第十二作目①「SSSランクパーティの荷物持ちだった俺が、気付いたら強くなりすぎていた件について」
「君、うちに来ない?」
【万年Dランク】。これがゲイルと呼ばれている俺に付けられたあだ名だ。
冒険者として鍛えてはいるが、見た目に伴うような実力はまるでない。
下から2番目のDランク冒険者として薬草摘みや迷い猫探しなど、簡単なクエストを受けることで生計を立てていた。
若く才能溢れる後輩たちには数か月で追い抜かれ、先輩たちは手の届かない存在となっていった。
そんな俺に声をかけてきたのは、冒険者ギルドで知らない人はいない伝説のパーティに所属している人物だった。
【SSSランクパーティ 神殺しの放浪者】のリーダーであるアインザックが俺をスカウトしている事実。
冒険者ギルド内にいる多くの冒険者が向けてくる視線でいたたまれない気持ちになってくる。
「あの、俺はただ薬草を積み終えたので報告をしに来ただけなんですが……」
「分かっていますよ。その報告が終わったら、今後の事についてお話をしたいのですが」
周りがざわついているが、当然のことだろう。
誰しもが俺のランクを知っていて、その俺に伝説級の人物が声をかけているのだから。
◇◇◇
あの日から5年後、アインザックのパーティで荷物持ちをしていた。
今日は魔王城 ルインヒルベルグ城への遠征だ。
街から出発して2日目、山を九つ超えて到着した。ここに魔王がいるらしい。
「アインザックさん。ここに魔王がいるんですか?」
「そうですね。城の中から強大な魔力が漂ってきています」
「俺には全然分かりませんでした……」
美しい金髪に青い瞳、体はゲイルよりも一回り小さいが、固有スキル【剣王】によってパーティをSSSランクに導いた実力者。アインザックは心配そうに、困ったような顔でゲイルを見つめていた。
「魔王が中にいる事すら気づけない、そんな俺がこのパーティにいていいのでしょうか」
そんな考えが5年間、ずっと頭の中から離れてくれてない。
「この遠征が終わったら、俺はパーティから抜けようと思います」
「ゲイルさんは自分を過小評価しすぎています。ゲイルさんが居てくれるおかげで私たちはかなり助けられていると何度も言っているじゃないですか」
アインザックの隣で頷いている大男が口を開く。
「そうだ。我々が万全の状態で敵を戦えているのは何故だ?答えてみろ」
「それは……俺が荷物を持って、皆さんの体力を温存出来ているから……でしょうか」
大きな魔術師の帽子を被っている美麗な女性が口を開く。
「半分正解で半分不正解。あなた、まだ気づいていないの?」
「アマンダさん、どういうことですか?」
「はぁ……アインザック、彼にやらせたら?」
光を反射する美しい髪質の黒髪を触りながら、やれやれといった表情をしている。
彼女が街を歩くと、通り過ぎる男たちは全員振り返ってその後ろ姿を目で追い続けてしまう。
美しく強い。現時点で最強の魔女と名高いのがこの女性"アマンダ"だ。
「そうだね。ゲイルさんは自分の力を知っておくべきだ」
「自分の……力、ですか?」
「君は気づいていないようだけど、この先にいる魔王を倒せるくらいには強くなっているよ」
「今回の依頼って、SS難易度のクエストですよ?それを万年Dランクの俺がクリアできるわけないじゃないですか」
大きな体から溜息とは呼べない程の呼気で、数十メートル先まで砂ぼこりを巻き起こした大柄の男。
"ジャックス"が口を開く。
「お前がDランクなら、我らはCランクだな」
アインザックが微笑みながら続けて口を開いた。
「ゲイルさん。この橋を渡って門を開けば中に魔王がいます。倒してきてください」
倒せるわけがない。そうゲイルが思うのも仕方のないことだった。
彼は5年前にスカウトされるまで、薬草摘みと迷い猫探し、そして下水道の掃除などが主な仕事だった。
それから現在に至るまで、荷物を持って各地を共に巡った"だけ"の日々。
そんな自分が魔王を倒せるはずがないと、確信していた。
「俺が魔王なんか倒せるわけないでしょう!? ただの荷物持ちですよ!」
「では、すぐ後ろで私たちが助けられるようにしておきますから、行ってきてください」
「ゲイル、あなたも男でしょう? カッコいいところ見せてみなさいな」
「早く行くぞ!」
半ば強制に近い形で魔王城の前まで運ばれていく。
門を開け、中へ進むと玉座の間があった。
そこには強大な魔力と圧倒的な威圧感を持っていると噂されていた魔王が佇んでいた。
「なんだ貴様らは?」
「私たちはあなたの討伐を依頼され、ここに参りました。この男があなたの相手を務めます」
「ちょ、ちょっと!」
アインザックがゲイルの背中を押し、魔王の前まで送り出した。
「そうか、ならば来るがよい!」
ゲイルは自分と同じような身長、体格をした魔王相手に困惑していた。
これが魔王なのか?
噂に聞いていた強大な魔力によって生み出される威圧感も感じられず、
いつも一緒にいるパーティメンバーと比べると、"ちょっと紫っぽいおじさん"が前に立っている程度にしか感じられない。
「アインザックさん、アマンダさん、ジャックスさん。死んだら恨みますからね!」
魔王に向かって走り、拳を振るう。
「なっ、見えな……」
魔王が口を動かしたように見えたが、ゲイルは意に介す事なく、拳を振り抜いた。
「アマンダ、ジャックス。彼をスカウトした僕の目は間違っていなかっただろう?」
上半身が丸ごと吹き飛ばされた魔王の奥に、ゲイルの姿があった。
彼が立っている場所の床は紫色の血が広がっている。
「ゲイルさん! 私たちが言っていた事、信じてくれますか~?」
アインザックのからかうような声が、玉座と相対しているゲイルに投げかけられる。
「は、はい……信じます……」
自分の拳についた血を見つめ続けて動けない。
万年Dランク扱いされていた自身の力に気付いたその日から、真の冒険者としての日々が始まっていく。
街に戻ると、冒険者ギルドに成果を報告しているゲイルの姿があった。
「SS難易度クエスト【魔王の討伐】、完了しました」
報告と同時に、ギルド内がざわつく。
「あいつのパーティが魔王を倒したのか!?」
「やはりSSSランクパーティは凄まじいな……」
「荷物を持ってるだけで恩恵にあやかれるなんて、あいつが羨ましいぜ」
誰しもがゲイルが魔王を倒したなどとは、一ミリも思っていなかった。
最強のパーティに寄生しているだけで金を稼いでいる寄生虫。
そんな目で見られるのも、そんな扱いをされるのも慣れ切っていた。
「神殺しの放浪者所属、ゲイル様ですね。報酬はこちらになります!」
金貨でパンパンに膨れ上がった大きな袋が7つ、受付カウンターに置かれていく。
「あ、ありがとうございます……」
申し訳なさそうに全ての袋を持ち上げ、冒険者ギルドの外へと向かう。
その後ろ姿を見ながら、冒険者たちが小声で疑問をぶつけあう。
「あ、あいつ。金貨袋を全部……片手で持っていったよな?」
「冗談だろ……あの量は荷車と馬2匹は必要だぞ」
「俺も薬草摘んだらあんな風になれんのか?」
「ゲイル……本当にDランクなのか?」
外で待っていたパーティメンバーたちに、金貨が詰まった袋を渡そうとする。
「お待たせしました。これが今回の報酬だそうです」
「ゲイルさん。半分はあなたのものです」
「いえ、そんな大金を頂くわけには……」
「我らは道中の敵を片付けただけだ」
「時に遠慮は無礼だという事を知りなさい。ゲイル」
金貨袋7つのうち、4つを渡そうとしてアマンダから軽くビンタをされ、
渋々3つを渡したゲイルは、突然の収入に興奮と若干の怯えを覚えながら、その場で立ち尽くしていた。
「それじゃ、ここで解散しましょうか」
「そうね、お疲れ様」
「次はもっと歯ごたえのあるクエストを受けるとしよう!」
「お、おつかれさまでした」
自分の力で敵を倒し、自分で得た"成果"の大きさを、手を引っ張る重さで実感していた。
「俺が……本当に魔王を倒した……俺がSSランクのクエストをクリアしたんだ……」
森の中に構えた小さな家、そこがゲイルの家だった。
普段通りの帰路、街から山へ向かい、関所を抜けて森を通る。
太陽が木々の間から差し込み、木と草と土の香りが漂う空間。
家まで残り数分、森の中に見慣れないモノが建っていた。
いつの間にか建っていた小さな家、誰かが引っ越してきたのだろうか?
森の中に突然建てられた家からカラカラと音が聞こえ、窓が開いていくのが見えた。
「あの~! ここって、何処ですか~?」
ゲイルはその男の着ている変な服と、煙を出している小さな棒に不信感が募っていた。
「あ、あなたは? ここは私の家の近くですけど……」
「庭辺っていう者ですけどぉ! ちょっと色々と聞きたい事があってぇ~!」
少し遠くから必死で声をかけてくる男への疑問は増すばかりであった。
「分かりました……後ほどそちらへ行くので、少し待っててください!」
急いで金貨を自宅に置き、話を聞きに行くことにしたゲイル。
わずか二日程度で建てられたであろう建物、見覚えのない服と顔。
魔王と大して変わらない存在感。つまり、一撃で倒せる程度の存在。
ゲイルは拳を握りしめ、庭辺と名乗った男の家へと向かうのであった。
この世界を脅かす存在であれば、全力を以て叩き潰すという決意とともに。




