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【連載版】転生したら気弱な公爵夫人だった。とりあえず、一発殴っていいかしら?  作者: ミズメ


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2/7

公爵令息ヴィルヘルム②


「ロレッタの話はわかりました」


 そう言うと、ヴィルヘルムとロレッタの顔がぱあっと明るくなり、対照的にアデラインの顔色は悪くなる。この話はここで結審だと思ったに違いない。


「では次に、アデラインの話を聞きましょう」


 わたくしの言葉に、部屋が静まり返った。


 侍女たちまで目を見開いている。この家でアデラインの話が聞かれたことなど、一度もなかったのだろう。


(ずいぶんなことをするのね、イレーヌ)


 ひとつため息をつく。見て見ぬふりを続けてきたのだ、わたくしは。

 もう頭だけじゃなくて胃も痛くなってきてしまった。


「アデライン。あのとき何があったのか、あなたの口から説明してごらんなさい」

「母様。もうロレッタの話で十分ではありませんか。これ以上アデラインに喋らせても」

「ヴィルヘルム」


 言葉を遮るヴィルヘルムを、わたくしはキッと睨みつける。イレーヌが口出しすることがよっぽど想定外なのだろう。


「わたくしはロレッタの話はわかったとは言ったけれど、それが正しいと認めた覚えはないわ。片方の話だけで決めるのなら、話を聞く意味などないでしょう」

「ですが」

「わたくしにはアデラインから話を聞く義務があり、この子には話す権利があります。それとも、この家では違うのかしら」

「そ、そんなことは…………ありませんが」


 ヴィルヘルムが口を開いて、そのまま閉じた。

 その様子を一瞥して、わたくしはアデラインに向き直る。


「アデライン、どうぞ仰って。あなたの身に起きたことをひとつずつ。焦らなくていいわ」

「は、はい。……書庫におりましたら、侍女の方が参りまして。『イレーヌさまがお呼びです、サロンへお越しください』と言いました」

「そうね。あなたは呼び出されたと言っていたわ。どの侍女かしら」


 アデラインがそっと視線を動かした。その先に、壁際で控えている娘がいる。ロレッタが屋敷に来るときにいつも連れてくる侍女だ。


「あなたね。わたくし、アデラインを呼んだ覚えはないのだけれど、どういうことかしら」


 尋ねると、侍女の顔から色がなくなる。まさか追及されるとは思っていなかったのだろう。この気弱だった公爵夫人に。


「も、申し訳ございません。聞き間違えたのでございます。私の不注意でございました」

「聞き間違い。ずいぶんと都合のよい耳をお持ちなのね」


 呼ばれたと言われて、アデラインは書庫を出たのだ。お茶会に招かれたと思ったのだろう。だから急いで階段を上がってきた。


 そこでイレーヌに、なぜあなたがここにいるのと叱られた。


 わたくしは胸元を押さえた。息が詰まる。わたくしがやったことだ。苦しい。


「イレーヌさま! やはりお加減が悪いのでは。ゆっくりお休みになってくださいませ」


 真っ先に立ち上がってイレーヌを心配してくれたのは、今まさに突き落としたと疑われているアデラインだった。

 ここで話を終えれば、自らの嫌疑は晴れないというのに。


(なんていい子かしら……)


「平気よ。座ってちょうだい、アデライン」


 わたくしは息を整えて、顔を上げる。

 この子のためにも、一度ここで皆に釘を刺すべきだと思えた。


「アデラインが押すところを見たということは、ロレッタ、あなたも階段のそばにいたのよね。どうして? サロンでお茶をいただいていたはずでしょう」

「えっ? それは、その、外の空気を吸いに……」

「わざわざ同じ時に?」

「わたし、その、気分が悪くて」

「母様!」


 しどろもどろになるロレッタを庇って、ヴィルヘルムが声を上げる。本当にこの息子はもう!


「まさかロレッタを疑っているのですか。この子は何もしておりません」

「ではあなたに伺います、ヴィルヘルム。わたくしが落ちたとき、ロレッタはどこにいたの。正確に答えなさい」

「それは」

「正確に、と申しました」


 息子の視線がさまよった。ロレッタを見て、わたくしを見て、それから床に落ちる。


「階段の、上です」


 ロレッタがヴィルヘルムの袖を掴んだ。爪が食い込むほど強く掴んだのが、こちらからも見えた。


 話しているうちに、わたくしの記憶も少しずつ戻ってきた。

 確かにあのとき、階段の上にはアデラインとロレッタの二人がいたように思う。


「つまり、わたくしが落ちたとき階段の上にいたのは、アデラインとロレッタの二人。そういうことになるわね」

「で、でもわたし、見たんです。アデラインさまが確かに手を伸ばすのを」

「そう。ではもうひとつ伺うわ。あなたのほかに、それを見た者はいるのかしら」

「わ、私が見ておりました」


 声を上げたのは、先ほどの侍女だった。


「間違いなく、アデラインさまがお手を伸ばしておられました」

「あなたはどこにいたの?」

「階下でございます。アデライン様をお呼びしたあとでしたので。なので、はっきり見えました」

「階下から、ねえ……」


 わたくしは屋敷の構造を思い出す。それから階段から落ちる直前の配置を。


「我が家の階段は途中で折れているでしょう。踊り場から上は、下からは見えないはずよね」


 侍女の唇が動いて、音にならずに止まった。


「見えない場所のことを、間違いなく見たと言うのね。先ほどは聞き間違い、今度は見間違いかしら」

「それは、あの」

「あなたのお話は信用ならないわ」


 ピシャリと言い切ると、部屋に沈黙が落ちた。

 誰も口をきかない。ロレッタの肩が小刻みに動いている。

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