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彼女のテレパシー 俺のジェラシー  作者: 新道 梨果子


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5. 男子二人

「男子二人にゃあ、キリキリ働いてもらわんといけんよのう」


 翌日の放課後、温室に行くと、浦辺先生が上機嫌でそう言い放った。


「ワシ、そんな熱心にクラブ活動するつもりなかったんじゃけど……」


 木下がそう零してうなだれている。確かに最初から、『ほいでも、そんなに熱心にはやれんで?』と宣言していた。

 その様子を見て、川内が首を傾げる。


「なんか、お家の用事とかあるん? 塾とか? ほいなら一週間に一回とかでも……」

「ないない、ないわー! 家帰ってゲームするだけよ」


 と笑いながら答えたのは、なぜか木下ではなく尾崎だった。木下は少し睨みながら尾崎に文句をつける。


「なんでお前が答えとるんじゃ」

「だって知っとるもん。おばさんが言いよったわ」


 胸を張って尾崎がそう返すと、木下は吐き棄てるようにつぶやいた。


「あのクソババア」

「母親に向かってなにを言いよるんなら、コラ」


 浦辺先生が素早く木下の頭に手を伸ばし、ギリギリと握っている。


「いたたたた」

そがあ(そん)な呼び方すんなよ、悪いやっちゃなあ」

「暴力教師ー!」


 叫ばれて、ははは、と笑いながら浦辺先生は手を放す。


「じゃ、働いてもらおうかのう」


 恨みがましい木下の視線はまるきり無視して、浦辺先生は温室の隅っこに投げてあった台車を指差した。俺たちは素直に先生の言うことを聞くしかない。


「まあ……大した手間じゃないけどのう」


 二人でガラガラと台車を押していると、木下はため息交じりにそう零した。


「でも校舎の入り口までしか台車は使うちゃいけんって言いよったよな」

「職員室が二階なんよのう」


 さらに大きなため息を、木下が吐き出す。

 温室の中にあった背の高い観葉植物が五つ、台車の上に乗っている。今、校舎の中にあるものと入れ替えてきてくれ、とのことだった。


『陽当たりが悪かったり、水を遣りすぎたりすると弱ってくるんよの。じゃけえ定期的に入れ替えるんじゃ』


 と浦辺先生が俺たちに指示を出したのだ。


『今まで、女子二人とワシがやりよったんで』


 確かにそれでは、男手が必要だと思うのも仕方ない。


『その前は?』


 三年生の部員がいない。受験で引退するのは夏頃のはずだ。春なんだから、まだいてもおかしくはないと思う。ということは、元々いなかったのだろうか。


『誰もおらんかったで。川内が久々の部員じゃ』

『じゃあその頃は……』

『シナシナの観葉植物が置いてあったんじゃ。そういうことじゃけえ、頼むの』


 というわけで、俺たちは渋々ながら台車を引いている。


「あー、早まったかのう。尾崎がおるって聞いた時点で止めとけばよかった」


 なんてことを宣うので、少しばかりからかいたくなった。


「逆じゃろ?」


 俺の質問に、木下は足を止める。俺もそれに倣った。


「逆って?」


 木下は本気でわからないようで、首を傾げている。


「尾崎がおるけえ、入ったんじゃろ?」


 ズバッとそう訊くと、木下は目を見開いて、みるみる耳まで赤くなった。すごい。わかりやすい。


「なっ、なにを言いよるんなら! そがあ(そん)なことはないで! 最初から尾崎がおるって知っとったら、入っとらんかったんで!」


 ムキになってそう言い張るので、なんだかおかしくなって、笑いが漏れそうな口元を手で押さえた。そんな俺を見て、木下はムッとしたようにしばらく口を閉ざしたあと、足を進め始める。


 まずい、からかいすぎたか。俺は慌てて先に進む木下に駆け寄り、台車に手を掛ける。


「ごめんごめ……」

「それはお前じゃろ?」


 俺の謝罪を遮って、木下は問うてきた。


「お前は、川内がおったけえ入部したんじゃろ?」


 再び足を止める。木下も立ち止まり、仕返しだとばかりに俺のほうを見てニヤリと笑う。


 なんだろう。台車の上の観葉植物が、こちらを窺っているような気がした。そんなはずはないのに。

 でも、なんだか嘘をつきたくなくなった。こんなことで。

 だから思わず、首を前に倒した。


「うん、そう」


 俺の返事に、木下はあんぐりと口を開けた。まさかこんなにあっさりと認めるとは思わなかったらしい。俺だって、こんなに素直に答える自分に驚きだ。

 呆然とした表情をしたまま、木下は声を発する。


「なんか……すまんの」

「いや……」


 気まずい空気が流れる。これはどう取り繕うのが正解なのだろう。

 どちらからともなく俺たちは足を踏み出し、また台車をガラガラと押していく。

 しばらく沈黙が続いていたが、木下がふいに話し掛けてきた。


「神崎さあ。お前、姉ちゃんか妹、おるじゃろ。たぶん姉ちゃん」

「姉ちゃんがおるよ。なんでわかったん?」

「ワシの経験上、ああいう大人しめの女子が好きなやつは、姉ちゃんがおるんじゃ」


 なぜか誇らしげに、木下は言い切った。なるほど、木下の経験がどれくらいのものかは知らないが、一理あるかもしれない。


「ほうかもしれん。姉ちゃんにこき使われよるけえ、その反動が出るんかも」

「そんな気するよの」

「じゃあ木下には姉妹はおらんのんか」

「当たり。一人っ子じゃ。尾崎は大人しい、からは程遠いけえ、わかるよの」


 もう隠す気はなくなったらしい。木下はそう答えて、歯を出して笑った。

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