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第3話 君と過ごす日

 

 魔獣討伐を終えて帰宅した自分は、部屋で一休みさせてもらったあと、この後予定している外出にそなえて服を着替えた。

 午前中の討伐でかいた汗もしっかり水拭きして、スッキリと心地よい。

 

 そういえば部屋に戻ったとき、部屋の前に水が張られた桶と、タオル用の布が置かれていたのだ。

 村尾さんが、自分が体を洗えるように用意しておいてくれたのに間違いない。

 張られた水はほんのり温かく、わざわざお湯も作って足してくれたのだろう。

 思わず立ち上がり、階下に向かって

 

 「村尾さん、お湯ありがとう!」

 

 と叫んでしまった。

 階下からはすぐ

 

 「ハーイ!」

 

 と村尾さんの声がした。

 その後、部屋で体を拭かせてもらっている間、ありがたさに胸が痛いくらいだった。

 

 

 一通り支度を終えて、使って置いてあった水桶を抱えながら階下に降りた。

 村尾さんのお掃除は終わっていて、彼女は台所でティーポットにお湯を注いでいた。

 食卓にはお茶用のカップが二つ。

 出かける前にお茶でも飲もう、ということだろう。

 ひとつ残念なのは、髪型も装いも、いつもの村尾さんのそれに戻ってしまっていたことだが、そんなことは思っただけで罰が当たるに違いないので、いやいやと謎に首を振る。

 

 自分の足音に気付いたらしく村尾さんがスッと振り向いて、

 

 「あ。え~と、おはよう……は変ですね」

 

 そう言って笑う。

 

 「いや、ちょっと眠ってた気もするから、いいと思う」

 

 自分も笑ってそう答えてから

 

 「お湯ありがとうね。これ、重かったでしょ」

 

 改めてお礼を言った。

 

 「いえいえ。これくらい平気ですから」

 

 力を主張するように、真面目な顔で力こぶのポーズだ。

 これはたぶん、おどけているわけではない。

 このところ村尾さんは、自分も前で戦えるようにと、自主トレしているのだ。

 成果の方は……今後に期待、というところだろう。

 

 水桶を片付けている自分に、

 

 「ゆっくりは、できましたか?」

 

 と村尾さんが声をかけてくる。

 

 「うん。ありがとう。村尾さんこそ、ずっと働いてるよね」

 

 むしろ村尾さんにゆっくりして欲しい。

 

 「さっき色々と終わったので……一緒にちょっとお茶を飲みたいな、と」

 

 やや上目遣いで少し甘え気味の表情だ。

 もちろん即決でいいね、と同意する。

 

 「はい。付き合ってください」

 

 ニッコリ笑ってそう言った。

 ちょうど準備できたらしいティーポットを持って食卓に近づく。

 

 「よかったら座ってください」

 

 そう言いながら、白い華奢な手をポットに添え、丁寧な仕草でまずは自分のカップに半分、次に村尾さん自身のカップにいっぱいまで注いで、最後に自分のカップをいっぱいにする。

 もう見慣れた、村尾さんのお茶淹れルーティーンだ。

 できることならこの華奢な手を、いつまでも華奢なままにしておいてあげたいのだが、そのためにはまず現状を何とかしないといけないだろう。

 

 お茶を注ぎ終わると、棚から木製の小箱を出して蓋を取り、

 

 「よかったらどうぞ」

 

 そう言って食卓の中央にコトリと置く。

 箱の中には村尾さんが焼いたクッキーが、パッと見で20枚くらい並んでいた。

 

 ここから、村尾さんのクッキー談義が始まった。

 

 

  ◇◇◇

 

 

 

 彼女は元の世界でもお菓子作りが大好きだったようで、お菓子作りに有利なサマーキッチンがあることが、この家を借家に決めた理由の一つだと言っていたほどだ。

 

 「……それで、相良くんしっとり系が好きって言ってたじゃないですか。で、固さは温度と焼き時間で決まるんですけど、この世界って、温度計も時計もないから、そこは――」

 この世界でクッキーを焼くことがいかに難しいか、その苦労話を、むしろ楽しそうに、自分が言葉をはさむ隙もないリズムで語り続ける村尾さん。

 この一軒家に越してきてから1ヵ月ほどだが、それ以来村尾さんは時々、こういう一面を見せてくれるようになっている。

 自分は自分で、ゆっくりお茶を飲みながら、話とともにその仕草や声色も鑑賞させて貰いつつ、娯楽に乏しいこの世界でも彼女がこうやって楽しみを見つけてくれていることに、少しの安心感を覚える。

 

 「……」

 

 急に村尾さんが無言になった。

 

 「ん? どうしたの?」

 

 村尾さんはちょっと赤面しながら、拗ねた感じで自分を睨む。

 

 「意地悪です……」

 

 「……え~と?」

 

 「ちゃんと止めてくださいって、言ってるじゃないですか」

 

 そうなのだ。

 村尾さんは、自分は夢中になると話が止まらなくなる悪い癖がある、と思っているらしいのだ。 

 「いや……全然大丈夫だし」

 

 「ダメです。次からはちゃんと止めてください」

 

 強めの語調だが、真っ赤になって視線を横に逸らしたまま言うあたり、たぶん単に恥ずかしいのだろう。横を向いたままお茶を飲んでいる。

 

 「よし。分かった」

 

 「絶対分かってないです」

 

 

 

 このあと、今日のお出かけの予定を話して、至福のお茶会は終了した。

 

 早朝から色んなことがあった気がするが、まだ日は高いまま。今日はこれからが本番だ。

 

 

  ※※※

 

 

 


 お読み頂きありがとうございました。


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