案2 異世界を生き残る力
真っ暗な闇の中を落下し続けていたが、一転して視界が明るくなく。
眩しい陽の光に、潮風の香り。待ち受けていた世界は、元に居た場所とは違う、温かく優しいものではなかった。
熱気が充満し、草木は焼け、肉の焦げる嫌な臭いに満たされた世界。争いとは無縁の世界で暮らしていても、それだけでも荒んだ世界を感じとれる。
そんな世界を、俺は見下ろしていた。
眼下に広がる焼けた草原と、その周囲には何も見当たらない。
目下、落下は継続中の俺。今も尚、加速度的に勢いは増している。
”どんな相手とも戦い、生き残る力”を願ったが、こんな形で転移させられることを知っていたならば、願いは変わっていた。
戦う相手がいなければ抗うことは出来ない。俺の出来ることはただ一つ。
「うおぉぉぉぉーーーっ」
世界の変化に対応する術はなく、ただ叫ぶしかない。存在を主張するでもなく、力を発揮するでもなく、ただの絶叫。
ジェットコースターですら苦手で避けてきたのに、今は紐無しバンジージャンプ。このままの勢いで地面へと衝突すれば、痛みすら感じずに俺の第2の人生は数秒で終わる。
精一杯の足掻きは、真っ逆さまに落ちる頭を庇う為に、両腕を広げることだけ。
意味のない行動であったが、手を翳した瞬間に落下の勢いが和らいだ気がする。全く別の外力が働き、俺の体が少し減速する。
それと同時に、襲いかかってくる熱気。眼下に見えていた草木は瞬時に焼炭となり、そして爆風によって崩れ去る。
俺の落下を減速させたのは、熱気による上昇気流と爆風。それは、俺を木の葉のように舞い上げる。
そして俺の視界に入ったのは、映画やゲームの世界でしか見たことのない存在。
炎のブレスを放つ深紅のドラゴンは、宙に巨体を軽々と浮かばせ、それに向かって地上から放たれる無数の矢と魔法。
「いきなりドラゴンとの戦闘に巻き込まれるなんてっ」
状況が分かったからといって、木の葉のように舞い上げられるだけの俺に出来ることはない。あわよくば、このまま退散するのが最善の方法だが、俺に意志決定の自由はなく、されるがまま。いずれかは再び落下を始めるが、無事に着地する方法なんてない。
ただ今は、目の前のドラドンから遠ざかることだけを祈るが、異世界に来てドラゴンに遭遇する運の持ち主である俺なのだから、そんなに都合良く事は運ばない。
ドラゴンに向かって飛んでいた無数の矢は、たった一度の翼の羽ばたきで方向を変えてしまう。もちろん、それは俺のいる方向に向けて!
熱風で飛ばされながらも、次第に近付く矢。しかし、身を任せるだけの俺に出来ることは、やはり両手を前に翳し、”当たるな”と祈ることだけ。
パキンッと、何かが砕けた音がする。
無意識に目は瞑り、何が起こったかは分からないが、ゆっくりと目を開ければ勢いを失くした矢が力なく落ちてゆく。
俺の前へと翳した手の先には、透明ではあるが薄っすらと青みがかった鱗状の盾が見える。そこから、幾つのも盾が放出されている。
鱗のような盾は、弾幕となり次々と矢を落とす。しかし、衝突すれば盾は粉々に砕け、消滅してしまう。それでも、弾幕を潜り抜けてくる矢はない。
これが、俺の願った”何者に対しても、戦い生き残る力”なのかと実感する。まさか、魔力切れなんてオチは無いだろうなと心配するが、体には何の変化も感じない。
能力は申し分ない。初日から、ドラドンとの戦いに巻き込まれた事は最悪ではあるが、最悪に巻き込まれても生き残れそうな気がしてくる。
しかし、その根拠の無い自信は一瞬で砕け散る。
「えっ、そんな筈はないだろっ」
無数の弾幕となっていた鱗状の盾が、一斉に砕け散って消えてしまう。ドラゴンの咆哮が、一瞬で全てを崩壊させてしまった。
唯一残されたのは、俺の翳した手の前にある盾のみ。形こそ残しているが、衝撃波を防いではくれない。
今度は、ドラゴンの咆哮によって吹き飛ばさる。体は回転し、何が起こっているかは分からないが、再び地面が急接近していることだけは分かる。
何が出来るんだと考えている内に、地面が近付く。幸いにも大きく飛ばされたせいで、地面には草木は残されている。後は、ただ幸運を祈るしかない。
だが、草むらの中に人影が見える。ぶつかれば、無事では済まない。
「危ない、どいてくれーーっ」




