第九作目 「無双の剣士 ~最強の剣を手に入れたら誰も俺に手出し出来なくなってつまらないんだが?楽しむ為に神へ挑んでみた件について~」
重厚な銀の鎧を身に纏い、職務を成し遂げる盾張の姿に、感動が止まらなかった。
男の中の男、いや、それだけでは言い表せていない気がする。
自分の表現力の無さに、今日も目からヤニが零れ落ちる。
急いでタバコを吸って補給しよう。
今日も部屋にはタバコと色々な臭いが混ざった空気が漂っているのだろう。
誰か俺の代わりにこの部屋を掃除してくれ。
パソコンが唸り声とともに光を放ち始め、モニターから文字が飛び出し始めていた。
文字が頭上に並び、作品名がタバコの煙の中を漂っている。
「無双の剣士 ~最強の剣を手に入れたら誰も俺に手出し出来なくなってつまらないんだが?楽しむ為に神へ挑んでみた件について~」
これは俺の九作目、自称「剣だが件」。
戦士団に加入した主人公の「ラインハルト」22歳は、訓練で訪れた森の中、不思議な光を放つ祠に触れる。すると、見知らぬ洞窟に飛ばされてしまう。
そこには人の言葉を理解する竜が住んでおり、ラインハルトは、竜から剣を渡される。
竜剣ドラゴンスレイヴ。天をも切り裂くと言われている伝説の剣だ。
ラインハルトはその剣とともに、強者を求めて冒険をする話が「剣だが件」だ。
モニターから光が放たれ、視界を真っ白に染めていく。
「……お"え"っ」
「う"ぶっ……お"え"っ」
視界が元に戻る前から嗚咽が聞こえた。
ラインハルトの引き締まった身体、腰に差している光り輝く竜剣、美しく光を反射している磨かれた赤い皮鎧すらも、俺の部屋には通用しなかった。
「次は体じゃなく、鼻を訓練しておくんだな」
「てめえ、いったいどういうつもりだ」
「剣に手をかけるのを今すぐやめてください」
「ここはいったい何処だ、お"え"っお前はなんだ?」
「ここは俺の部屋で、俺は庭辺です。殺さないでください」
「こんな場所が部屋だと? う”っ、ダンジョンかなんかの間違いだろ」
これじゃ仲良くなる前にラインハルトが死んじゃうよ。
「しゃあねえな、窓を開けてやるか」
「動くな、何をしようとしている?」
「嗚咽し散らかしてるラインハルトを救おうとしてるんだよ」
「てめえ、どうして俺の名前を知っている? 死ね!」
「やめろ! 俺みたいなのにその剣を振るうのは勿体ないし剣が可哀そうだ!」
「……っ! クソが!」
しかめっ面なラインハルトの視線が賃貸の窓に向いた。
竜剣が振りぬかれ、俺の家を守っていた窓を吹き飛ばす。
風通しが良くなり、ラインハルトの怒りと嗚咽が収まっていく。
「俺は窓以下か」
「それでニワベ、てめえの目的はなんだ? どうしてオレをここに召喚した?」
「それがさっぱりわからないんだよな」
「どういう事だ」
「俺が俺の為にラインハルトを呼んだわけじゃなくて、勝手にラインハルトが来てんだよ」
「こんな所に用はないぞ……」
「こんな所に用がある奴なんてこの世に居ねえよ」
ラインハルトが登場する 「無双の剣士 ~最強の剣を手に入れたら誰も俺に手出し出来なくなってつまらないんだが?楽しむ為に神へ挑んでみた件について~」では、
対等な相手がいなくなり、荒みだしたラインハルトが酒場で酒に溺れてしまう。
そこから……そうだ、そこで更新するのをやめたんだった。
「さ、最近どうよ?」
「ああ? どうもこうもねえ、退屈で退屈でしょうがない」
「っすよね~。なんか、ソリティアでもやる?」
「なんだそれは?」
「このパソコンっていう箱で遊べるゲームなんだけど……」
ソリティアの遊び方をラインハルトに教えることにした。
退屈を紛らわせるには娯楽が一番だ。
事実、ラインハルトも娯楽の一種であるお酒に溺れていたわけだしな。
俺の世界でラインハルトを楽しませて、元の世界に戻っていただく作戦だ。
だが、一つの誤算があった。
ラインハルトは剣一筋で世界中を冒険していた屈強な戦士、脳みそも筋肉で出来ているのだろう、ソリティアが壊滅的に下手だった。
他のゲームも試してみるが、見事なまでにゴミカスな手腕で散り続けていた。
「クソ野郎! 切り裂いてやる!」
「やめて! パソコンに責任はないでしょ!?」
「クソがァ!」
竜剣が振りぬかれ、押し入れを消し飛ばした。
「やめてぇ! 賃貸はなんも悪い事してないよぉ!」
「うるせえ!」
パソコンから離れ、鼻息が荒いラインハルトをどうするか頭を悩ませた。
なんだこいつ、こんな気性の荒い奴に育てた覚えはないぞ。
俺が更新を「竜剣 飲んだくれ編」で止めたせいだろうか。
もしそうだとするなら、ラインハルトは何年間酒を飲み続けていたのだろうか。
すまん、ラインハルト。お前をアル中にしてしまったかもしれない。
「お、お酒でも飲む?」
「早く持ってこい!」
「乱暴しないでぇ……」
「してねえだろうが!」
全然している。家の一部どころか、二部がもう消し飛んでいる。
「発泡酒と、缶チューハイならあるな」
「ラインハルト~? ビールと甘いお酒、どっちがいい~?」
「酒ならなんでもいい! 早くしろ!」
「完全にアル中じゃねえかよ、ほら、持ってきたぞ」
ラインハルトの手に発泡酒が握られると、何故か怒り出した。
「おい、これ……蓋が取れねえじゃねえかよ!」
「そ、それはプルタブを引っ張ってだな」
「ああもう! 全部死ねやァ!」
「やめてぇ!」
発泡酒が光速で飛んでいき、パソコンの裏に小さく佇んでいた窓が砕け散った。
「ごめん! ちゃんと開けてから渡せばよかったな!」
「フゥー……フゥー……」
プルタブを引くと、カシュッと爽やかな音が聞こえる
爽快な喉越しを期待させる音、割れまくった窓、消し飛んだ押し入れ。
耳と目が同時に楽しんでいる気がする。
「ほ、ほら、これで飲めるから」
缶チューハイに口を付けると、味わう事なく一気に飲み干していく。
もう完全にただのアル中だ。
「……ぷはぁ~! うめえ!」
味わっていないくせに「うめえ」というのは、タバコを吸う人間なら分かる。
味として旨いんじゃない。喜びすぎた脳が勘違いして「旨い」と感じるのだ。
絶対にアルコールとタバコには手を出してはいけないと、タバコを吸いながら思っていた。
「ラインハルト、本当に何しに来たの? 帰ってくんない?」
「家壊して酒飲んでるだけのダメダメ関白亭主じゃん」
「バカ、俺だってこんな所からさっさとオサラバしたいに決まってるだろ」
「オサラバしてくれよ」
「帰還魔法が発動しねえんだよ」
「マジかよ、なんとかして帰ってくれよ」
「帰れねえんだって!」
帰還魔法は、地上にいる時であればいつでも最後に寝た街へ戻れる便利な魔法だ。
そう、最後に寝た街へ戻れるのだ。
「ラインハルト、ここに来る前何してた?」
「あ? 酒場で酒飲んで……あんま覚えてねえな」
「お前もしかして、寝た状態でここに来た?」
「あー、かもな?」
最悪だ。こいつが寝た状態でここに来てたのだとしたら、
ここが帰還魔法の転送先だ。
「今はもう無くなってるけど、ちょっと窓から外に出てみてくれ」
「あ~? 面倒くせえな。なんでだよ」
「一生のお願い! お願い! 道路に出たら帰還魔法してみて!」
「外なら行けんのか?」
「多分! 知らんけど!」
窓があった四角い空間をラインハルトが通り抜けていく。
それと同時に、俺の手は祈りの捧げていた。
頼む、ここに戻ってくるなと。
「帰還魔法!」
ラインハルトが窓の外で帰還魔法を唱えると、
すごい勢いで部屋の中に戻ってきた。
「最悪だ……」
「嘘だろ? こ、ここが、こんな所が俺の墓場になるのか?」
「これからずっと一緒だよ」
「「うわああああああああ!!!」」
6畳の部屋で、Tシャツボクサーパンツマンと、竜剣を持った最強の男の叫び声が響き渡る。
ニコチン中毒者とアルコール中毒者のコラボレーションなんて最悪すぎる。
生活費が酒とタバコだけで溶けてしまう。
「ラインハルト、ここに来た時ずっと嗚咽してたのって……」
「ここの臭いがやばかったのもあるな」
「……酒飲みすぎて嗚咽してたのかよ」
現代社会において、ラインハルトは俺と同等の生産能力しかないだろう。
むしろ歩く銃刀法違反だ、常に罰金だ。
終わった。なんとしてでもこいつには帰ってもらわないと、共倒れ確定だ。
「ラインハルト頼む、正直に言ってほしい事がある」
「なんだよ……」
「なんかやりたい事とかないか?」
「別に酒が飲めりゃそれで……」
「それは俺が困る、酒に溺れる前に望んでた事とか無いか?」
「……対等に戦える相手が欲しかった」
ラインハルトは竜剣を手にしてから数年間、
一方的な勝利を積み重ね、国王から認められ、周辺国家から恐れられた。
最初の頃は嬉しかった他者からの評価も、増えていくにつれて陳腐になった。
次に求めたのはライバル、挑める相手、強敵。
つまり、俺がラインハルトをボコればいいのか?
「俺がラインハルトと戦ったら、どうなるかな?」
「缶を開けるより簡単に終わるだろうな」
「お前開けられなくてぶん投げてたじゃん」
「死ぬか?」
「冗談じゃん」
絶対無理だ。"こいつ"は俺が想像から創造した超強い無双の剣士だ。
32歳ボクサーパンツを履いてるだけで、ボクシングをしたこともない一般人に勝てるワケがない。
本格的に詰んでしまった。
「……コンビニ行くけど、なんかいる?」
「酒」
「クソデカいウイスキーと焼酎のボトル買ってくるわ」
「なんだそりゃ、まあ酒ならいい」
「うん……お仕事、一緒に探そうね」
「早く買ってこい!」
「殴らないで!」
「うるせえ! 殴ってねえだろうが!」
仕事もしない酒飲み亭主が光とともに俺の前に現れた。
女性と交際する前に旦那が出来るなんて、俺の人生はいったいどうなっているんだ。
「お会計、4839円になりま~す」
コンビニで安くて量の多い酒を片っ端からカゴに入れた。
会計している姿を傍から見たら、アル中なのは完全に俺の方だろう。
「ただいま~」
「……酒は?」
「あなた、そろそろお仕事探してくださいよ」
「殺すぞ」
「ごめん、これ買ってきたよ」
4Lの焼酎を渡すと、勢いよく飲み始めた。
こいつ、本当に終わっちゃってんな。
「終わっちゃってんな」
「は?」
声に出してしまっていた。
「いや、あのーその酒の名前がオワッチャッテンナっていうんだよ」
「そうなのか。オワッチャッテンナ結構うまいぞ」
こいつがバカで助かった。しかし、問題は何も解決していない。
このクソバカ最強アル中剣士をどうやって元の世界に戻せばいいのか分からないままだ。
頭を抱えたまま、とりあえずタバコを吸う。
ラインハルトの飲みっぷりは見ていて気持ちがいい。が、マジで本当にそろそろ帰ってほしい。
そんな俺の想いが届く事はなく、酒を飲み続けるラインハルトを眺めているうちに日が暮れた。
「よ、夜になっちゃったね」
「……ああ」
酒が回りまくったラインハルトの目がとろ~んとしている。
一つ屋根の下、窓が消し飛んで風通しの良い部屋で男二人。何も起きないはずがなく。
「布団、一組しかないけど大丈夫かな?」
「あ~……ああ」
完全に酔っぱらっている。
このままでは添い寝コース確定なのに、脳が働いておらず、肯定しかしてこない。
「シャワー、先に浴びちゃうね」
「……ああ」
胸の高鳴りが収まらない、俺の初めてはラインハルトに捧げちゃうんだ……
シャワーを浴び終え部屋に戻ると、普通にラインハルトが布団で寝ていた。
「俺の布団なんですけど」
風を防ぐ窓がない部屋の中、俺は寒さに震えながら夜を明かした。
翌日、寒さで目が覚めた俺。足が氷のように冷えている。
目をこすって周りを見渡すと、ラインハルトがまだ気持ちよさそうに寝ていた。
「神様、今すぐこいつに向けて隕石を剛速球で投げてください」
ラインハルトの寝顔を見つめながら、タバコに火をつけた。
こいつが彼女なら、彼女の寝顔を朝から拝めて幸せな1日だっただろう。
だが、こいつは俺から布団を奪って寝ているただの最強アル中剣士だ。
マジでこのまま二人暮らしが始まってしまうのか?
俺の破壊された窓も押し入れもこのままなのか?
浮かんでくる考えに絶望し続けながら、タバコの火が消えかけた時、パソコンが光を放ち、モニターから文字が浮かんできた。
待て、頼むから待ってくれ。
この状況で変なのが追加されたらもういよいよ終焉だ。
そんな俺の願いが届く事はなく、モニターから文字が飛び出し始めていた。
寝ているラインハルトの頭上に浮かんでいる文字を眺める。
……
「神速の剣 ~俺が早すぎて誰にも見られないまま世界中のモンスターを滅ぼした結果、知らない奴が英雄として扱われていた件について~」
主人公 ラインハルト 22歳
今日は戦士団の訓練の日だ。
森の中で木を伐り、運び、体を鍛える。
一本目の木を切り倒し、より太い木を探して彷徨っていた。
木々の先に不思議な光を放つ祠が目に入った。何かが聞こえる気がする。
祠に吸い寄せられるように近づいていくラインハルトが祠に触れると、
辺りが光に包まれ、見知らぬ洞窟に飛ばされてしまう。
気が付くと、目の前には広い洞窟を埋め尽くすほどの巨体。
赤き竜が居た。
赤き竜が口を開く。
「あの祠は心清き者をここへ導く役割、私の命は間もなく終わりを迎える」
「あなたにこれを授けましょう。世界を正しく導いてください」
ラインハルトの眼前に竜剣 ドラゴンスレイヴが浮かんでいた。
「俺なんかが、この剣を手にしていいのか?」
「はい、あなただからこそ、手にしてよいのです」
「俺に何が出来るかなんて分からないぞ」
「大丈夫、己を信じ、歩み続けてください」
ドラゴンスレイヴを手に取るラインハルト。
一騎当千、無双の剣士 ラインハルトの冒険が今、始まる!




