇ、と俺は苦笑する。
「で、こいつらはどうするんだ?」
「懐柔ッス。ギルド員として働いてもらえれば、御の字ッスね」
「そう上手くいくか? 盗賊ギルドを通さなかったような連中だぞ。むしろ野盗に片足を突っ込んでたような連中だ」
「どうなんスかね~。ま、上手くいなかったら切り捨てるんじゃないッスか。文字通り」
おぉ怖い、と俺は肩をすくめた。
「あの女盗賊と少年は助ける約束をしたんで、そいつらだけ手助けしてやってくれ」
「ほう。エラントさんの女ッスか」
なんでだよ。
「興味無いぞ、あんな女」
「くく。やっぱりエラントさんは『年下好き』なんスね」
「年下はいいぞ~。なにせ、めちゃくちゃ可愛い。しかも俺みたいな人間を慕ってくれるんだぜ?」
「そりゃエラントさんだからッスよ。俺は年下にも年上にもモテないッス。娼婦の女の子と一晩の恋人になれりゃそれで満足ッス」
「ほう。お気に入りの子でもいるのか?」
「いるッスよ。お胸がばいーん」
「うわ、俺の趣味じゃ無いなぁ」
ウハハハハハ、とふたりで笑い合った。
「じゃ、頼んだぜ」
手をあげて同僚たちを見送る。
女盗賊と少年は、きっちり頭を下げて馬車へ付いていった。ふたりは徒歩移動らしい。横に商人風の男がいるので、そっちも盗賊なんだろう。
これから豪奢な面妖本を貴族に売りつける『商売』が始まるわけだが。ふたりはどんなポジションに納まるのやら。
できれば、優遇してやって欲しいところだ。
「相変わらず男って下品な会話をしてるのね」
見送っていると、ナーさまに足を蹴られた。痛くない蹴りなので、助かります。
「会話スキルの一種ですよ。エロの話題は話が持つんです」
「それでお互いの性癖を開示するわけ? あんた、自分がド変態だってこと忘れないことね」
「まぁ、それは分かってるんですが……この状態ですよ?」
俺は自分の周囲を示す。
パルとルビーに、サチとナーさま。
全員、11歳ほどの少女である。
「言い訳不能でしょ」
「確かに」
ナーさまが納得してしまった。
それもそれでどうなんだ、と思わなくもない。
だって、孤児院の先生とか、子どもに囲まれているわけじゃないですか。つまり、今の俺と同じような状況と言えるので、先生は漏れなくロリコンかショタコン、と言われて納得するようなもの――
「ひらめいた」
「絶対にやめなさい」
またしてもナーさまに蹴られたけど、今度はちゃんと痛かった。
「まだ何にも言ってないじゃないですか」
「思考が筒抜けだって言ってんの。いい、あなた絶対に孤児院で働いちゃダメだから。理性なんて、年々弱まっていくんだから、いつかやらかすわよ。私の信者たちを汚してごらんなさい。天罰では済まさないわ」
「あ、はい。ごめんなさい」
「本気で謝るな。冗談よ」
またしても蹴られたが……今度は痛くなかった。
「サチ、行くわよ」
「……どこに行くんですか、ナーさま」
「屋台。なんか食べましょ。そこの気持ち悪いおっさんがおごってくれるわ。お金もらってきなさい」
「……はい」
というわけで、みたいな顔をしてサチが両手を差し出す。
「無駄遣いしてきたらいいよ」
「……悪い大人ですね、エラントさん」
「盗賊だからな」
なんて言いつつ、お金を渡してふたりを見送った。
ふぅ、と一息ついたところでパルが抱き付いてくる。
「師匠~、なんでナーさまに怒られたの? 孤児院でも破壊する?」
「破壊しない破壊しない。ちょっと孤児院の先生になれば幼女に囲まれて、とか思いついただけだ」
「そりゃ怒られるよ、師匠」
だよな。
「師匠さん、いい方法がありますわよ」
「ほう」
パルを抱き上げながらルビーに返事をする。
「わたしとパルとベル姫に三人ずつ孕ませるんですの。合計9人の美少女が増えますわ」
「なんで女の子限定で生まれる前程なんだ。あと、孕ませるって言うな」
さっきの同僚との会話より、よっぽど下品なんですけど?
「ベルちゃん生んでくれるかなぁ。お姫様でしょ?」
「俺、絶対に処刑されるよな。いや、処刑なんて生ぬるい方法では終わらないかもしれない」
「その時は、わたしの実家に全員で逃げれば解決です。みんなで魔物種になりましょう」
ルビーは自分でくちびるをめくるようにして牙を見せた。
吸血鬼にしてくれるらしい。
そんな解決方法はイヤだなぁ~。
なんて思いつつ、パルを抱っこしたまま自分たちの宿へと戻った。
その日はダラダラと宿で過ごして、翌日に学園都市にサチを送ることにする。
「やり残したことはあるか?」
ふるふる、とサチは首を横に振る。
「ナーさまも問題ないですか?」
「問題ないわ。ニセ神官も片付いたし、邪神崇拝もなかった。すでに天界には伝わってるので、私なんて無視されている状態よ」
それはそれで酷い。
いや、おかげでナーさまがこっちでダラダラと遊んでいるのかもしれない。
「……天使の子は、大丈夫?」
「たまには私のお世話をお休みしてもいいでしょ」
天使も大変なんだなぁ……
まぁ、地上で生きる上で天使なんて見たことも聞いたこともなかったので、どれくらい大変なのかまったく想像も出来ないんだけど。
「大したことないわよ。ちょっとポーションを私の代わりに作ってるだけ」
そうなんですね、と返事するしかない。
「ほら。いつまでもこんな所に突っ立ってたら目立つわよ、盗賊」
「あ、はい」
ナーさまに言われて、王都から出る。少し街道を進んで目立たない場所まで移動すると、周囲を確認。
「アクティヴァーテ」
転移の腕輪を使用して、全員で転移した。
「よっ、……と」
無事に着地したのは真っ暗な部屋の中。深淵に放り出されたのではなく、目論み通りの場所なので問題ない。
気配だけで、ナーさまが転ばないように支えたのだが……
「思いっ切り胸を触ってくれるわね、エラント」
「すいません。マジで不可抗力です」
タイミングと場所と体勢が悪かったので、わきの下ではなく胸に手が届いてしまった。
やわらかい。最高。嬉しい。あ、いや、違う。
ごめんなさい。
「その手があったか」
「さすが神ですわ」
弟子たちが余計なことを学習してしまった。
さて、少ししたら目が慣れてくる。真っ暗なのは地下室であり、ナーさまの神殿の隠し地下室であることが分かった。
ここなら誰もいない上に安全に転移できることが分かっているので問題ない。
以前はエクス・ポーションの研究が行われていたが、今ではもぬけの空だ。研究に利用していたと思われる鍋や机などが多少は残されているが、基本的には空っぽである。
未だエクス・ポーションの発表が行われていない状況を考えると、やはり相当な根回しが必要なんだろう。
下手に刺激すると、神殿関係者と敵対することになる。
邪神崇拝者にされる危険性もあるので、慎重にならざるを得ないか。
「よし、そろそろ大丈夫か」
盗賊であるパルと吸血鬼であるルビーは暗闇に耐性があるとして、サチが転んでは大変なので完全に目が慣れるまで待った。
サチが問題ない、ということで隠し地下室から出ようとしたところ――
「待った」
俺は階段を上がりかけるサチを止める。
「静かに」
俺はサチのくちびるに人差し指をあて、声を発することを禁止させる。
「……?」
そのまま俺は上を指差し、静かに告げた。
「誰かいる」
わずかに気配がした。
ナーさまの神殿に、何者かがいる。
俺は一気に緊張感を引き上げ、慎重に地下室の階段を登ったのだった。




