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Re:ゼロから始める異世界生活  作者: 鼠色猫/長月達平
第十章 『獅子王の国』
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第十章幕間 『兄弟姉妹』



 ――窓のない部屋だった。


 円形に切り取られた広間、その中央を大きく占めるように円卓がある。

 正確には、円卓ではない。角を浅く落とした、八角形の大卓だ。八つの辺に一脚ずつ椅子が置かれ、席は全部で八つ。

 そして今、そのうちの四つが埋まっており――、


「――なあ、いっつも思うんだけどよぉ。このカクカクしたテーブルとかってぇ、どっこで用意してるもんなんだぁ?」


 どっかりと、円卓の上に両足を投げ出し、頭の後ろで組んだ両手を椅子の背もたれに押し付けながら、態度悪く疑問を投げかける声がする。

 明るい青髪を逆立てた、目つきの悪い若者だ。態度は大きいが、小柄で声が高く、どことなく血気盛んな小動物を思わせる雰囲気がある。ガシガシと、続けざまに円卓に踵を落とし、忙しなく音を立て続けていることもそれを助長していた。


 そんな若者の疑問に、「ふむ」と低く唸ったのは、彼の隣の辺に座った老人だった。

 大柄な体格は縦にも横にも厚く、小柄な若者と並ぶと大人と子どもの体格差だ。カララギのワソーめいた作業着姿で、老人は若者の方を振り向くと、


「リボーンよ、仮の話だが、今のおぬしの問いにどんな答えが欲しいのだ? 望む答えを言ってみよ。仮定で構わんぞ」


「仮定も何もねえけどぉ? いい出来だし、こっちの人数に合ってっし、よくこんな都合のいいテーブルが用意できたもんだよなぁって思っただけだがぁ?」


「そうか、いい意味であったか。心の備えがあって正解であったわ」


「ああん? そりゃぁどういう意味だぁ?」


「なに、この円卓を作ったのは我輩であるからな。称賛にせよ心無い評価にせよ、何を言われるにも、前もって備えはいるであろう?」


「回りっくでぇんだよ、ジジイ! 褒めんじゃなかったぜぇ!」


 一度強くテーブルに踵を落とし、リボーンと呼ばれた若者がそう吐き捨てる。その悪罵に老人は「こらこら」と、太い眉を顰めながら己の白髪まじりの頭を撫でた。


「樹齢数百年の古木を使った円卓であるぞ。長い歳月を経たものには敬意を払え。大抵の場合、年月というものは嘘をつかぬ。我輩も同じだ。年寄りは敬え」


「敬えだぁ? 具体的にどうしろってんだぁ?」


「いいか、本気にするなよ。仮の話として聞け。年寄りを敬うということは、こういうことだ。――我輩が死ねと言ったら、速やかに死ね」


「じゃあ、言われる前に殺さねえといけねえなぁ、アルバレストぉ!」


「あの!!」


 卓上の足を振り上げ、勢いよく反転して椅子から降りたリボーン、彼が背負った大振りの刃を老人――アルバレストに向ける寸前、ガタンと椅子を蹴る音が重なった。

 それは、リボーンを挟んで、アルバレストと反対側に座った人物――まだ十代半ばか前半にも見える、栗色の髪をした幼い少年だった。

 少年は涙目で、ラグマイト鉱石の入った大きなランプを両手で抱きしめながら、


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい! 謝るから怒らないで。怒られると、頭がくらくらしてくるの。だからやめて。謝るから。ごめんなさいってば……っ」


「見よ、リボーン。ここで一番年少であり、軽んじられる立場のトルネルがああも健気に訴えている。仮にも年上なら、恥ずかしいとは思わんか?」


「なぁ、んん、でぇ、こいつがめそめそ謝ってんだよぉ。そぉ、んん、でぇ、なんで俺がそれに免じてやんなきゃなんねえんだよぉ……!」


 少年と老人――トルネルとアルバレストに挟まれ、リボーンが怒りに震える。

 そのまま癇癪に任せたリボーンが暴れ、あわや室内に血が流れる――と思いきや、


「――ねえ、わたし、気付いてしまったの。今、トルネルがアルバレストを庇おうとしたのって、大切に思うが故の感情の爆発……つまり、二人は愛し合ってるってことではなくて? なんてこと! すごい歳の差! 燃え上がる愛だわ!」


 そう言って、興奮に声を上擦らせた女の声が、場の空気を無遠慮に切り裂いた。

 頬を紅潮させ、テーブルに手をついて立ったのは、大きな帽子と、床までつきそうな長い紫まじりの黒髪をした、黒いドレスの女だった。彼女は大人びた風貌と裏腹に、まるで夢見る少女のように瞳を輝かせ、己の頬を両手で挟む。


「でも待って? こういう可能性もなくて? トルネルはアルバレストを庇ったのではなくて、リボーンが自分以外を見ることに耐えられなかった……だから、あえて矢面に立つことで自分を見てほしいと訴えたのよ! これだわ!」


「これだわじゃねえよぉ! 気味悪いこと言ってんじゃねえぞぉ、リコリス……この恋愛脳がぁ! 四六時中、頭の中でくちゃくちゃくちゃくちゃしやがってよぉ」


「もうもう、恋愛の当事者になるのを照れてるの? そんなんじゃ、大事な誰かにそっぽ向かれて……待って? もしかして、わたしに誤解されたくなくて? だからそんな態度なの? わたしのことが好きなの? わたしも!」


「――だぁまぁれぇ」


 頬を染めてくねくねする女に、リボーンが刃先を向けてそう命じる。結果、女は胸の前で手を合わせ、何やら口をもごもごさせているが、無言になった。それでも十分、表情や動きで存在のうるささを主張してはいたが。


「リボーン、兄弟姉妹の間でこれはご法度であろうが。仮の話、今リコリスにしたことがママに知れれば、手痛い躾をされるのはおぬしの方となるぞ?」


「そんときゃぁ全員の口を封じてやるよぉ。この中に俺に勝てる奴がいんのかぁ?」


「仮の話、無理であろうな。正面からならまだしも、何でもありならなおさら」


「わかってんならいいんだよぉ。……いつまでくねくねしてんだぁ!!」


「――――」

「ひぃ! ごめんなさいごめんなさい!」


 無言でくねくねする女と、自分が怒鳴られたように頭を抱えるトルネル。どちらの反応にも苛立つリボーン、その額に青筋が浮かんだ。――そのときだ。


「――いやあ、すまないすまない、遅くなってしまった! 招集をかけておいて実に申し訳ない。何分、国家の運営に忙しくしているものでね!」


 そうよく通る声で言いながら、カツカツと慌ただしい靴音を立てて、一人の青年が部屋に入ってくる。褐色の肌で、黒を基調に白と金色をあしらった長衣を纏った、すらりとした長身の美青年だ。彼は後ろに、印象の異なる二人の少女を引き連れていた。

 一人は波打つ緑髪の、伏し目がちに俯く色白の少女。もう一人は輝く金髪を肩口で切り揃え、眩く人目を惹く瞳が特徴的な美しい少女だった。

 彼女たちを引き連れた青年は、ぐるりと大卓を回り込み、首を傾げる。


「うん? どうしたね、リコリス。いつも情熱的な君が無言で歓迎とはらしくない……ははぁ、さては君だな、リボーン。ダメだダメだ、ママの言いつけは守りたまえ! 『落伍者』だの『問題児』だの、そんな烙印は押されたくないだろう?」


 沈黙したまま、くねくねと踊る女――リコリスの様子に、青年が水を向けたのは唇を曲げてそっぽを向いたリボーンだった。自分を無視するリボーンに青年が苦笑し、代わりに青年の後ろにいた、美しい少女が「そうね!」と声を弾ませた。


「ええ、そうそう、ダンドンの言う通りよ。何もかもそう。このままだと、リボーンは落伍者とか失敗作ってことになるわ。ママにそう報告しましょう。それがいいわよね。ねえ、ダンドン、そうでしょう?」


「いいや、ルチエレカ、私はリボーンを信じているよ。彼はちゃんと忠告に耳を傾ける度量を兼ね備えている『賢人』であると!」


「そうね! ダンドンの言うことはいつも正しいわ。リボーンはうるさくて生意気で死んでほしいこともよくあるけど、大事な助言くらいちゃんと聞けるわ。ねえ、そうでしょ、リボーン。あなたは馬鹿でも、死ぬほど馬鹿ではないわよね?」


「チぃッ」


 ニコニコと明るい少女――ルチエレカの微笑みに、リボーンが憎々しげに舌打ちし、手にした刃の刃先を硬い床に落とした。キーンと、骨に響くような音が室内を打つ。

 すると――、


「――けないわいけない、そんなの破廉恥よ。でも、障害は大きければ大きいほど愛の炎は燃え上がるものだものね。ルチエレカとクラリッサ、いったいどちらがダンドンの愛を獲得するの? ……もしかして、わたし!?」


「どぉだ、何言ってんのかわかんねえだろぉ。てめえらで何とかしろよなぁ」


「そうね! リコリスったら何言ってるのか全然わからないわ。全部何もかもリボーンの言うことが正しい。私もそうだと思っていたの。ダンドンもそうでしょう?」


「ははは、私はリボーンとリコリスのどちらかを贔屓するような『差別主義者』ではないよ。どちらも等しく、大切な兄弟姉妹だ! ただリコリス、私は兄弟姉妹で恋情を抱くような『異常者』ではないから、そこを忘れずにね!」


「そうだわ、リコリス、異常よ! あなたの考えは異常! この異常者!」


「ルチエレカの当たりがわたしに強い……わたしを好きってこと? わたしも!」


 一時的な沈黙を破り、熱っぽい語り口と眼差しで室内を見渡す女――リコリスに、青年や少女、リボーンらの間によくない空気が広がる。が、その空気が蔓延し切る前に、高く大きな音が、全員の注意を部屋の真ん中に引いた。

 音の原因はそそくさと席に着いた緑髪の少女、彼女が指先で木片を潰した直後、八角の大卓に、中央から蜘蛛の巣状のひび割れが走っていた。

 それをした彼女は誰とも目を合わせず、俯いたまま唇を震わせ、


「い、いいからもう、座って……早く始めて、終わらせないと、ママが怒るわ。怒るでしょう。それは、私は嫌です。嫌なので」


「――よし、みんな! クラリッサがすべきことを教えてくれた! さあさあ、席につきたまえ! 大事な大事な話をしよう!」


「ふむ、だがな、ダンドン。これは我輩が作った大卓であったのだぞ。仮の話、こうして割れ物にする前に一言かけてくれれば……」


「我が兄弟にして親愛なるお祖父様、私は席につこうと言ったね。ママから皆のまとめ役を仰せつかった私だ。お祖父様に『足手まとい』の烙印は押したくないな」


「――。なに、仮の話よ、仮の話」


 大きな両手を上げ、アルバレストが身を引くと、青年――ダンドンが深く頷いて、それから改めて、「さあ!」とその場の全員に着席を促した。

 それを受け、室内の七人がそれぞれの席へと大人しく着席。そうして全員が所定の位置につくと、唯一、空席となったのが上座の一席で――、


「では、不在のママに挨拶をしよう。頭を垂れ、日々の感謝と募る愛を込めて」


「「――ママ、いつもありがとう。世界で一番愛してる」」


 神妙に、真剣に、ここまで息も合わず、態度もバラバラで、性別から年齢から主義主張、その全部が不揃いだった七人が、このときばかりは奇跡のように一致する。

 言葉、所作、あらゆる全てが、ただ一人の対象に向けられる儀式――その内容に目をつむれば、全てをなげうつ神聖なものにすら感じられただろう。


 その静謐をしばし保ってから、最初に顔を上げたダンドンが、二度、軽やかに手を叩いて儀式の時間の終わりを告げると、


「さて、では愛しいママへの挨拶も済んだところで、楽しく、明るく、実りある話し合いを始めようじゃないか! ――最初の議題は、行方をくらませた『危険人物』、王選候補者のクルシュ・カルステンについてだ」


 そう言って、ダンドンがひび割れた大卓の上に一枚の紙を置く。

 そこに描かれているのは、長い緑髪をまとめ、凛々しい顔立ちをした美しい女――このふた月、追っ手の追跡を逃れ続けている『戦乙女』クルシュ・カルステンだ。

 目下、王国は彼女をマイクロトフ・マクマホン殺害の実行犯として手配し、その足取りを追い続けているが、一向に影すら掴めない状況が続いている。


「王都の出入りはもちろん、街道の関所に各地の竜車の発着場、行商人や旅籠の関係者にまで聞き込みし、記録を洗わせているが、音沙汰なしだ。カルステン公爵と共に姿を消したナツキ・スバル、その後、二人と同行が確認されたフェリックス・アーガイル――これらが一緒に行動していることは間違いないだろう」


「しかし、人が煙の如く消えるはずもあるまい。仮の話、煙と化していたとて、見つけ出せるだけの手勢がこちらにはあるはずだ。それが見つからぬとなると……」


「それができる協力者がいる、ということだろうね。我々が把握できていない何者かが、彼女らの逃亡を助け、食事と寝床を用意し、捜索の目から隠している。――おそらくは私たちの宿敵、『六枚舌』だ」


「……『六枚舌』、いつも、厄介です」


 親指の爪を噛み、青白い顔の少女――クラリッサが鬱々と呟く。

 この場にいる全員にとって、『六枚舌』の名は大きく、忌まわしい意味を持つ。――敵対するその組織の妨害で、どれだけ母の機嫌を損ねてきたものか。

 母の機嫌は、上機嫌でも不機嫌でも、恐ろしくてしょうがないものなのに。


「ねえ、わたし、気付いたのだけど、クルシュとフェリックスは元々主従よね? でも、ここに割り込んだナツキは違う陣営だったはずよね? なのに、一緒にいるなんて、略奪愛としか考えられないと思わない? これは愛の炎よ!」


「そうね! リコリスの言う通り、愛なんだわ! ナツキ・スバルは、クルシュ・カルステンを愛してるのよ! だから一緒に逃げているのね! でしょう?」


「いいえ、違うわ、ルチエレカ! ナツキが愛してるのはフェリックスの方なの! だってその方が障害が大きくて、燃えるもの!」


「間違いないわ! あなたって頭はおかしいし、みんなに嫌われているけれど、リコリスの言うことは全部正しいに違いないわ! みんなもそう思うでしょう?」


「ごめんなさいごめんなさい、二人のせいで話が進まなくて僕がごめんなさい」


「なに、トルネルが謝ることはない。可能性の模索という意味で、リコリスの病気にも意味はあるだろう。ルチエレカは、トルネルを見習って静かにしているように」


「そうするわ! ダンドンがそう言うんなら!」


 笑って席を立ったルチエレカが、ほとんど対面の席のトルネルの下に向かい、その彼の隣で自分の口を両手で押さえ、黙り込む。その仕草にトルネルはおどおどとしたが、やがてルチエレカと同じように、自分の口を両手で塞ぎ、これも黙った。


「馬鹿共が黙って少しは話しやすくなったぜぇ。でぇ? いい加減、『六枚舌』の連中のこたぁ少しはわかったのかよぉ」


「いやいやいや、これがさっぱりだ! なにせほら、彼らの体には呪印がある。話を聞こうにも、核心に爪の先が触れただけでスパッと自裁さ。これでは到底、何の情報も聞き出せたものではないよ。徹底した無慈悲な指示、この指導者は『冷血漢』だな!」


「六枚も舌があって、一枚も自由にできんか。仮の話、強敵であるな」


 相手の尻尾が掴めないという話なのに、受け答えするダンドンは快活さを失わない。相手をするリボーンとアルバレストが難しい顔をする中、「いい、ですか?」と、控えめに手を上げたクラリッサが問いを重ねる。


「……まだ、カルステン公爵は、王都に隠れてることも、ありますか?」


「ある。というか、その可能性を消そうとすると、王都での目撃証言が上がったりする。痕跡を消すだけでなく、あえて出すことで攪乱されているわけだ。優秀な敵ばかりで何とも能力の振るい甲斐がある! そう思わないかね、兄弟姉妹」


「優秀な敵ばかり、という話になると……仮の話だが、二つ目の議題はそれか?」


「まさにね! 我が兄弟にしてお祖父様はよくおわかりだ。議題の二つ目は、これもやはり我々の手を逃れた、エミリア陣営のものたちについてだとも」


 エミリア陣営とひとまとめにすると、クルシュと共に消えたナツキ・スバルの存在がいかにもややこしい異分子だが、エミリアの騎士である彼を除いた他の面子も、こちらが身柄を拘束するのに先んじてその手を逃れ、逃亡中だ。

 それも恐るべきことに、『剣聖』ラインハルト・ヴァン・アストレアを躱して。


「『剣聖』は、水門都市で、他の陣営とも協力した……そういう話です。ママの邪魔もしたと聞いていますし……わざと逃がしたんじゃ?」


「それをした場合、望まぬ結果になることは彼も承知しているはずだ。そこまで『愚か者』だとは思わないな。お祖父様、あなたの意見は?」


「ふむ、そうであるな。もしもに備え、『剣聖』への枷はできるだけ課しているはずであるが、あれは噂以上の傑物であるな。枷の数は相手の器次第であるが、仮の話、今の『剣聖』と同じ枷をリボーンに課せば、我輩もリボーンも死んでいよう」


「なぁ、んん、でぇ、俺を引き合いに出してんだよぉ」


「もうもう、リボーン、わからないの? アルバレストが、こんな風にあなたの話をしたがる理由なんて、一個しかな――。――。――――。――――!」


「リボーン! あまりママへの報告案件を増やさないでくれたまえよ! とはいえ、納得してもらえたかな、クラリッサ。そうか、『いい子』だ」


 上げた手を静かに下ろしたのを肯定とし、ダンドンが大卓の上に次々と、行方の捜索が続けられているものたちの手配書を広げていく。

 当然、この場の全員、穴が開くほどに見た顔ぶればかりだ。


「エミリア陣営のものたちは、『剣鬼』ヴィルヘルム・ヴァン・アストレアと合流後、その足取りが掴めない。『剣鬼』と『六枚舌』が繋がっていたとしたら、陣営はクルシュたちと合流している恐れもある」


「聞き出すのはそっちの仕事だろうがぁ。とっととジジイ共に売らせろよぉ」


「枷に嵌めるのも、烙印を定着させるのも簡単なことではない。もし仮にそれができたなら、一層楽に王国もママの手に落ちたであろうが」


「……『六枚舌』の指導者の候補だった人は? あの、西方辺境伯の」


「「――ロズワール・L・メイザース」」


 クラリッサの疑問に、返答の声を重ねたのはトルネルとルチエレカだった。

 それを恐れ多いとばかりに、トルネルは頭を抱え、ルチエレカが目を輝かせる。


「ご、ごめんなさいごめんなさい。余計なこと言っちゃった」


「いいのよ、トルネル、安心して。今のは私があなたの声に合わせただけ。私は何にも考えてないわ。言いなりのお人形よ。でもでも、あなたが余計なことを言った役立たずでいたいならそれもいいと思うわ。あなたって本当に役立たずね!」


「ひぅ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


「さてもかくにも、ちょうど話題に上がったメイザース辺境伯のことが三つ目の議題と直結している。彼こそが『六枚舌』の指導者ではないかという疑念……事実、彼は王城への登城命令を無視し、屋敷のものと共にこれまた姿をくらました!」


「つまるとこぉ、誰もいねえんじゃぁねえかぁ!」


「はっはっは、まさにその通り! メイザース辺境伯は『亜人趣味』だの『宮廷道化師』などと揶揄されているが、化かされているのは我々の方だな!」


 トルネル、ルチエレカ、リボーンの騒がしさに、負けじとダンドンが大きな声で、状況の悲惨さを無視したような調子で高笑いする。

 だが、それは決して、都合の悪い事実から目を背けた愚考ではない。


「城も、国も、押さえているのは私たち、です……違いますか?」


「違わぬ。仮の話、ここまでうまく逃げおおせても、一生逃げられるものでもない。奴らにも無視できぬ期限がある。我輩たちにも言える話だが」


「――そうだ。『反逆者』たちと雌雄を決するときは近い」


 大きく、円卓の上に掌を落として、クルシュの手配書をダンドンが握り潰す。

 笑みを湛えたまま、そう宣言した彼に、他の六席を埋めたものたちが目を向ける。たった一人の母を頂点に、母への愛という絆で結ばれた兄弟姉妹が。


「では諸君、現状理解も共有できたところで何よりだ。各々、すでに下されている指示に従って――うん? ああ、待ってくれ。連絡がきた」


 そう言って、話をまとめようとしていたダンドンが長衣の内から小さな鏡――『対話鏡』を取り出し、それを手の中で開く。

 鏡面に映し出された、連絡を飛ばしてきた相手とダンドンは目を合わせ、


「やあやあやあ、忙しくしているようだね。こちらは兄弟姉妹全員が揃って団欒を過ごしていたところだ。君がいなくて残念だが、急用かな?」


 鏡面に映る相手に親しく笑いかけたダンドン、その表情が、相手から返ってきた言葉を聞いて、微かに強張る。

 その内容は――、


「――拘禁されていた、エミリアとフェルトが抜け出した? それも、『神龍教会』のフィルオーレが手引きする形で?」


「「――――」」


 確かめるダンドンの呟きに、円卓の置かれた部屋の空気が止まった。

 また一つ、予定になかった出来事――それも、ふた月前にクルシュを取り逃がしたときと同じか、あるいはそれ以上の、些事とは呼べない不測の事態。


 集まった視線を受け、ダンドンはしばし沈黙する。

 やがて、円卓の上で重なった手配書を、唯一の空席――誰も座っていない上座の前に動かして、嘆くように顔を手で覆った。


「――『支持者』たちを動かそう。なに、慌てることはない」


 そうして、顔を手で覆ったまま、続ける。

 それは自分に、自分たちに言い聞かせる、兄弟姉妹――『愛し子』の総意。


「愛しいママの意を汲むのは、よくできた『愛息』と『愛娘』の条件というやつさ」


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― 新着の感想 ―
相変わらず魔女教関連の手足は、頭が既にイカれた奴らしかいないなぁ。
内容が頭にはいってこなかった 読んでて構造が整理しにくいというか、単純に新キャラだから興味持ちにくいのもあるけど
「エミリアとフェルトが抜け出した」→想定外。 「それも、『神龍教会』」→主語でない。→ついで。 「――『支持者』たちを動かそう」→動かなければならない。→動く必要が出来た。想定外。→不都合が起きた。 …
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