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第12話「森の中」

 一週間後。マオたち一年は森の中にいた。

 グラン王国が所有している島ではあるが、魔術学園の建設計画が立ち上がるまで人間が立ち入ったことはなかった。そのため独自の生態系を持っており、常識とはかけ離れた動植物が存在している。


「うわぁ。私は遠慮したいよ」


 マオたちの担任であるサツキは顔を強ばらせていた。目の前の獣に腰が引けている。


「ただの熊じゃねえか」


「ただの熊じゃないって。よく見てみ。背中に羽が生えてる。まだまだこの島の生態系はよく分かってないんだ。迂闊に近寄って襲われても私は知らないよ」


 そう言いながらゆっくり後退していくサツキ。


「先生酷いぜ! 生徒を見捨てるのか!」


「見捨てはしない。見守るだけだ」


 ジャンに向かって親指を立てるサツキ。その表情は清々しいほど爽やかだ。適当な木に身を隠しジャンを見守っている。


「文字通りか! ボクなんかよりも凄い魔術師じゃないのか!」


 後方で眼鏡を光らせながら「頑張れ!」と声援を送るだけの担任を恨めしく思いつつ、前方に佇む羽熊と向かい合う。

 ジャンは風属性の魔術師だ。そよ風から突風まで起こすことができる。が、それだけである。


「風で吹き飛ばすのがやっとか? こうなりゃあヤケクソだ。先生のあとを適当に付いてったのが運の尽きだったみたいだぜ」


※ ※ ※


「だいぶ深く入っちゃったかも」


「マオきゅん。もしかして怖いの?」


 マオとミルフィーは、ほかの生徒たちよりも少し深く進んでいた。普段は立ち入ることができないため、色々と見ておきたかったのだ。


「怖くはないよ。ただ警戒を怠っちゃ駄目だ」


「警戒ねぇ……?」


「ミルフィー!?」


 マオの右腕にしがみつくミルフィー。上目遣いでマオを見つめるさまは天使のようだ。離れようとするマオに「だーめっ!」と甘える始末。


「あの女ぁー!!」


「カムアちゃん。二人の邪魔をしちゃ駄目です」


「申し訳ありません。ミルフィー様の笑顔のためもう少しご辛抱を」


「辛抱なんかしてないわ!」


「そうやってムキになっちゃ駄目です」


「よくも冷静でいられるわね! アンタの定位置を奪われてるのに」


「わたしは構わないですよ? どうしてそこまで熱くなってるのか分からないです」


 首を傾げて?を浮かべるネルガに対してもムカムカしてきたカムア。もう限界と言わんばかりにマオとミルフィーを無理矢理離した。


「どうしたの? カムちゃん」


「どうもこうもあるか! いくらマオのことを本気で好きになったとはいえ、白昼堂々と絡み付いてんじゃないわよ!」


「ワタシはワタシなりに甘えているだけ。マオきゅんだって嫌じゃないみたい。ね?」


「えっ!?」


「だいたいオマエもハッキリしたらどうなわけ! 誰のことが好きなのか」


 カムアがマオをジーッと見つめる。頬を膨らませながら顔を近づけている。


「近い近い!」


「うっさい! アタシともネルガともキスしときながら、フィーともキスしちゃってるし」


「待ってよ。オレからしたことは一度もないよ!」


「「あっ!」」


 カムアとミルフィーの声が重なる。確かにマオからのアタックは一度もない。


「カムア様もマオ様を好いてらしたのですね」


「ちっ、違うわ!? アタシは別に――」


「――白状しちゃったら? その方が楽じゃん」


 ニタニタ笑みを浮かべ見つめてくるミルフィーに耐えられずカムアは顔を背ける。その頬は赤く染まっている。


「素直じゃないです」


「難しいものなのですね。恋というものは」


※ ※ ※


 ジャンと向かい合っていた羽熊は上空へ逃げていた。ジャンが繰り出した突風が目に当たり驚いたのだ。


「へっへーん! どんなもんだ!」


「立派立派。私は鼻が高い」


 勝利を喜ぶジャンに近づいてサツキは頭を撫でる。

 思わぬアクションにジャンの心臓は高鳴った。耳まで赤くしながらも「先生は何もしてねえからな!」と突っぱねるのだった。

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