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彼女のテレパシー 俺のジェラシー  作者: 新道 梨果子


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6. 春夏秋冬

 それからも毎日、俺たちは温室に入り浸った。

 温室は、この上なく居心地が良かった。暖かいというのもあるが、花に囲まれて過ごすのは、やっぱりどこか心穏やかになれるものなのかもしれない。


 いつの間にか定位置というものができていて、木製のベンチに女子二人、パイプ椅子を広げて俺たちと浦辺先生がその前を取り囲むという形にいつもなる。四人の生徒と教師一人という布陣だが、最初に感じたほどの圧迫感はない。浦辺先生がいても、割とリラックスできている。

 浦辺先生も、教室とこの温室では、ずいぶん雰囲気が違うような気がする。きっと俺たちと同じように肩の力を抜いているのだろう。


 渋々ながら入ったはずの園芸部なのに、今まで入部していなかったのがもったいなかったような気分にもなってくる。


「もうちぃと(ちょっと)早うに勧誘すればよかったかのう。そしたら花壇を耕してもろうたのにのう」


 と浦辺先生が言うので、心の中で前言撤回をした。


「一人じゃ花壇までは手が回らんかったけえ。一年のときは、私一人じゃったんよ」


 川内が小さく笑いながらそう付け加える。それを受けて尾崎が、ベンチに座って足をプラプラと振りながら口を開いた。


「ウチは、二年になってすぐ入部したんよね」

「じゃあ俺らとほとんど変わらんのんか」

「うん。こないだ入ったばっかりよ」

「ほうよの。一年のときは帰宅部じゃった気ぃするのに、おかしい思いよったんじゃ」


 納得したのか、木下が何度も頷いている。

 それからなにかに気付いたように、あ、と声を出した。


「でも今、チューリップがいっぱい咲いとるじゃん。園芸部がやったんじゃないんか」


 校門の方向を指差しながら、そう訊く。確かに、校門の横のほうにある花壇には、たくさんのチューリップが咲いている。赤、黄色、白と色鮮やかな上、校門から入ってすぐなだけに、ものすごく目に付く。


「チューリップは毎年、勝手に咲きよるんよ」


 川内が苦笑しながらそう答えた。

 そんなものなのか、案外簡単なんだな、と感心していると、浦辺先生が恐ろしい提案をしてきた。


「今年は四人おるけえ、一度全部掘り出すか。ほいで保存して、秋にまた植えよう」

「でも、勝手に咲くんなら放っといてもええんじゃないん?」


 尾崎の疑問に、木下が口元を引き結んで先生の顔を見る。たぶん、面倒くさいから尾崎に賛同してくれないか、と思っているのだろう。もちろん俺もそう思っていた。

 しかし浦辺先生は残念ながら、首を横に振る。


「球根にも寿命があるけえ、そう簡単でもないんじゃ。それにホンマは花が咲いたあと、花を摘んだりせんにゃいけんので?」

「ええー……」

「それからたぶん、イタチが掘るんよの。じゃけえ、まばらに咲いとる。綺麗に並べたいじゃろ? 花壇の外に生えたりとかもしとるし」

「イタチがおるんっ?」


 尾崎と木下が二人して驚いた声を上げた。


「おるよ。お前んとこもおるんじゃないんか」


 浦辺先生が俺のほうを見て淡々とした口調でそう確認してきたから、頷いて返す。


「見たことはないけど、母ちゃんがおるって言いよる」

「この場合、母が、って言うとけ。クソババアよりマシじゃがの」


 浦辺先生の言葉に、木下が身体を縮こまらせた。先日、頭をつかまれたことを思い出しているのだろう。


「焼山、やっぱすげえ。イタチおるんか」

「和庄でも山のほうならおるじゃろ」

「見たことないもん」

「俺も見たことはないわ」


 三人がそんなことを話している間、川内はニコニコと会話を聞くだけだった。

 それをどう思ったのか、木下が川内に向かって質問を投げかける。


「仁方はどうじゃ。イタチ、おるじゃろ」


 なんだかんだ、木下は気の利くやつだと思う。以前にも俺だけが話の輪から外れていたとき、こちらに話を振ってくれた。

 しかし川内は急に話し掛けられて驚いたのか、しどろもどろになってしまっている。


「ど……どうじゃろ……」

「はいはい、田舎論争はその辺にしとけよ。そろそろ時間じゃ。帰れ帰れ」


 浦辺先生が手をシッシッと振って、結局俺たちは温室から追い出されたので、そのまま帰ることにする。

 帰り道は四人で歩くのが、もう定番となりつつあった。たいてい尾崎と木下が先を歩いてじゃれ合い、そのあとを俺と川内でついて歩く。俺は自転車を引いて歩いていて、カゴには四人分のカバンが山盛りで入っているのもいつものことだ。


「いっつもごめんね」


 川内は申し訳なさそうに謝るが、尾崎と木下は二人して「ラッキー」とはしゃぐだけだ。


「お前ら、仲ええよのう」


 先を歩く二人に向かってそう声を掛けると、二人は同時に振り向いた。


「兄弟みたいなもんよ。腐れ縁じゃし」


 その尾崎の返答に、木下が少し落胆したような表情を見せたのは、気のせいではないと思う。


「尾崎は出来の悪い妹みたいなもんじゃけえ」


 木下が気を取り直してからかうようにそう言うと、尾崎は目を吊り上げた。


「はあ? 出来の悪い弟はあんたじゃ。ウチのほうがお姉さんじゃろ? 生まれたんも先じゃし」

「たった半年じゃろうが」

「半年は大きいわ」


 肩をすくめて尾崎が返す。ぶっちゃけ、どっちもどっちだと思う。

 しかし木下は気に入らないようで、反論を続ける。


「いや、半年もないわ。お前が七月生まれで、ワシは十二月じゃし。五ヶ月しか違わん」

「細かっ」


 そこで、ふと気付いた。


「ああ、もしかして、夏生まれで千夏なんか」


 俺の思い付きに、尾崎はにっこりと満足げに笑みを浮かべる。


「ほうよ。ほいで木下が冬生まれで隼冬」

「二人ともが、生まれた季節の名前?」


 まあ珍しくもないのかもしれないが、幼馴染の二人が揃って、というのは意図的なものを感じた。


「ウチら、母親同士が仲ええんよ」

「そうなん?」

「ワシらんとこ、本当にご近所なんじゃ。おまけに同い年じゃけえかしらん(しらないけど)、いっつも井戸端会議やりよるわ。うるそうて(うるさくて)やれん(やっていられない)

「ほいで、ウチが生まれたとき季節が入った名前がええ言うて千夏になったんじゃけど、木下のおばさんが、それええね、って。じゃけえ、木下の名前はウチのパクりよ」

「パクり言うな!」


 そう軽快に二人が言い合っている。夫婦漫才か。


「あっ、あのね!」


 しかしふいに川内がそう呼びかけて、皆が一斉に彼女のほうに顔を向けた。それに驚いたのか、川内はまた俯いてしまう。


「あ、ごめん……大した話じゃないんじゃけど……。あの……あのね、四人全員……みんな、季節が入っとる名前じゃなって思うて……」


 ボソボソとそう話す。


「え?」


 俺たち三人は、首を傾げる。四人全員? 尾崎千夏。木下隼冬。この二人はわかる。残り二人。


 川内遥。


「ああ、ハルちゃんもハルが入っとるよね」

「え、じゃあ神崎は?」


 神崎孝明。

 パン、と尾崎が手を叩いて、「ああ!」と声を上げた。


「アキね! なるほど!」

「ホンマじゃ! 春夏秋冬、全部おる!」


 尾崎と木下が、興奮気味にはしゃいだ声を出す。


「よう見つけたねえ」


 川内は照れたように頬を紅潮させている。


「俺だけなんかちょっと強引な感じするけど、アキが入っとって良かった思うた」

「一人だけ仲間外れになるもんね」


 そうみんなで笑って盛り上がる。川内は、ずっと嬉しそうに微笑んでいた。

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