第11話「本心」
教室棟の屋上に連れてこられたマオは驚いていた。ミルフィーの横に立つ少女の可憐さに心を奪われていた。
「彼女がワタシの聖霊。名前はヴィーネ」
「よろしくお願いします。マオ様」
「う……うん……」
発せられる声を聞くだけで心は落ち着き、その顔を見ているだけで心は洗われる。ヴィーネの醸す雰囲気に早くもマオは吸い込まれていた。
マオの隣では、「綺麗な人です~!」と目を輝かせるネルガと、ムスッとしているカムアの姿が。昼休みくらいはマオとゆっくりできると思っていたため、余計に機嫌が悪い。
「それがアンタの聖霊ってやつ?」
「そう。仲よくしてあげて」
「それはどうかしら。飼い主に似ているとしたら合わないと思うからね」
「貴女がそれを言う? 貴女とマオきゅんは似ても似つかないのに」
「アタシはマオに飼われてない」
「そうなの? じゃあ貴女はマオきゅんの何?」
「うっさい! なんだっていいでしょう」
「ミルフィー様。その辺で終わりにしてください」
「カムアちゃん。そうやってツンツンしていたら、誰とも仲よくなれないです」
ヴィーネとネルガの言葉で大人しくなる二人。ライバルとしてお互いがお互いを意識するがゆえにピリピリしている。
「ミルフィーさん、ヴィーネさん、ごめんなさいです。カムアちゃん本当はすごーくいい子なんです」
「こちらこそお詫びを。ミルフィー様は少々強情なところがあり誤解を受けやすいのですが、本当はとても心優しい方なのです」
ミルフィーの代わりに謝るヴィーネと、カムアの代わりに謝るネルガ。こっちの二人は早くも打ち解けたようである。
「コホンッ! マオきゅんを呼んだのはほかでもない。聖霊のことについて訊きたいことがあるからなの」
「訊きたいこと?」
「マオきゅんは聖霊のことをワタシから聞いて初めて知ったみたいだけど、ホントに聖霊のことをほかに見聞きしたことはない?」
「誰にも見えない存在っていうのはカムアが初めてだったよ。聖霊のことを聞いたこともないよ」
「……そう」
「ごめん。何の力にもなれなくて」
「そんなことありません! マオ様がワタクシを見えるということだけでも大きな一歩です!」
「ミルフィー。君の目的は何?」
「ワタシの目的は聖霊を見つけること。ヴィーネ以外にも必ず聖霊はどこかにいると信じてるもの」
「手がかりは」
「何にもないの。ヴィーネの記憶もあやふやで。気づいたときには一人だったみたい」
「何のアテもなしでガムシャラに捜したって見つかりっこないわね。ただ体力を削っているだけ」
「カムアちゃん!?」
「いいよネルちゃん。悔しいけど彼女の言う通り。ガムシャラに動いて見つかるなら苦労してない」
「ちゃんと自覚はしているのね。単なるバカかと思ってた」
「ミルフィー様を侮辱しないでください!!」
ヴィーネの怒声が耳に響く。ミルフィーのことを大切に思っているからこそ涙を流している。水色の瞳は真剣にカムアを捉えて離さない。
「やめなさいヴィーネ!」
「ミルフィー様のことを悪く言われて悔しいのです! 自分のことを悪く言われる以上に」
「随分と慕っているみたいね」
「当たり前です! ミルフィー様は、ワタクシを孤独から救ってくださいました。ワタクシと契約を結んでくださっただけでなく、こうして聖霊捜しをしてくれています」
「契約? そういう関係ってわけね。アンタの力が欲しくて契約しただけじゃない?」
「そんなわけありません!」
「聖霊捜しをしているのは、アンタを側に置いときたいから。聖霊の力を使いたいから」
「いい加減に――」
「――ふざけたことばかり抜かすんじゃない!!」
ヴィーネの言葉を遮り、今度はミルフィーが怒声を上げた。カムアの胸ぐらを激しく揺さぶり睨み付ける。
「…………」
「ワタシがヴィーネを利用してると言いたげのようだけど、それは大間違い! 聖霊を見つけることはワタシの――ワタシとヴィーネの意志!」
「……ようやく本心をさらけ出したようね」
「どういうこと?」
「今のアンタは本心をアタシに明かした。今のアンタは、アタシが見たかった目をしてる」
「何を――?」
「マオのこと好き?」
「好きに決ま――」
「――嘘ね。目が揺らいだ」
カムアの目がミルフィーを捉えて離さない。
次第にミルフィーの手から力が抜けていく。カムアの胸ぐらから手を離した。
「凄いじゃん」
「堕天使を舐めないことね。伊達に人界にいないわ」
「……カムア様……」
「ヴィーネ。アンタの主を悪く言ったのは謝るわ。ああでもしないと本心を明かそうとはしなかったから」
「なぜ、そのような」
「本気でもないのにマオを誘惑していたのが気に入らなかっただけ」
「ミルフィー様」
「貴女のためといろいろ行動したけど、ちょっとやり過ぎちゃった」
「ちょっと? アンタがマオにベッタリしていたせいで、アタシとネルガはマオとの時間が減ったの。マオの純情を弄びもしたわよね」
「ごめんなさい」
「アタシに謝ってもしょうがないでしょう」
「マオ……ごめんなさい」
マオに向かって頭を下げるミルフィー。すると、下げた頭に手の感触が伝わる。
「オレも協力するよ、聖霊捜し。オレのことをどうこうってのに怒ってないよ」
優しくミルフィーの頭を撫でる。それがマオの答え。
ミルフィーはただ、理解者が欲しかった。ほかの人が見えないものが見えているとはいえ、聖霊のことを信じてくれるとは限らない。自分からマオが離れないように引き留めておくための告白だった。
(マオ……きゅん!)
不安を吹き飛ばすマオの手。撫でられるたびに高鳴る鼓動。それはもう嘘ではなかった。
「顔上げなよ」
マオの言葉で顔を上げたミルフィー。涙で潤んだ緑色の瞳が宝石のように輝く。
「マオきゅん……マオきゅん――っ!」
ミルフィーがマオの唇に唇を重ねた。本当の意味でミルフィーがライバルになった瞬間である。




