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彼女のテレパシー 俺のジェラシー  作者: 新道 梨果子


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28. 励まし

 放課後は、もちろん普通に園芸部としての活動をしなければならない。気まずいのは気まずいが、畑という広々としたところだと、その気まずさも緩和されるような気がする。だからこそ、昼休憩のように逃げずにここまで続けられたのだ。


「おおー、伸びてきたのう」


 畑を見た木下が、そう歓喜の声を上げる。

 ネギやらナスやらキュウリやらが、ニョキニョキと伸びている。畑に刺した支柱が長すぎるんじゃないかと心配していたが、足りなくなっているくらいだ。これが、あの雑草だらけだった広場とは思えない。俺たちが育て上げた畑なんだと胸を張って言えるし、なんだか誇らしくも思える。


 ところで、どうして畑の隅っこにプチトマトやらトウモロコシが植えられているのか。俺たちが植えた記憶はないので、おそらく浦辺先生が苗をそこに植えたのだろう。職権乱用だ。

 ナスやキュウリも、花を咲かせたと思ったらちらほらと実が付きだして、もう食べられるんじゃないかと思っていたが、大きなものは気が付いたらなくなっている。職権乱用だ。


 ネギはちゃんと種から育てた。母ちゃんがよく、買ってきたネギの根元を残しておいて豆腐のパックに植えてまた生えてくるのを待つ、ということをやっているが、俺たちが育てようとしているのは白ネギだし、簡単とは言われたが、手間はかかる。

 先日、畑を深く掘り、苗となったネギを植え直した。ネギの青いところは地表に出ている部分で、土に埋まっているところが白くなるんだそうだ。白い部分を増やすために深く掘らなければならないと浦辺先生に叱咤激励されながら、俺たち二人は畑を掘った。


 そんなこんなで、畑は男子担当、温室は女子担当、という具合になってしまったので、ありがたいやら寂しいやらだ。

 寂しいほうの木下が、俺に向かって首を傾げる。


「ほいで、喧嘩は終わりそうなんか」

「あ、ああ……わからんけど」


 俺が仮に謝ったところで、川内が許してくれなければどうしようもない。それを思うと、はあ、と深いため息が漏れた。


「川内は、そんないつまでも怒っとるタイプには見えんけどのう」


 木下は温室のほうに視線を移して、そう慰めてくれる。


「……怒っとる……んじゃないと思う」


 むしろ、理不尽に怒ったのは、こっちのほうだ。

 肩を落とす俺を見て、木下はポン、と軽くその肩を叩いた。


「まあ、なんか知らんが、早う仲直りせえよ」

「うん……まあ、明日、話はするけえ」

「ほうか」


 俺たちはしゃべりながら、花壇のほうに場所を移動する。

 畑の作物がニョキニョキと伸びると同時に、雑草だってニョキニョキと伸びるのだ。

 なので、あっちの花壇の雑草を抜いたらこっちの花壇の雑草を抜く。終わったらまた違う花壇の雑草を抜く、ということを、この数日繰り返している。


 まあ、俺が温室に行きたがらない、というのがこの作業ばかりになっている理由のひとつなのだ。付き合わせてしまっている木下には、申し訳ない。


「雑草抜きは俺がやるけえ、木下は温室のほうに行ってもええで?」

「ええよ、こっちで。あっち行ってもやることあんまりないし、女子に囲まれるのものう」


 そうは言うが木下は気が利くヤツなので、俺に付き合ってくれているのに違いない。

 花壇に到着すると、その端にしゃがんで、二人してブチブチと雑草を抜く。しばらくして、俺の正面に座り込んでいる木下がブツブツと愚痴を零しだした。


「抜いても抜いても生えてくるよのう。ちゃんと根っこから抜きよるつもりなんじゃけど」

「うん」

「キリがないわ」

「うん」

「そんなんで、園芸部、面倒なけど」

「うん?」


 なにか語ろうとしていると思ったので、顔を上げる。木下も手を止めて、こっちを見てきた。


「でも、園芸部に入ってよかった、思うで」

「……ほうか」

「最初は、ホンマに真面目にするつもりはなかったんじゃけど、なんだかんだ楽しいわ」

「うん」

「そりゃ、千夏もおるし、下心いうて言われたらそうかもしれんけど、ちゃんと花とか野菜とか自分で育てたら、やっぱなんか、達成感があるわ」

「うん、わかる」

「それに……」


 木下がそこで言い淀む。ちょっと俯いて、また雑草をちまちまと抜き出す。


「四人でおるの、楽しいわ」


 少し声のトーンを落として、そうつぶやく。照れくさい、という感じだった。木下なりに励ましてくれているのだ、とわかった。


「俺も、四人でおるの、楽しいよ」


 そりゃあ、川内と二人きりになりたいと思うこともある。

 でもやっぱり、四人でワイワイと花壇を整えたり、畑を耕したり、温室で話をしたり、そういうことがベースにあってこそなのだ。


「ほうか。じゃあやっぱり、早う仲直りせにゃあの」

「うん」


 そして俺たちは、また雑草取りを再開する。

 そのうちふと、木下が話し始めた。


「いうてもワシら、ちぃと女子らに振り回されすぎじゃないかのう」

「ほうか?」

「ほうよ。ワシら、あいつらに弱すぎよ。いつまでも尻に敷かれとっちゃあいけんわ。いつか下剋上せにゃあいけん」

「できるんか、そんなこと」

「……どうかのう」


 木下が不安そうな声を出すので、思わず噴き出してしまい、木下はそれに唇を尖らせた。


   ◇


 家に帰ると、姉ちゃんの黒い軽自動車は停まっていなかった。ずっと早めに帰って来ていたのに、ここのところは帰りが遅いみたいだ。

 この際、姉ちゃんに相談するべきかとも思ったのだが、そうはいかないようだ。肝心なときにいないとは役に立たない。

 とはいえ、姉ちゃんになにもかも明かすことはできないので、謝り方とか、そういうことしか訊けないわけだから、なんにしろお役立ちではないのかもしれない。

 大学生のいろいろが、なにかは知らないが。大学生って忙しいものなんだな、と思った。

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