第9話「昼食」
教室棟から連絡路を通って行くと、空腹を刺激する匂いが漂ってくる。魔術学園の三棟は食堂なのだ。長テーブルに座って生徒たちが食事をしている。座る場所は決められていないものの、一階で一年生、二階で二年生、三階で三年生とは決められている。
「今日はハンバーグか。ミートボールの気分だったけど」
トレーに置かれたハンバーグを見ながらボヤく金髪の少年。マオの幼馴染のジャンである。
フォークとナイフを使ってハンバーグを口に運んで咀嚼。封じ込められていた肉汁が口いっぱいに広がり、デミグラスソースの香りが鼻に抜ける。付け合わせのニンジンを口直しに放り込む。
「育ち盛りには物足りないぜ」
あっという間に平らげたジャンは、物足りなさを食堂のおばちゃんたちに訴える。
「ボク、まだまだ食べれるぜ?」
「満腹まで食べたら駄目だべ。次の授業に集中できなくなるべ」
「満腹になって眠くなって昼寝をするのがいいんじゃないか」
「授業を受けなきゃ駄目だべ。わざわざ魔術学園に入ったのは、満腹になって昼寝をするためなんか?」
「そんなわけないだろ」
「そんなら我慢するべ。腹八分が一番だべ」
ジャンはキッチンの騒音が大きくなると観念した。満たされないお腹を擦りながら食堂をあとにする。
「マオっちはさっさといなくなっちまうし、ミルフィーたんは、ほかの女子たちと食べてるし。気持ちも満足してないぜ」
教室に戻ると頬杖をついて窓から外を眺める。花壇に植えられた花を仲睦まじく見ている男女を見付けるや溜め息。空は晴れているが、ジャンの心は曇っていた。
「どうしたんだよ、ジャン。随分と静かじゃないか」
「マオっち!?」
突然現れたマオに驚くジャン。あまりに驚いて机に頭をぶつけてしまう。
マオの右手にはソーセージが入った紙袋。香ばしさが教室中に広がる。左手には瓶のコーヒーが二本。
「人をお化けみたいに見るんじゃないよ。ちょっと傷つくよ」
「いきなりテレポートで現れりゃあ……って……何それ」
「お姉さんがいるレストランのだよ。あそこのソーセージは旨いから」
「わざわざマルギアまで買いに行ったのか!?」
「島から出ちゃ駄目なんて決まりはないだろう。ほれ、お前の分」
「へっ?」
「一人で食べても旨かない。かといって食堂だとほかの生徒が寄ってきて静かに食べられない。オレの昼食に付き合ってくれ」
「なんだそれ」
「お前となら静かに旨く食べられる。それだけだよ」
「面倒な奴だぜ、マオっちは」
「そりゃどうも」
ジャンはソーセージにかぶり付く。口いっぱいに肉汁が広がり、香りが鼻に抜ける。それはとても美味しいソーセージであるに違いない。
※ ※ ※
「食べ物でご機嫌取りのつもり?」
「いいじゃないですか! やっぱりソーセージおいしいです!」
マオから貰ったソーセージにかぶり付くカムアとネルガ。美味しいものを食べて笑顔になるのだった。




