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第六作目 「超高速ダンジョン攻略!誰も追いつけない速度でギルドランクSになってしまった件について」

俺が、空上を黄金郷に連れていってあげられたんだな。

頭の中で繰り返し思い出す。

それと連動するかのように、口角が上がって天井に突き刺さっていく。


ふとモニターとパソコンを置いているコタツの横に目をやると、

書籍化された本が少し積みあがっていた。


「異世界に転移した俺がスキル「拒絶リジェクト」で魔王を瞬殺してしまった結果、神と呼ばれる事になった件について」 第一巻

「悪役令嬢に転生した私が冷血王クールブラッドキングと呼ばれている人に溺愛されている件について」 第一巻

「最弱の俺、ガチャから出た最強の仲間に囲まれて俺を追い出した仲間に復讐を誓った件について」 第一巻

「もう遅い。女神の加護レイズブレッシングを受けた俺を連れ戻そうとした奴らにざまぁしてみた件について」第一巻

「Fly フライ ~空高く舞い上がれ~ あの雲の上にある黄金郷を目指して僕らは飛ぶ」第一巻


この本たちの表紙を飾っているタイトルを読むだけで、

タバコ一本分、約3分くらいの時間が無くなりそうだ。


少し前からお(・)か(・)し(・)く(・)なったいつも通り。

今日もいつも通りタバコに火を付け、天井を見上げる。


モニターが一段と明るさを増し、

俺の部屋を俺ごと光で包んでいく。


そう、これがお(・)か(・)し(・)く(・)なった原因だ。


突然の通知、動かない画面。

キモい参加規約が書かれたコンテスト。


「彼らの目標を果たすまで、世界は取り込まれ続けます」

「目標を達成出来た作品は、全て《書籍化》されます」


あの日から俺の現実は、夢よりも夢のようになってしまった。


「ここ絶対アンデッドのダンジョンだ……死臭がするよ」


そう、こんな風にだ。


「まだ死んでねえよ」


突然目の前に現れたガキは、俺が第六作目に書いた作品、「超高速ダンジョン攻略!誰も追いつけない速度でギルドランクSになってしまった件について」の主人公、地下道(ちかみち) モグルだ。


「お前がこのダンジョンの主だな!?」

「主である事は認めるが、ここはダンジョンじゃないぞ」

「そんな訳ないだろ……この臭い、湿気、確実に最下層付近だ!」

「うるせえよ」


彼は異世界に生きる冒険者で、駆け出しのくせにダンジョンを次々と攻略していった。

誰もが苦戦するダンジョンを一人で攻略し、ギルドマスターからも厚い信頼を得ている。


「確かに人間っぽい……かな?」

「100人中99人は俺を人間だと言うだろうな」

「分かった……おじさん、誰?」

「俺は庭辺(にわべ)、このダンジョンの主だ」

「やっぱりダンジョンの主じゃないか!」

「冗談だよ、モグル」

「ぼくの事知ってるんだ、ギルドの人?」

「まあ、そうとも言えるな」


9歳らしい小さな背丈、背中と腰には見た目に似つかわしくない綺麗な宝剣を携えている。


「その剣、懐かしいな……」

「洞窟の隠しポータルで宝物庫に行った時のやつだろ?」

「おじさん詳しいね!洞窟歩いてたら手に入るなんてさ~」

「本当、運がよかったよ!」

「うんうん」


普通に可愛い。

第一印象はクソガキだったが、低い身長、大きな目、小さな顔、声変わり前特有の澄んだガキボイス。


それになんてピュアな瞳をしているんだ。


俺の瞳はドブみたいな色をしているが、モグルの瞳は透き通った宝石みたいな黒で輝いている。

俺も小さい頃は、こんな瞳だったんだろうか。


「あ、おじさんじゃないや、ニワベさんだ!」

「うんうん、おじさんでもなんでもいいんだよ」

「それでモグル、ここには何をしに来たんだ?」

「今日は初心者向けのダンジョンが変質したって聞いて向かってたんだけど」

「気が付いたらここにいたんだ」

「そうか、窓の外に見えるあの洞窟がそのダンジョン……だろうな」


現代社会の空気漂う窓の外、そこに異質すぎる"洞窟"が、住宅街を飲み込む様に存在していた。


「AI(エーアイ)生成画像みたいになってるな」

「えーあい?」

「いや、こっちの話だ。ほら、行ってこい!」

「うん!」


しまった、窓の使い方を教えていなかった。


「おりゃああああああああああ!」


敵も何もいないのに、気合が入ったモグルは、賃貸の窓を剣で叩き割った。


「あ、そうだ。おじさん」


窓を叩き割ったモグルが、ピュアな瞳でこちらを見つめている。


「ど、どうしたのかな?俺を叩き割るのはやめろよ?」

「そんなことしないよ!ダンジョンが変質しちゃってさ」

「先に進む為に、二人必要なところがあるんだって」

「だから、ついてきてほしいな~……」


若干の上目遣いで俺を堕としに来ている。

こいつは自分の可愛さを分かっているタイプだ。俺はこういうあざとい奴が大嫌いだ。


自分の見た目を武器として、相手を自在に操る。

そういう奴が俺は「もちろんだ」

絶対に許せない。


「やった!」

「え?」

「もちろんだ。って……」


俺は本当に弱い人間だ。弱者オブザイヤー毎年金賞受賞だ。


「ダンジョンに行くっていっても、俺は凄まじく弱いぞ」

「大丈夫!せーので踏む床があるから、それ手伝って!」

「同時に踏まないと開かない扉があるんだな」

「うん!」

「おっけー!それならまかせろ!」


砕け散った窓を丁寧に開け、外に向かう。

道路を歩いていると、洞窟が眼前に迫ってくる。


普通に道路を歩いていたはずなのに、道路と洞窟の境目を超えた瞬間、世界が変わったような気すらする。

例えるなら、湿った土から香ってくる匂いに、雨の日特有の匂いを森の中で嗅いでいる雰囲気だ。


これが、異世界の空気なんだ。


「じゃあ行くよ!時間伸長魔法(タイムストレッチングマジック) 対象者 ぼくとニワベさん!」


時間伸長魔法(タイムストレッチングマジック)は、対象者の時間を横方向に伸ばす魔法だ。


24時間が10センチだとしたら、それを50センチまで飛ばす。

この魔法を使うことで5倍くらいの速さで動けるし、世界は5倍遅くなる。


モグルはこの魔法を使って、脅威的なスピードで数多くのダンジョンを攻略していった。


「変質したダンジョンの攻略って、どれくらいの時間がかかるんだ?」

「大体50分くらい!」

「よし、俺がめちゃくちゃ援護してやる!」

「じゃあ5日くらい!」

「どんだけ足引っ張ってんだよ俺」


ダンジョンの入り口に差し掛かると、冷たい風が俺らを通り抜ける。


エアコン16度設定の風速「中」くらいだ。


「うおっ……ダンジョンって結構寒いんだな」

「ここはアンデッドが居るからね」

「敵によって違うんだな」

「マグマのダンジョンなんて、すっごく熱いんだよ」

「俺は絶対に行かないからな」

「うん!来ないで!」


会話をする度に心のかすり傷が増えていく楽しい冒険が始まった。


が、凄まじくサクサクと進んでいく。


アンデッドモンスターがこちらを認識し、顔をこちらに向けるまでに、俺たちは3個先の曲がり角を曲がっている。

それくらい周りが"遅く"感じた。


モグルが数多くのダンジョンをソロ攻略しているのも、納得出来る。


「着いた!ここが二人いないとダメなところだよ!」

「あの出っ張ってる所に乗ればいいんだな?」

「うん!」

「よっしゃ、まかせろ」

「あ、でも」


モグルがなんか言った。俺が出っ張った石の上に乗った後に。

足元に刻まれた紫色の紋章が、暗いダンジョンを明るく照らす。

その光に驚いて俺は目を瞑ってしまった。


「うお……なんだったんだ今の」

「おじさん!離れて!」


ドゴン、という一瞬の地響きにも似た音がした方に目を向ける。

風圧で髪と服が後方に引っ張られる。

クソデカい白骨(スケルトン)が地面に拳を振り下ろしていた。


俺の1メートル先に、大きなくぼみが出来ている。

「離れて」というモグルの声に、俺の反射神経は全く追いついておらず、完全に仁王立ちのまま、敵の攻撃がたまたま外れていた。


「おいモグル!魔法切れてんじゃねえのか!?」

「発動したままだよ!」

「じゃあ、あいつ……超早いって事か!?」

「うん!隠れてて!」


魔法で5倍速くなっているはずなのに、あのクソデカ白骨は"普通"に動いていた。


質量xスピード=パワーは力、みたいな図式は有名だが、あの骨は、この変質ダンジョンの主にふさわしいボスなんだ。


「宝剣 創生のイスガルド 魔力付与(ギフトエンチャント)!」

「宝剣 破壊のイフリート 魔力付与(ギフトエンチャント)!」


モグルは武器に魔力を付与する事で、武器本来の力を引き出し、奥義の発動を可能にする。


「破(カオ)……」

「モグル右上!危ねえ!」


俺の体は危ない!と思って動くほど都合のいい体ではない。

危ないと声をかけるだけで精一杯だった。


「くっ……」


骨の背中から新しい手が生えてきて、詠唱しているモグルに右上から拳を振り下ろしていた。

俺が声を掛けなければ、普通に危なかった。


「モグル!もう魔力付与(ギフトエンチャント)終わってんだろ!?」

「終わってる!」

「宝剣イスガルドを俺に投げろ!」

「おじさんじゃ無理でしょ!」

「うるせえ!俺がその宝剣作ったんだよ!」

「……嘘!」

「嘘じゃねえ!投げろ!」

「わ、わかった!」


モグルが敵の攻撃を回避すると同時に、宝剣の一対 イスガルドを俺に投げる。


飛んでくるイスガルドを華麗に避け、剣が地面に叩きつけられた後に、石の床を滑っていく。

そんなイスガルドを目で追う。


「何してんのおじさん!?」

「飛んでくる剣なんかキャッチ出来るわけねェだろ!」

「こっちは動体視力終わってんだよ!」

「いいから早くなんとかしてよ!」


モグルに詠唱する時間を与えてくれない骨野郎、避けるので精いっぱいなのが、モグルの表情から伝わってくる。


敵が自分より5倍遅いのが普通だったんだ。この敵が異常すぎるだけなんだ。


「こんなの書いた記憶ねえぞ……!」


落ちていたイスガルドを拾う。

手には知らない感覚、魔力が手袋のように手を覆っている感じがした。

例えるなら、スライムのおもちゃを温めて手を突っ込んだ時に近いって感じだ。


「モグル!待たせた!やるぞ!」

「やるって……!……わかった!」

「思いっきり飛んで離れろ!」

「うん!」

「オイ!骨野郎!」


巨大な骨野郎が、俺とモグルの間に位置している。宝剣は、宝剣へと導かれる存在。

二つの力は、神の元へと返還される。


「俺がそう作った!今でも意味はよくわかんねえけど!」

「破壊と!」

「創生を以て神への供物とする!」



「「破壊と(カオスオブ)創生の争(デストラクション)乱」」



緑色の閃光を纏った光と、灼熱の閃光を纏った光が、俺の前にいる骨の場所で弾けて混ざりあい、黄色い雷光となって敵を破壊し尽くした。


「モ、モグル!やったか!?」

「うん!やったよ!」


広い石造りの部屋を覆っていた威圧感はもう無く、ひんやりとした空気が平和そうに漂っている。


入る時に光った紋章と同じようなのが広間の奥に見えた。


「1秒でも早く出るぞ!いや、5倍だから0.2秒でも早く!」

「あそこに乗って!」


モグルと手を繋いで紋章に乗ると、また紫色の光に包まれる。

後ろにはついさっきまで中に居た洞窟が口を広げており、正面には普段と何も変わらない日常の景色が広がっていた。


「……やったか!?」

「あぶなかったぁ~……」

「マジでそれな、冷や汗って本当に出るんだな」

「ニワベさん、本当に宝剣の創生者だったんだ!」

「ある意味な!」

「ああそうだ、イスガルド返しておく」

「ありがとう!イスガルド、イフリート、今回もおつかれさま!」

「俺は?」

「ニワベさんもおつかれさまっ!」

「おう!」


モグルは笑顔のまま光に包まれ、消えていった。振り返ると、洞窟は無くなっており、前後左右、いつも通りの日常へと戻っていた。

歩いて帰るの面倒くせえなと思いつつ、コンビニに寄ってタバコを買う。


「31番、3個ください」

「1890円になりま~す」


帰宅した俺は、タバコに火を付けながらパソコンの前へと座る。


《目的達成、書籍化決定!》


モグル、Sランク到達、おめでとう。


モニターの前に置いているキーボードの上には、見覚えのない本が乗っていた。

その本には大きくこう書かれていた。


著者 庭辺 隆司


「超高速ダンジョン攻略!誰も追いつけない速度でギルドランクSになってしまった件について」

主人公 地下道(ちかみち) モグル 9歳


ある日、洞窟を探索していたモグルは黄金に輝く紋章を見つける。

その紋章が放つ光は、否応なくモグルを飲み込み、転移させてしまった。


転移した先には、二本の剣が台座に刺さっていた。

モグルは惹かれるように剣を握り、台座から引き抜いた。


頭の中に声が響いてくる。


《私は創生のイスガルド》

《我は破壊のイフリート》


《《対を以て己が道、切り開かん》》


イスガルドを握った手には緑の紋章が、

イフリートを握った手には赤の紋章が、


時間伸長魔法(タイムストレッチングマジック)と時間圧縮魔法(タイムコントラクションマジック)で世界のダンジョン超高速攻略!


地下道 モグルの冒険が、今始まる!


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