~卑劣! なんでもいいから、情報収集~
煌々亭で無事に宿も取れた。
さて――
「まずは情報収集と行くか」
「はーい」
「何を調べますの?」
素直に返事したパルに対して、ルビーがまともな質問をした。
いつも真面目でいてほしいものだが、吸血鬼なので仕方がない。いや、どこの物語を読み込んだとしても、こんな不真面目で悪ふざけ大好きな吸血鬼の話なんて残ってないけど。
「基本的には何でもいい。ヤツルギの情報であっても、なくてもだ」
「隣の家のワンコの名前がチンチロとかそういうのでもいいんでしょうか」
もうふざけだしたので、適当にハイと言っておいた」
「相手してくださいませんと温厚なわたしだってキレますわよ」
「えぇ~……」
理不尽。
「今のはルビーが悪いと思う。謝ったほうがいいよ。今なら師匠も許してくれる」
「え、あ、はい。ごめんなさい師匠さん」
なんかよく分からないのに、謝らないほうがいいですよルビーさん。
しかし、俺よりルビーの扱いに慣れてるじゃないか、パル。
さすが普段から仲良くケンカしてるだけはある。
「お隣さんのワンコはさておき、気付いたことはなんでもいい。もっとも、ヤツルギの情報であれば尚の事いいがな。名前でもいいし、家族構成でもいいし、出入りしている商人でもいい」
「愛人の情報でもいい、ということですか」
「それは超有力な特大情報じゃねぇか」
言ってしまえば、親密な関係になればなるほど情報は共有しているはず。
ここ数日のヤツルギで『変わった動き』をしているところが分かれば良いのだ。
それが必ず七星護剣に繋がる情報であるのは間違いない。
「おー。師匠ししょう。そういうのって分かるものなんですか? 聞き出せる?」
「どうだろうな。やってみないと分からんが、それが盗賊ギルドの仕事ってやつだ」
いくつもの情報を集めて、ひとつの答えを出す。
一見して関係のない情報も、実は繋がっていてヒントになっていた、なんてことは良くある話だ。
こういう情報の精査は盗賊ギルドの本分ではあるが、勇者パーティでは賢者が得意だったんだけど……今は頼るわけにもいかない。
「あら、こんなのも分からないの? あなたの頭は飾りではなく、単なる重しだったみたいね」
とか言われそうで怖い。
美人なだけに迫力が凄いというか、今は見た目が若くなってるので、もっとダメージがアップしている気がする。
いや、単なる被害妄想の類だけどね。
「ただし、注意しろよ。露骨に嗅ぎまわるとニンジャに見つかる」
「あ~……」
「難しいですわね」
ふたりは絶妙に嫌そうな顔をした。
賢者に負けず劣らず、というか、完全勝利美少女なふたりのイヤそうな表情は、まぁ、これはこれで見応えがある気がする。
できれば、嫌々ながら俺の『お願い』を聞く時に浮かべて欲しい表情だが――いや、なんでもないです。すいません。
「とりあえず、しばらく滞在するのでゆっくりやっていこう。まずはお気に入りの店を見つけて顔なじみになったり、知り合いを作ったり、というところからだな」
そう身構えなくても大丈夫だぞ、とパルの背中をトントンと叩く。
「はいっ。じゃぁ、まずはお散歩から?」
「そんな感じだな。とりあえず、普通に観光しておいて損はない。地形を把握するのは重要だからな」
「確かに。あたし、路地裏に行こうかな?」
「いや――」
どうしてわざわざ自分の傷をえぐる方向を選ぶかなぁ、パルヴァスは。
「いきなりは怪しまれる。素直に大通りを歩いてくれ」
「あ、そっか。えへへ、ごめんなさい」
「気概は受け取るぞ。いっしょに回るか」
「はーい」
元気な返事でよろしい。
「ルビーはどうする?」
「せっかくキモノを着ていますので、わたしも街を見てまわりたいと思いますが。なにはともあれ、まずは娼館……ユーカクに行きたいと思います」
なんでキモノを着てるとユーカクになるんだよ……
「まぁ、ほどほどにな。あと、勝手にヤツルギの屋敷に入らんでくれ。めちゃくちゃビビるから」
エンゴの城に普通に入って行ったもんなぁ。
アレみたいにやられたら、非常に心臓に悪いので、できれば事前に報せて欲しい。
「結界などは大丈夫でしょうし、目立つ行動はニンジャを呼び寄せてしまいますわね。それでなくとも美人で目立ってしまうので、控えたいと思います」
「自意識過剰な吸血鬼だ」
「自慰士気過剰なのは、そのとおりかもです」
むふふ、と笑みを浮かべるルビーだが……そういえばパルってば、その知識は無いんだっけ。
ニュアンスの違いは分かってるけど、意味は理解していないらしく俺を見上げてきた。
「アホな吸血鬼がアホなことを言ってるだけだ」
「あ、やっぱり」
「失礼ですわね。それではまるでわたしがアホみたいではないですか」
いや、文字通り過ぎる。
「フン。おふたりなんか知りません。わたしはひとりで調査させてもらいます」
ルビーは可愛らしく、ぷいっ、と顔をそむけた。
「すまんすまん。夕飯はいっしょに食べような、ルビー」
「あら、お優しいお誘い。あ、いえいえ、わたしをパルといっしょで食べ物で釣れると思わないでくださいな」
一瞬釣れなかったか?
「じゃ、なにで釣れるの?」
「えっちな本ですわ」
「じゃぁ、今晩いっしょにえっちな本を読もう」
「なにそれ最高ですわ」
マジで釣れるんだな……
食べ物で釣れるパルもチョロいが、エロ本で釣れるルビーもチョロい。
「……もしかして盗賊ギルド『ディスペクトゥス』はめちゃくちゃモロい組織なのでは?」
「師匠は可愛い女の子で一撃だもんね」
「きっと、初級銅貨一枚でも幼女のお願いを聞いてしまいますわ。ちょっろ」
否定できなかった。
あぁ勇者よ。
俺の作った盗賊ギルド、やっぱダメだわ。
「よし。じゃぁ観光にでも行くか」
「無理やり無かったことにしましたわね。では、わたしは本屋さん巡りでもしてきますわ。ユーカクは夜でも行けますし」
「あたしは師匠と行く~」
ルビーはひらひらと手を振りつつ、そのまま出て行った。
「俺たちも行くか」
「はい」
元気な返事でよろしい、とパルの頭を撫でつつ部屋を出る。
渡された鍵で施錠しておき、階段を下りていくと別の旅人と出会う。先に滞在していたようで、にこやかに手をあげた。
「良い旅を」
「良い旅を」
そう挨拶を交わし、俺もにこやかな笑みを浮かべる。
「何かおススメの食べ物はありますか?」
一応聞いておこう。
「それなら、海の物がいいですね」
「ほう?」
海に面しているカミノトだが、港町ではない。
なにせ断崖絶壁な高い場所にあるので、海に下りようと思うと一苦労だ。恐らく、東西のどちらかに港町があり、そこから仕入れているのだろう。
「魚が美味しいですよ。まぁ、森も近いので肉も美味いですが」
旅人は苦笑する。
「全部が美味しいってことだ」
パルが瞳をきらきらとさせた。
「なるほど。海と森に挟まれているだけはある」
「そういうことですね」
それでは、と自分の部屋に戻っていく旅人を見送り、煌々亭の入口まで来る。
「あ。お出かけですか」
店主のマイカが受付で仕事をしていたが、顔をあげる。
オカミだったか。
小さいのに立派に仕事をしていて偉いなぁ。
「えぇ。まだまだ観光するところはありそうですし、いろいろと見てまわろうかと」
「マイカちゃんのおススメってある?」
「私のおススメですか。やっぱり八剱のお屋敷を見て欲しいって気がします」
ふむふむ。
「やっぱり皆さんおススメしますね。カミノトの住民にとっては、お屋敷が自慢なのでしょうか」
「そうですね。というよりも、八剱のお殿様にみんなお世話になってる、って感じだからでしょうか」
お世話?
「どんなお世話になってるの?」
「六甲がキツい山じゃないですか。壁みたいで」
あの雪山、ロッコーというのか。
「昔はカミノトは貧しい場所だったんですけど、八剱のお殿様がここに住むようになってから、とても発展したんです。そうじゃなかったら今ごろカミノトは村とか集落でしたよ」
「なるほど。それで『お世話』になってるのか」
宿を経営しているならば、尚更に感じることだろう。
しかし――
「どうして不便な土地を選んだんだ……?」
いまいち利が分からない。
大昔の戦争の名残とも言えるだろうけど、今は平和な時代でもあるので、ヒメノミチあたりに移り住むのが一番だろうに。まぁ、今さらあのお屋敷をゼロからヒメノミチに作るっていうのも大変なので、そう簡単ではないのは確かだが。
「静かなところが好きだったとか?」
パルの言葉に、確かにカミノトは雰囲気が静かだな、と思う。
「静か?」
マイカは首を傾げた。
「あくまで雰囲気が、ですが。なんとなく落ち着いた雰囲気があるんですよ」
「そうなんですか。他の街に行ったことがないので実感できないんですが。さすが旅人さんですね」
マイカに褒められた。
嬉しい。
「次からは、私も『静かな街』って旅人さんに伝えますね」
「まぁ、あくまで主観的な物だから。人によっては違うかもしれないけど」
とりあえず、普段から静かな街だというのは分かった。
「マイカちゃん、他には何かないの?」
「他ですか。う~んと、外国の物がわりと置いてあったりするんですけど……旅人さん達にとっては魅力的じゃないですよね」
「あはは。そうかも」
地元の人にとっては魅力的かもしれないが。
「う~ん。やっぱり一番の八剱のお屋敷が強すぎますので、あとはオマケみたいな感じに思えるかな~」
「そんなですか」
「そんなです」
ハッキリとうなずかれてしまっては、どうしようもない。
「じゃ、仕方がない。もう一度ヤツルギ屋敷を見物しつつ、自分たちで探すか」
「はーい」
「ふふ、仲良しなんですね。旅人さんと護衛さん」
「えへへ~。あたしの名前はパルヴァスっていうよ。パルって呼んで、マイカちゃん」
「ぱるヴぁす……外国の名前は難しい響きです。パルちゃんって呼ぶね」
「うん!」
よろしくね~、とふたりは両手の指を絡め合っている。
うむ。
仲良しなのはいいことだ。
「じゃ、行ってきます」
「いってきまーす」
「いってらっしゃいませ」
丁寧に頭を下げるマイカに見送られ。
俺たちは再びカミノトの街へと出たのだった。




