第5話 君と街へ
今日は村尾さんと街に来ている。
家から街道に出ると、すぐそこに街のゲートが見えた。
「いま、何時くらいでしょうか」
歩きながら、村尾さんが言う。
「たぶん……2時くらいと思うけど」
自分は朝からのことを振り返って、目算で答える。
午後6時を過ぎると、何か理由がないとゲートを通してもらえなくなる。出るときもだ。
この世界にはいつでも見られるような時計がないこともあり、ゲートの門限には要注意だ。
やがてゲートに着き、脇の小屋にいる男性に顔を向けた。
男性は自分たちの顔を見ると、片手をあげた。
通ってよしの合図だ。
二人で小屋の前を通り抜けて、街へと入る。
通り抜けながら小屋の中に目をやって、窓際の砂時計を確認する。
「2時過ぎ、みたいだね」
「ですね。慌てなくて大丈夫そうです」
村尾さんが安心したように言う。
家でちょっとゆっくりし過ぎたかと、気にしていたようだ。
街に入ると、道が石畳に変わる。
歩く人々がところどころに見えるようになった。
ここも要注意で、出会う人のほとんどが、どこかで見たことがある人だ。
元の世界で言えば、大きな自治会のような感じだろうか。
すると
「ごきげんよう。……いつも仲良いね」
挨拶しかしたことがない女性から、今日もこんな声をかけられた。
「こんにちは」
二人で声を合わせるように、笑顔で挨拶を返す。
『仲がいい』的な部分は特に否定などせず、スルーしておくのが一番無難だともう分かっている。
隣の村尾さんの様子も確認すると、
……あれ。
なんか、妙に満足そうな顔に見えるけど……気のせいかな。
村尾さんと目が合った。
「ん? どうかしました?」
いつも自分に向けてくれている、いつもと変わらない屈託のない笑顔。
やはり気のせいだったようだ。
「え~っと、まず最初に、ギルドに行くけど、いい?」
もともとそう決まってるが、話題の切り替えも兼ねて、確認するように言った。
「はい。いきましょう」
そういうわけで、自分たちはまず、行き慣れている冒険者ギルドに足を向けた。
◇◇◇
ギルドに着いて中に入る。
自分も村尾さんも、ここは街に住んでいた頃から毎日のように出入りしている場所だ。
しなくてもいいと言われているが一応ノックして、それから中に入る。
ギルドのカウンターと、その前面に広がる待合エリアが目に入ってきた。
右の白壁には募集中の依頼が、大きめの黒い文字で直接、殴り書きされている。
それは後で見ることにして、まずは討伐報告と換金だ。
たまたま、このとき待合エリアには誰もおらず、カウンターで受付の女性が一人で何やら作業していた。
挨拶しながら近づくと、
「ごきげんよう。……あら……普段着かわいいね!」
受付の女性は村尾さんを見て言った。
そう言えば村尾さんがここに来るときは、いつもは髪を後ろで縛り、厚手の皮のジャケットにカーゴパンツ、底の厚いミドルブーツという討伐スタイルだ。
それに対して今日は、髪は下したままで、白のブラウスに前掛けを結んだ緑のロングスカートという町娘風。
「あ。ありがとうございます。……え~と、いつも街で着てるんですけど」
「そうなんだ。でもすごく似合うよ」
女性はそう言ってから自分に視線を向けて
「ね?」
と言ってくる。
今回はそういう流れか。
が、これも無難な対応を学習済みだ。
「そうですね」
マシンのようにさらりと答えるのだ。
しかし村尾さんは、女性に向けて両の手のひらを振りながら、
「あの、相良くんは見慣れてるので……」
正面から受け止めてしまった。
「ふ~ん。見飽きたってこと?」
自分に視線を向けてそう絡んでくる。
そして村尾さん、なんで「え? 私……飽きられてる?」みたいな表情でこっち見てるの。
こういうときは
「あの……勘弁してください。エミさん」
そう、すぐに白旗を上げるのがいいのだ。
村尾さんもそこで「何か手を打たないと……」みたいな表情にならなくていいから。
この人はエミさんという、たぶんだが20代半ばの女性で、この世界で自分たちがとても頼りにしている人の一人だ。
何といっても村尾さんは女子なので、年代もまあ、近いと言えば近い女性のエミさんは、そういう面でとても貴重な知人なのだ。
「じゃあ、サガラくんがドキッとなっちゃうような可愛い服、選んであげようか」
しかしエミさんは楽しそうに絡み続けてくる。
手ごわい。
そして村尾さん、そこで「それです!」みたいな表情で話に乗ろうとしないで。
「あの……討伐報告なんですけど、いいですか。あとできれば引き取りも」
エミさんはやれやれつまらない、みたいな仕草で、分厚い紙束をカウンターに出すと、中を探し始めた。
それを見て自分は、受諾証の木札と、討伐証明である魔石をカウンターに提示する。
「それで、新しい家はどうなの? そろそろ慣れた?」
エミさんは照合作業を進めながら尋ねる。
「はい。もうすっかりです」
村尾さんが答えた。
「でも不便もあるでしょ。遠いし、人いないし、広いから掃除とかも」
エミさんが顔を上げて言う。
「そうですね――」
村尾さんは視線を外して少し考えてから、エミさんに向き直って
「そうなんですけど、全部楽しいです」
笑顔でそう言った。
エミさんは少し驚いたように村尾さんを見てから
「ふーん……」
そして
「だってさ。サガラくん」
そう言って優しく笑った。
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