第十章29 『グレースターミッション』
――全ては、滞りなく進んでいた。
天井から吊るされた、煌々と光を灯す大燭台の下で、弦楽器の奏でる優美な音色が広間を満たし、色鮮やかな正装に身を包んだ招待客たちが、盃を手に談笑している。
近隣一帯を治める領主、ディスケン・モロー子爵の館、その大広間を開放して催された夜会は、大勢の招待客の声に溢れ、盛況の様相を呈していた。
招待客は、モロー子爵と親交の厚い貴族や、領内に太い商路を持っている商人、複数の村にまたがる名士たちと、いずれも格に不足のない顔ぶれだ。
主催者である子爵が盃を掲げ、領地の安寧と発展を願えば、それに賛同する声が上がり、楽団が華やかな曲で一体感を後押しした。
誰もがディスケン・モローの言葉に賛意を投げ、自分たちの味方だと疑わない。
それも当然のことだ。――この場に招いたことも含め、招待客には十分な見返りを用意し、モロー子爵領に貢献する旨味をしっかり味わわせてある。
そうして得るものが多ければ、人間とは多少の違和感は自然と見過ごせるものだ。――彼らに、悪意や罪の意識はない。無自覚な協力者、それが理想だ。
ディスケン・モロー子爵は、このところ、その執政のやり方を大きく変えた。
それまでのモロー子爵は保守的で、言い方は悪いが、変化を恐れる臆病な性質があった。しかし、ここ数ヶ月のモロー子爵の態度はそれまでの現状維持の姿勢から逸脱し、周囲の有力者を巻き込んだ、大きな動きをいくつも起こすようになっている。
五十歳を超え、酒と美食を享受し、安泰な立場を守ること。それがモロー子爵の処世術だと揶揄されていたのが嘘のような変化は、その変化によって利益をもたらされたものたちには大いに歓迎された。
今夜の祝宴も、まさに直近の大きな取引で利益を得たものたちを招いて、その協力への感謝を惜しみなく示すという名目で開かれたものだ。
中年の域を脱し、初老に差し掛かろうかという年齢になって、ディスケン・モローの才気は真の意味で開花した。それが、この場のモロー子爵の評価である。
――誰も、ディスケン・モローが別の人間に入れ替えられ、その立場を根こそぎ奪われているなどと、知りようもないことなのだから。
「――――」
酒の入ったグラスを口元に運び、『モロー子爵』を名乗る人物は静かに夜会を眺める。
投げかけられる言葉に応じ、持ちかけられる相談に笑みで答え、称賛の挨拶にはそれ以上に相手を称える。
そうすることで、『毒』の侵食具合を、しっかり確かめるのだ。
『毒』――それは、物理的に致死性のそれを盛ったという意味ではない。
言うなれば、『毒』とはディスケン・モローを名乗り、立場を騙る自分そのもの。じわじわと相手の身を蝕み、気付かぬうちに命にさえ手をかける。そうした目的で盛られた『毒』は、今や王国のあらゆるところに蔓延っていると聞く。
伝聞系なのは、『毒』を撒く計画の詳細を、自分もまた知らないからだ。だが、自分だけのはずがなく、その影響は国勢を眺めていれば密やかに感じる。
おそらく、『毒』が本格的に効果を発揮するときは近い。
その来たるべき瞬間のために、あらゆる障害を取り除いておく責務がある。――だからこそ、姿かたちが全く同一の存在にも拘らず、その中身の真偽を疑った古参の家臣や使用人たちには、まとめて消えてもらわなければならない。
彼らにも、招待状は送ってあった。
ただしそれは、目の前で繰り広げられる華やかな夜会への招待ではなく、事情説明と和解に向けた話し合いを名目に、裏手の通用口から別棟に入るよう指定したものだ。
すでに全員が到着し、屋敷の地下へ案内されている。そして、楽団が最後の曲を終える頃には、彼らは静かに館を去る。――死体となって。
遺体は竜車に積まれ、街道の途中で盗賊に襲われたように見せかける手筈だ。
彼らは主との関係修復に失敗し、憤慨したまま夜会を辞した。このあと、家臣たちとの話し合いが破綻したと、そう哀れに訴える『モロー子爵』の言葉を、この場にいるものたちは慰めを口にしながら受け入れ、その後の悲劇を知るだろう。
今夜が終われば、この領地から不協和音は消える。『毒』としての本懐だ。
『モロー子爵』を名乗る人物はそう確信し、近付いてきた商人の世辞に笑みを返した。
「いや、まったく、素晴らしい宴です。時に子爵様、あちらのご夫妻とはお話になられましたか?」
話題にした商人の視線の先には、招待客の輪の中に立つ一組の男女の姿があった。
夫妻という話だが、最初に目を引くのは妻の方だ。
豊かな黒髪を艶やかに結い上げ、白い肌を彩る化粧も、身に纏った夜会服も品よくまとめられている。暗色のドレスは裾に向かうほど大きく広がり、細く絞られた腰と豊かな曲線を一層際立たせていた。
女は開いた扇を口元に添え、傍らの年嵩の貴婦人と談笑を交わしている。その視線の運び方や仕草、いずれも過不足なく行き届いた姿はただ美しいだけではなく、自分がどう見られ、どう振る舞えば相手を喜ばせられるか、よく心得ているようだった。
――ナツミ・シュバルツ。
確か、急逝した父親から莫大な資産を相続した令嬢――招待客の名簿にはそう記されていたが、他領の紹介状を通じて急遽加わった客で、味方でまとめたはずの今夜の会で、数少ない新顔だった。
その傍らには彼女の夫が立っており、深緑の髪を一つにまとめた長身の人物だ。
華美に過ぎない礼装を身に纏い、腰には装飾を施した長剣を帯びている。武門の家柄の出身らしく、姿勢と歩き方に鍛錬の跡が見えたが、特に目を引くのはその顔貌――整った容姿をさらに印象付ける、左目の眼帯だ。不足がかえって、残された美を際立たせると、そんな印象を覚える人物で、妻と並んでも引けを取らない似合いの夫婦だった。
「あの方々でしたら、私も先ほどお話しさせていただいたわ」
領主の視線の先に気付いて、香水の匂いを漂わせる婦人が話に割り込んでくる。彼女は噂好きらしい、好奇心旺盛な笑みを覗かせながら、
「なんでも、奥様の財産の投資先を求めて、各地を回っていらっしゃるとか」
「どうやら、他の方々も関心を寄せておられるご様子。無論、私もその一人ではありますが、主催者である子爵様を差し置いてというのはいささか、と思いまして」
婦人の悪戯な眼差しと、恩着せがましい商人の言葉に愛想笑いで応じる。だが、それからしばらくの間にも、シュバルツ夫妻の話は幾度もこちらの耳に入った。
それだけに、『モロー子爵』の頭にもその名前がしかと刻まれた頃合いだった。
「――ナツミ・シュバルツと申します。ご挨拶が遅れました非礼を、どうかお許しくださいまし」
そう、優雅な挨拶と共に一礼したナツミ・シュバルツを前に、『モロー子爵』は鷹揚に頷いて、獲物を見定める眼光を笑みの裏に隠した。
「今宵は素晴らしい席にお招きいただき、夫婦共々感謝しております。こちらの領地は大変活気がありますね。子爵様の治世が、広く領民に受け入れられている証拠でしょう」
妻の挨拶に続いて、夫もまた丁寧な一礼ののちに『モロー子爵』の手腕を称える。
無論、返す言葉の用意はいくらでもあった。夫妻は新顔だが、ずいぶんと話好きではあるらしく、二人と話した招待客から次々と情報を得られたためだ。
しかし、いずれの手札を切るか吟味する『モロー子爵』の口を、「ただ」と大事な話の前置きとして夫の放った一声が塞いだ。
「私どもは、妻の実家から預かった財を動かす立場にあります。目に映ったものだけで、軽率な判断を下すことはできません」
「いくらか漏れ聞こえたお話なのですが、子爵様は領内でいくつもの新事業を進めていらっしゃると。よろしければ、詳しいお話をお伺いすることは可能ですかしら?」
わずかに声の調子を落とした夫に合わせ、妻がそう本題を切り出す。
なるほど、話を進める段取りは夫婦間で十分話し合われたもののようだ。となれば、迂遠な物言いで本題を遠ざけても、互いに不要な時間を浪費するだけだろう。
場所を改め、話をし、シュバルツ夫妻もまた、この『モロー子爵』の『毒』を広げる責務の一端を担ってもらう。――憂慮は消え、手札は増える。なんと好日か。
「――お時間を割いていただき、感謝いたしますわ、子爵様」
夫妻を招き入れた談話室には、『モロー子爵』の護衛も立ち入らせなかった。シュバルツ夫妻の折り入っての頼みとあって、必要な譲歩だったと言える。
ともあれ、広間の賑わいと厚い扉を一枚隔て、『モロー子爵』と夫妻と三人きりだ。
「ここ数ヶ月、こちらの領地では街道の拡張や、新しい市場の建設と、非常に活発な変化を迎えられているとお聞きいたしました。『停滞は衰退と同じ』と、シュバルツ家は変化と成長こそが栄達の道と、そう父に教え込まれておりますの」
野心的な家訓の持ち主らしく、ギラギラしたものを隠さない妻の言葉に苦笑しつつ、『モロー子爵』は自らの手で三つのグラスに酒を注ぎ、席に座った。その酒には手を付けず、「お気を悪くしないでいただきたい」と夫が妻の言葉を継ぎ、
「このモロー領には、私も妻同様に可能性を感じている。その可能性を信じ、こちらも行動に移すため、いくつか確認させていただきたい」
主導権を握ろうとする夫、その様子にちらと妻を窺えば、彼女は交渉は夫に任せるつもりらしく、閉じた扇を握る手を膝に置いて、安心した様子で微笑んでいる。
ならば良しと、『モロー子爵』はシュバルツ夫妻の関心と理解を買うために、必要なものであれば何でも揃える旨を伝えた。
「事業の収支は非常に重要だ。資料はもちろん拝見させていただきたいが、それ以上に、私や妻が重要視するのが、取引をする相手が信用に値するかどうか。――近頃、子爵様は長く仕えた家臣を大勢遠ざけ、新たな人材を登用しているとか」
切り出された話題に、『モロー子爵』の内心に、不要な家臣たちへの苛立ちが募る。
今夜のうちに取り除かれる憂慮ではあるが、それで邪魔者への怒りが薄れるわけではない。新たな、使えそうな人材の取り込みの障害になるならなおさらだ。
「功績と能力を同列に語るべきではないとはいえ、長く仕えたものを切るのは容易な決断ではない。当然、子爵様のお若い頃から傍にいたものもいたでしょう」
聞きたいのは、交渉が成立し、無事に取引相手となったあとの接し方か。
変化のため、非情にも古くからの家臣を切った『モロー子爵』が、新たに身の内に迎え入れる相手をどう重用するか、気になって仕方ないらしい。
不要な心配だ。有用であるなら、あえて使い捨てるような真似はしない。もっとも、有用すぎて、『毒』として使えると思われた場合、それこそ『モロー子爵』のように、しっかりと使える手駒に入れ替えられる可能性までは否定しないが。
いずれにせよ、シュバルツ夫妻の疑念が解けるならと、『モロー子爵』が泣く泣く切るしかなかった家臣たちとの思い出と、その功績を感情を昂らせて語り聞かせる。
どの思い出も作り話ではなく、実際にあったこと。落竜したときの傷の話など、落ちた場所と負った怪我、関わった使用人全員の顔と名前まで答えられる。
そこまでできて、ようやく偽薬ではなく、『毒』としての責務を果たせるのだ。
「――なるほど、十分にわかりました」
涙ながらに家臣との絆を語った『モロー子爵』に、夫が感じ入ったように頷く。ちらとその琥珀色の瞳が、隣に座る妻の方を向いた。
交渉は夫が、決定権は妻が持つという役割分担だろうか。とはいえ、ここまでの受け答えを聞いていれば、素直に頷く以外の選択肢はないはずだが――、
「もう一つだけ、確認させていただけますこと?」
「ナツミ?」
打ち合わせにない行動だったのか、妻の言葉に夫が微かに眉を寄せた。
片目を眼帯で覆った夫の疑念の目に、しかし妻は畳んだ扇を顎の下に当てる仕草で応じ、その黒瞳に『モロー子爵』を映しながら、
「庭のリンガの木が、今年も実をつけた。――これは、どういう意味ですの?」
それは、これまでのやり取りと趣の異なる、全く違う角度からの問いだった。
ディスケン・モロー子爵の能力や人間関係の是非を問うものではなく、その極々個人的な思い出に関わる内容で、それを何故、彼女が口にしたのか不思議ではあった。
だがこのとき、『モロー子爵』は質問の内容に虚を突かれたことを隠すように、小さな苦笑を唇に刻み、首を横に振った。
ナツミ・シュバルツが口にしたのは、『モロー子爵』に長く仕え、数年前に引退した家臣との思い出――かつて、本物の子爵がその家臣の家で振る舞われたリンガが渋く、次からは毎年甘いリンガを約束した、というつまらない出来事のことだ。
四日前、件の家臣から届いた手紙にも同様の文言が記されていた。その意味を、『モロー子爵』はその日のうちに本物に確かめ、記憶の齟齬を埋めている。
どうやらそれ以来、リンガは毎年送られてきているらしい。今年も、モロー子爵が受け取ると信じ、相手はリンガを送るだろう。
「まあ……お二人だけに通じる、素敵なお誘いでしたのね」
それを聞いたナツミが、感激したように目元に手を当て、その眦を拭う。今の反応からして、すっかり『モロー子爵』への警戒は氷解したようだ。
もっとも、仮にあと百、二百の問いがあったとて、何ら問題はない。本物の子爵が答えるだろう答えを、『モロー子爵』は完璧に――、
「――嘘の風が吹いているぞ」
そう、凛とした声が発されたとき、『モロー子爵』は一瞬、思考を止めていた。
唇を湿らせようと、手にした盃を口元に運んだまま、硬直する『モロー子爵』の視界、言い放った夫が、自らの顔に手をかけ、眼帯を外すのを見る。
露わになった左目――それは眩い金色の、『龍の眼』であった。
「――ッ」
危機を察した瞬間、『モロー子爵』は夫妻との間にあったテーブルを蹴り上げた。
けたたましい音を立て、子爵と夫妻の間を小卓が遮る。が、それは静かに抜き放たれた剣閃に斜めに両断され、さらに向こうから突き出される長い足を止められない。
すらりと伸びる蹴りの靴裏を胸に浴び、息を詰まらせ、『モロー子爵』の体が真後ろに吹っ飛んだ。だが、後ろに倒れ、転がったのは狙い通りだ。
相手を視界に入れたまま、座っていた長椅子の背もたれに隠していた杖を抜き、魔石の嵌め込まれた魔杖の先を、不届きな夫妻――否、大敵に向ける。
『龍の眼』を宿した存在、それが自分たち『毒』の敵であることを、『モロー子爵』は十分に理解していた。故に、手加減は抜きに風の刃が膨れ上がり――、
「――E・M・T!」「かしら!」
発生する爆発的な風が、その身を切り刻まんと大敵に迫るはずだった。
だが、魔杖から放たれるはずの風の刃が、不意にその効力を喪失し、意味と形を持たない無害なそれに変換され、散る。そして、その謎の現象が起こったのと同時に、『モロー子爵』の目に、それ以上の謎の光景が飛び込んできていた。
『龍の眼』の後ろに立ったナツミ・シュバルツ――その、膨らんだスカートが大きくまくれ上がり、中からドレス姿の幼い娘が姿を現していたのだ。
まさか、ずっとスカートの中に隠れていたのかと、困惑が頭を支配する。――それが、決定打となった。
「残念ながら、相手が悪かったようですわね」
閃いた剣を首筋に当てられ、動きを封じられる『モロー子爵』に、剣を握った『龍の眼』ではなく、隣に幼女を連れたナツミ・シュバルツが、何故か勝ち誇っていた。
△▼△▼△▼△
――ディスケン・モロー子爵の急病につき、夜会は早々に閉会した。
子爵の身を案じる言葉を残し、続々と退散する招待客たちや、宴のために用意された楽団などが屋敷を離れると、ようよう夜会の喧騒が完全に失われる。
そうしてから、改めて館の一階――奥まった一室に集められた人々の姿を見渡し、スバルはホッと小さく息をついた。
「本当に、皆さんに何もなくてわたくし、心からホッといたしましたわ……」
「って、テメエはいつまで役に入り込んでやがんだ! 妙に堂に入ってやがって、それが仮にも騎士の特技か、オイ!?」
目元にハンカチを当てて、感涙する気持ちを堪えるナツミ・シュバルツ状態のスバルに、横合いから罵声を浴びせたのは、給仕服姿のラチンスだ。
いわゆる、バーテンダーやギャルソンを思わせる黒と白の装いを纏った彼は、丁寧に整えた髪型もあって、一端の好青年に見える。実際、潜入していた夜会の最中も、その立ち回りはなかなかご婦人方に好評だったようだ。
「とはいえ、その目つきですものね。わたくしもわかりましてよ。幼い時分から、目つきのことで周囲に色々言われたものですもの」
「勝手に仲間扱いしてんじゃねえよ。たまたま行き合ってるだけだ。喜んで女装するようなヤローは、オレの仲間にゃ必要ねえ」
「そんなこと言っていいんですの? あなたの身内の陣営にも、案外女装が似合う殿方がいらっしゃるかもしれませんわよ」
「いてたまるか! ったく、テメエといい、『青蛇』といい……」
「――なに? 今、私の話してた?」
唇を曲げて、悪態をつくラチンスの頬が強張った。ちらと振り向く彼の四白眼の先、別室のドアを開けて現れたのは、彼と同じ給仕服を纏ったフェリスだ。
上着を脱ぎ、シャツの袖をまくったフェリスは、その手についた血を手布で拭いながらラチンスと、何故かスバルを睨みつける。
「お疲れ様でしたわ、『青蛇』。怪我人は大丈夫でして?」
「――。ま、ギリギリね。別棟に集められた人たち……入れ替わりで都合の悪い人たちがまとめて処刑されるところだったのを、『長っ舌』くんたちが食い止めてくれたおかげ。それでも、最初の一人に選ばれた人は危なかったけど、ネ」
「あそこから持ち直したのかよ。相変わらず、化け物だな、テメエの魔法は」
「褒め言葉だと思っておいてあげる。『長っ舌』くんが死にかけたときも、ちゃーんと私って化け物が治してあげちゃうから」
口さがないラチンスに、フェリスも皮肉の舌鋒を緩めない。
あと一歩、仲良くなれない二人に苦笑しつつ、スバルは不安げにしていた人々――処刑を免れた、ディスケン・モローの旧臣たちに安堵が広がるのを見る。重傷だった仲間が助かったと聞かされ、ようやく無事を実感し始めたのだろう。
と、そこへ――、
「くはははは、調子がよくてノリの悪い連中だ! 助かったんならはしゃげ騒げ! 気掛かりがあるなら嘆け喚け! どっちつかずの中途半端はお呼びじゃないな」
安堵でまとまりかけた空間に、悪い水を差すのは高笑いする声だ。
のしのしと床を踏みしめ、無遠慮に部屋を覗き込んできたのは、色黒の肌に癖のある小麦色の髪をした、勇ましい風貌の長身の青年だ。キリッとしていれば精悍だろう顔をひどく嘲笑的に歪めた彼は、手にした酒の瓶に上機嫌に口を付けている。
一応、フェリスたちと同じ給仕服のはずだが、その振る舞いと言動で、全く違った装いにすら見えるから不思議なものだ。
もっとも、それは彼の態度を見慣れたスバルたちだからそれぐらいで済むのであって、今さっき命の危機から救われたばかりの人々には刺激が強い。
「ちょっと『黒狗』、なんですの、その態度。とても危ない立場にあった方々に対し、そんな思いやりのないことを……」
「おお、なんだどうした、お説教か? だーが! オレの態度がどうとか言う前に、真実を隠した汝の姿を顧みよってなもんだろう。それにこれにあれにどれに、オレはそいつらの命の恩人様なんだ。文句言われる筋合いなんかなーいだろ?」
「それとこれとは話が別で……」
「お前の論理で勝手に自由に分けるなら、オレの理屈で自儘に都合よく合わせてやる。そら、慰めたいなら勝手にやれ。オレはオレで手酌でやってる。美人の公爵に酌してもらえるんなら、それも大歓迎だがな。くはははは!」
どちらも自前の理屈と言われれば、成果を上げている『黒狗』に強くは言えない。
事実、彼の協力なくして、このディスケン・モロー子爵の屋敷で行われていた、悪辣としか言えない『入れ替え人形』の被害をゼロにはできなかった。――否、今も、ゼロにできたとは言えないかもしれない。
「生憎と、屋敷のどこにもそれらしい反応は見当たらなかったのよ。やっぱり、本物はどこか別の場所に囚われていると見るべきかしら」
スバルが静かに拳を握りしめたところに、まさにその懸念を裏付ける報告をベアトリスが持ち帰った。
屋敷の中を巡り、何らかの魔法的な痕跡や仕掛けの有無を探していた彼女の隣には、それに同行し、一緒に不審な点を探っていた麗人――クルシュの姿もある。
ナツミ・シュバルツと夫婦役、その夫の立場を務めた彼女は、すでに眼帯を付け直した勇壮な美貌で、「そうだな」とベアトリスの報告を肯定する。
「『司書』と一緒に巡ったが、私の目にも異変は映らなかった。ディスケン・モローに化けたものも、依然として口を割る素振りもない。配下のものが生きていれば話は別だったかもしれないが……」
「くはははは、お生憎様のご愁傷様」
眼光鋭いクルシュに睨まれても、『黒狗』の態度は悪びれもしない。
仮面とローブで正体を隠しているときも人を食った印象の男だが、それを脱いで、人格に似合わない素顔を晒しても、彼の奇矯な印象は強まるばかりだった。
ともあれ――、
「――我々の主は、どこにもいらっしゃらなかったのですね」
集まった顔ぶれを前に、そう掠れた声でこぼしたのは、椅子に座る旧臣の一人だ。
別棟に呼ばれ、処刑されかけた子爵の臣下は十四人にも上る。いずれも、『入れ替え人形』の被害に遭ったモロー子爵の偽物に、違和感を抱いた真の忠臣と言える。
声を発したその一人以外も、主を案じる気持ちは同じだろう。
「……『長っ舌』」
「チッ、テメエらにゃ悪いが、この屋敷だけじゃなく、別棟と地下も調べた。そっちの二人が隠し部屋だのなんだのがないかもな。けど、空振りだ」
「では、旦那様は……」
疑念が事実だったとされ、偽物に席を奪われた本物の姿がどこにもない。そのことに旧臣たちの表情を失意と諦念が覆っていく。
しかし、スバルは「待って」と声をかけ、
「諦めるにはまだ早いですわ。わたくし、偽物に確かめましたの。――以前、屋敷で働いていた方と、モロー子爵とのリンガのお話について」
「それは、私の前任の家令との話ですか? ですが、それは……」
「彼はわたくしたちの協力者ですわ。そして、その件について手紙を書いたのが四日前のこと……それに、あの偽物は完璧に回答いたしました。ですわよね、『翠麗』?」
「そうだな。あの言に嘘はなかった。当人の記憶ではないが、あの話自体は真実と考えて間違いない。――そうか。卿が予定外の質問を重ねたのは、そのためか」
「ええ。――おわかり? 偽物は、本物のモロー子爵から聞かなければわからない思い出を知っていた。つまり」
「――旦那様は、生きておられる?」
「――ええ、間違いありませんわ」
目を見開いた旧臣、その老いた男性の前に歩み寄り、スバルは彼の皺だらけの乾いた手を握り、深々と頷きかけた。途端、彼の目に涙が浮かび、衝動は周りにも伝播する。
それを切っ掛けに、重苦しさが支配しかけた部屋の空気が変わった。
声を上げて泣くものこそいないが、絶望に俯きかけた顔が次々と持ち上がり、瞳には使命感――行方の知れない主を探すという、それが宿った。
「であれば、なんとしても旦那様を見つけて差し上げねば――」
「――卿らの想いは正しい。だが、主のためを思えばこそ、その行動は推奨できない」
「――っ」
だが、その旧臣たちの想いに、正面から待ったをかけたのは男装したクルシュだ。
夜会で、『モロー子爵』を騙った偽物を取り押さえたときと同様に、腰に帯びた長剣に触れ、凛然とした佇まいで彼女は旧臣たちを見渡す。
その鋭い眼差しに、彼らは「何故……」と声を震わせた。
「今、この領地は主を失った状態にある。偽物に登用されたものの中には、事情を知らずに従っていたものもいれば、敵と通じたものもいるだろう。命令系統を整理し、政務を滞らせず、領民への影響を最小限に留めなくては、生じる混乱はどれほどになる」
「それは……」
「本物のディスケン・モローが帰還したとき、領地が荒れ、領民が苦しみ、子爵が守るべきものが何も残っていなければ、それは真の意味での主君の救済とは呼べまい」
「――――」
続けられるクルシュの言葉に、最初は混乱と反発心があった旧臣たち、その表情に理解と納得が広がり始め、自然と彼女の論に耳を傾けるようになっていた。
聞かせ、導くものとしての天性のカリスマ、それが彼女にある証――、
「この先、卿らがすべきは今日までと変わらぬ領地を装うことだ。偽物の排除を悟られぬよう、合議で政務を担い、子爵は病に臥せっていると広めよ。――いずれ帰還する主君のため、その席を、子爵の帰る場所を守ることだ」
それを、クルシュが口にすることの重みを思い、スバルは彼女の横顔を窺う。
旧臣たちと向かい合い、凛とした言葉を伝えるその横顔に個人的な感傷はない。ただ、彼女もまた、不当な容疑で居場所を奪われ、追われ続ける立場なのだ。
「また、そうやって……」
小さく、背後でそう呟いたのは、そんなクルシュの現状に対し、最も強く衝動的な思いを抱かざるを得ないフェリスだった。だがそれは、弱々しい顔の頬を手で打ち、深く頷く忠臣たちと向き合うクルシュにまでは届かない。
「――承知いたしました。我らは、旦那様が戻られるまで、この地も、あの方の席も、必ずや守り抜きます。ですから」
「ああ、我々に任せるがいい」
決意した旧臣の言葉に、クルシュもまた深々と頷き返した。
そして――、
「――たとえ、この身に流れる血の全てを流し尽くしたとしても、必ずや、この王国に救った病巣を斬り払い、卿らの憂いを晴らしてみせる」
そう、地位を追われた身でありながら、おそらくは、王選候補者という存在にこれ以上ないほど相応しい自負を以て、答えたのだった。
△▼△▼△▼△
「――皆さん、お疲れ様でしたっ! こちらに被害なく、作戦は成功です」
「まぁ、ベティーとスバルにかかれば、このぐらいは当然なのよ。『白羊』も、なかなかいい仕事をしたかしら。褒めてあげるのよ」
「あ、ありがとうございます。その、恐縮ですっ」
ぺこぺこと頭を下げ、ベアトリスのねぎらいにはにかんだのは、今回の作戦で、特に大きな役目を果たした『白羊』だった。
普段の黒いスーツ姿ではなく、夜会に潜入するための薄青の夜会服に身を包んだ彼女は、スバルとクルシュの演じたシュバルツ夫妻と同じく、あの宴の席に招待客として潜り込み、その人当たりの良さを活かして、偽物の『モロー子爵』が、シュバルツ夫妻に興味を抱くよう、参加者たちの話題を巧みに誘導したらしい。
「もちろん、俺たちもできるだけそつなくこなしてたはずだけど、『白羊』ちゃんのシゴデキぶりには驚かされるよ。ホントに助かった」
「い、いいえ、スバルさん……じゃなくて、ナツミさんたちのお力あっての成功だと思います。全然、わたしなんて大したことは」
「大したことしてないは嘘でしょ。それと、もうカツラ取って化粧は落としたから、ナツミじゃなくて、スバルでいいよ。不完全な状態でナツミは名乗りたくないんだ」
「え、でも、まだドレスが……あ、何でもないです。はい」
何か言いかけて、結局引っ込めた『白羊』の様子にスバルは首を傾げる。が、それをしっかり追及するより、緊張が解けたことによる疲労感の方がドッときた。
「正直、うまくいきすぎたくらいうまくいったな……」
そう思い、ドレス姿のスバルが振り返るのは、最後の最後までこちらを見送るために、頭を下げ続けていた旧臣たちのいたモロー子爵の屋敷の方角だ。
今夜、あの屋敷で起こったことは秘匿され、いつか本物の子爵が帰還するときまで、臣下たちの奮闘によって、領地諸共に維持されることになるだろう。
ただし――、
「言っとくが、連中だって気付いちゃいるだろうぜ。敵に事情を悟られて、本物の子爵が始末されちまう可能性なんてな」
「ラチンス……」
「それでも託されたなんて、暑苦しいこと言うんじゃねえぞ。そんなポンポン他人の荷物なんか背負い込めるかよ。ただでさえ、テメエの荷物で手一杯だ、こっちは」
舌打ちするラチンスに、スバルも言い返す言葉が見つからない。
本当の意味で、このモロー子爵領を元の形に戻せるかどうかは、か細い希望に縋り、頼りなく吊られた橋を奇跡を信じて渡り切るしかないのだ。
そして、その橋の奇跡を信じるのは、モロー子爵領だけに留まらない。
「もう、二ヶ月も……」
悔悟と焦燥を己に刻み込むように、スバルは過ぎた時間に思いを馳せる。――スバルたちが王都を追われ、『六枚舌』と行動を共にしてから、それだけの時間が経過した。
その間、王国の各所を転々としながら、ルグニカ王国の深部に潜り込み、まさしく国家の転覆を目論む『愛し子』との戦いは続いている。
驚かされたのは、『愛し子』たちによる有力者の入れ替えは、王都の上層部だけに留まらず、王国の各地にまで及んでいたことだ。――今夜のモロー子爵のような事例を、スバルたちはこの二ヶ月で五件解決し、これが六件目だった。
「王国の、『入れ替え人形』の被害は深刻だ。それを一個一個潰すのに、意味があるのはわかってる。わかってるけど……」
「スバル、焦りは禁物かしら。城のエミリアたちはきっと無事なのよ。それについては、クルシュが保証してくれていることかしら」
「――正確には、城に残ったこちらの手のものに確認させ、その報告を私が偽っていないことを、『翠麗』が加護で確かめているという流れですがね」
「――――」
握りしめたスバルの手に小さな両手を重ね、その心に寄り添うベアトリス。と、そのスバルたちのやり取りに、建物から姿を現した人物が口を挟んだ。
モロー邸から離れた森の中、『六枚舌』が一時的な集合場所として確保した狩猟小屋、その入口に佇むのが、件の組織の長官であるラッセル・フェローだった。
「ラッセルさん、わざわざ長官自ら出迎えにきてくれたのか?」
「ええ。迎えに出したはずの『白羊』がいつまでも戻りませんので、何か不測の事態でもあったものかと。それと、作戦中は『銀狐』でお願いしたはずですよ、『灰星』」
「む、まだ作戦中って判定?」
「少なくとも、あなたがドレスを着替え、捕縛した偽のディスケン・モローの身柄を移送し、この地を無事に逃れたと、そう判断できるまでは」
慎重に慎重を期したラッセルの返答に、スバルは指で頬を掻いた。
考えすぎだとか、そこまでやらなくても、なんて楽観的な意見は、これまでの敵の動きを見ていれば、スバルの口からは言えようはずもない。このラッセルの徹底した方針が『六枚舌』を、ひいては王国を延命させているのは事実なのだ。
「けど、俺の『灰星』とかベア子の『司書』はともかく、ラチンスの『長っ舌』はちょっと投げやりすぎねぇかな。クルシュさんの『翠麗』は、俺の意見が通ったけど」
「わかりやすくわかりにくい、が要件ですので。皆さんも中へ。今後の方針について、話し合いたいことがあります。――ああ、それと、『灰星』」
「うん?」
「結果的に作戦に影響はなかったとはいえ、不要なやり取りを挟むことで、相手の不審を買う恐れは非常に高かった。ああした行いを、考えなしにやるのはやめていただきたい。我々全員の、すなわち、王国そのものを危うくする行為です」
目を細め、静かな口調で投げられた警告に、スバルは「う」と小さく唸る。
指摘は、正直、覚悟の上の独断だった。元々、情報提供者となったモロー子爵の元家令の人物に、リンガの思い出話を手紙に書くよう頼んだのもスバルだ。
それもこれも全ては、偽物が知らない情報を聞かれたとき、情報源――すなわち、生かされている本物と接触し、話を聞いている確信が欲しかったから。
そして、その情報があることで救われるのは、ラッセルが重視するように、ルグニカ王国なんて大きなものではなく――、
「あの場で主君の命が失われた絶望に俯く、臣下たちを救うために必要なことだった」
そう、後ろからスバルの行いの真意を明かしたのは、その場に居合わせたクルシュだ。
他ならぬ彼女こそが、スバルの独断で最も危険な状況に引き込まれた立場と言える。もちろん、スカートに隠れて息を潜めていたベアトリスもだが。
「『翠麗』、あなたは彼の行いを肯定すると?」
「合理性に重きを置くのであれば、『灰星』の独断は褒められたものとは言えない。公爵としての観点からも、誤った判断だったと言えるだろう。――だが」
「だが?」
「今や私は国に追われ、公爵の地位を追われた身だ。その上、個人的な主観によれば、この男の甘さを好ましくすら思う。卿にかかる負担には、哀切の意を表そう」
「……意見は受け止めておきますよ」
クルシュの堂々としたスバル贔屓に、ラッセルが目元を揉んでそう応じた。
「すまないが、中に入れてもらう。やはり、この眼を使うと負担が大きい。寝入りはしないだろうが、座りたい」
言い残し、クルシュはラッセルの横を抜け、狩猟小屋に入っていく。話の最中、我関せずの『黒狗』もすでに建物に入っており、『白羊』も慌てて頭を下げると、たぶん、人数分のお茶の用意に小屋に駆け込んでいった。
「はん、オレはあれこれ言いたくなる気持ちはわかるぜ。だから、好き放題に言ってやっても気にしねえよ。いくら馬鹿でも、勝算なしでやるほどじゃねえだろうしな」
ケラケラと、叱責されるスバルを笑い、脱いだ上着を肩に引っ掛けたラチンスが小屋に入っていく。そのねぎらいなのか同情なのか、区別しづらい言葉にラッセルは応じず、スバルたちの後ろにいるフェリスを見やり、
「『青蛇』、あなたも中へ。疲れているかもしれませんが」
「別に? 人数も、怪我の深さもひどいときよりずっとマシ。このぐらいで疲れたなんて言ってたら、王都の治療院じゃ使い物にならないから」
ひらひらと手を振り返したフェリスに、ラッセルが肩をすくめ、小屋に戻る。
スバルとしては、ラッセルの心労に一役買っている自覚があるので、正直、謝りたい気持ちでいっぱいなのだが。
「神経逆撫ですることにしかならねぇだろうしなぁ」
「仕方ないのよ。上に立つものの責務かしら。エミリアとか、ロズワールがあの手の苦悩と無縁なのが特殊なのよ」
「そうかも。それに、正直に話したら余計にラッセルさん怒らせそう」
最大限、ラッセルがこちらに歩み寄ってくれているのがわかった上で、それでも、それ以上を勝手に求める姿勢をやめられないのがスバルだ。
その最たるものが今日の独断であり、ラチンスはああは言ってくれたが――、
「ホントは、勝算なんてなかったでしょ」
「フェリス……」
「『青蛇』ね。『銀狐』に聞かれたらうるさいよ、『灰星』くんに『司書』ちゃん」
「――――」
「『灰星』くんは甘え上手だよネ、ホント。――羨ましいったらありゃしない」
そう、可愛らしい声で、可愛くない鋭さの視線を浴びせられ、スバルは閉口する。
だが、それ以上の応答を許さず、フェリスもまた、スバルの横を抜け、狩猟小屋の中に入っていって、その場にはスバルとベアトリスだけが残される。
「はぁ、俺、めっちゃ頑張ってるよな、ベア子」
「スバルの頑張りは、ベティーがいつも一番近くで見守ってるかしら。……きっと、みんな無事なのよ。とにかくタフで、へこたれない連中かしら」
「――だな。俺たちが、音を上げてる場合じゃないぜ」
ラッセル経由とはいえ、城に残されたエミリアとラムの安否はかろうじて確認が取れている。が、逃亡したらしいレムやオットーたちの動向はわからないまま。
ただ、捕らえたなら大々的に発表するはずという、何もかも利用するだろう相手への負の信頼が、その無事を遠回しに伝えている――と、自分を納得させている。
いずれにせよ――、
「――いい加減、エミリアーゼだけじゃなく、レムシチンもラムノ酸も、ガーフェインもオットーゲンもペトラミドもメィリトールもフレデリミンも足りない! あとついでにロズワノールも」
「仕方ないのよ。今は、ベアトロミンだけで我慢かしら」
「うおー、ベアトロミン吸収―っ! ベア子吸いだ!」
会えないまま、想いを募らせている仲間たちのことを考え、スバルはベアトリスを抱き上げると、その軽い体を抱きしめ、くるくると回る。
回りながら、ちらちらと煌めく星々に祈る。――彼女たちの無事と、再会を。
「『灰星』! 『司書』! 入るように言ったでしょう! 何度も言わせないでいただきたい!」
と、この二ヶ月で何度も聞いた、ラッセルの叱責の声が、高く森の夜空に響き渡った。




