表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼女のテレパシー 俺のジェラシー  作者: 新道 梨果子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/31

9. 隠しごと

「おはよー、タカちゃん」

「タカちゃん、おはよう」


 翌朝、教室に到着すると、ニヤニヤしながら尾崎と木下がそう挨拶した。そんな気はしてた。


「止めえや、それ」


 唇を尖らせてそう抗議の声を上げ、自分の席についた。そんな俺を見て、二人はアハハと声を出して笑う。


「おはよう」


 そのあとからやってきた川内は、タカちゃんとは呼ばなかった。なんとなくセーフ。

 俺は三人を見回して、訊いてみる。


「昨日、姉ちゃん、なんか言いよった?」

「いや、いろいろ訊きたかったけど、車じゃけえ、すぐにバス停に着いたし」

「そっか」


 昨日、姉ちゃんが報告してきたことと同じだ。これは、余計なことは言われていないと判断してもいいだろう。俺は心の中で胸を撫で下ろす。

 しかし念のためと思ったのか、木下が続けた。


「宮内先生まだおる? とか、そんなことくらいかのう」


 そういう話なら大丈夫か。言われて困るようなことは特にないが、子どもの頃の失敗とかを面白おかしく話しそうだから困る。


「お礼、言っといてね?」


 川内がこちらに向かってそう声を掛けてくる。俺は顔の前でひらひらと手を振った。


「ええよ、そんなん」

「よくないよ、助かったんじゃもん」


 川内はそう食い下がってくる。意外に頑固なところもあるのかな、と思った。


「わかった、伝えとく」

「ありがと」


 安心したように微笑むと、川内はそう返してきた。


「そういえばさー」


 尾崎が、ポン、と手を叩いて川内のほうに向き直る。


「ハルちゃんって、何分のバスに乗りよるん?」

「えっ?」

「いっつもウチらよりあとじゃけど、遅刻はせんじゃん。何分なんかな、思うて。それじゃったら、ウチももう一本遅らせてもいいんかなって」


 合点がいった、というふうにひとつ頷くと、川内は口を開く。


「乗りよるのはもっと早いバスよ。私は、教室に来る前に温室に寄りよるけえ」

「そうなんか」

「じゃあ、手伝わんにゃ(ないと)


 俺たちがそう慌てると、川内は両手を胸の前で焦ったように振る。


「あっ、ええんよ、仁方からじゃったら電車との兼ね合いがあるけえ、どうしても早うなるんよ。じゃけえ勝手にやりよるだけじゃし」

「でも」


 川内は、なおも食い下がる俺たちに、早口で返す。


「一人で集中したいこともあるけえ。ええと、花の様子とか、じっくり見たりとか」

「ふうん?」


 よくはわからないが、川内以外のメンツは植物に関しては完全に素人で、なにひとつ詳しくないから、川内くらい詳しいと専門的ななにかがあるのかな、皆と一緒だと気が散るのかな、と納得してみる。


「あっ、予鈴」

「あー! 今日の数Ⅱ、小テストあるんじゃなかった?」

「しゃべっとる場合じゃなかった」


 慌てて俺たちは席に着いてガサガサと教科書やノートを出す。

 そんな中、川内だけは安心したように息を吐いた。


 一人で集中したいこと。それは、なんだろう。

 なんだかなにかを隠されているような、そんな気がして落ち着かなかった。


   ◇


「お前らそれぞれ、種からなんか育ててみるか」


 と、温室でくつろいでいるときに、浦辺先生が提案した。


「やっぱり園芸部の活動じゃけえの、花でも咲かせてみんといけんじゃろう」


 その言葉に瞳を輝かせたのは川内だけで、他の三人は眉根を寄せる。


「小学校のときに朝顔を育てたことしかない」


 俺がそう発言すると、木下もうんうん、と頷く。尾崎も続けた。


「ウチなんか、サボテン枯らしたことあるよ」

「うわー、マジか」

「水遣りすぎちゃいけんっていうけえ、放っといたら枯れとった」

「やりそう」


 そう話して三人は笑うが、川内は少し驚いたように口を開いた。彼女にとっては信じられないことらしい。


「私も手伝うけえ、がんばろ?」


 よほど不安なのか、労わるような小さな声音で、尾崎を励ましている。


「自信ないわー」


 しかし尾崎から返ってきたのは、そんな心もとない言葉だった。


「前途多難じゃのう」


 呆れたように、ため息交じりで浦辺先生は肩を落とす。


「まあ、川内がおるけえ、大丈夫じゃろ」


 先生は、温室内を見回して言った。


「ここにある花、ほとんど川内が咲かせたんで? そこのパンジーも、ちゃんと種から育てたんじゃ」


 浦辺先生は、棚に並べられたプランターを指差した。その色とりどりの可愛らしい花は、いつも俺たちの目を楽しませてくれている。


「覚えとらんか、今年の一年生が入ってきたとき、靴箱んとこにいっぱい置いてあったじゃろうが。綺麗じゃったで」

「そういえば……」


 あったような気がする。よく見ていなかった。


「パンジーは、色がいっぱいあるけえ、華やかかと思うて」


 照れたように川内が頬を染める。


「すごいね、ハルちゃん。種から育てるとか」

「そんなに難しゅうないよ。千夏ちゃんもやってみる?」

「うーん……」


 サボテンを枯らせたことのある尾崎にしてみれば、パンジーはハードルが高いのかもしれない。どうも乗り気ではない様子だ。


「ワシは、どうせなら食べられるもん育ててみたいのう」


 木下がはしゃいだ声で希望を述べる。食べられるもの……といえば。


「野菜とか?」

「野菜かー……果物のほうがええのう」

「卒業までに収穫できるもんにせえよ」


 浦辺先生の指摘に、それもそうか、と考える。桃栗三年柿八年、卒業まであと二年弱。桃と栗と柿みたいに、木に生るようなものは、どう考えても無理だ。


「あ! スイカにしようや」


 尾崎がポンと手を叩いて、名案だとばかりに意見した。

 しかし浦辺先生は手を胸の前で振って、却下の姿勢だ。


「スイカは難しいで。初心者がやるようなもんじゃないで」

「ええー、スイカがええよー」


 サボテンを枯らせた人間がなにを言っているのか。しかし尾崎は食い下がる。


「スイカにしようや! スイカ好きなんよ!」


 足をバタバタさせてそう言い張る尾崎を見て、浦辺先生は腕を組んでうーん、と考え込む。それから少しして、浦辺先生は顔を上げた。


「まあ、スイカにしろなんにしろ、大きいもんを育てるんなら、畑をまず耕さんといけんのう。もう何年も使うてないけえ、まずはそこからじゃ」


 畑を耕す。どうやらまた、俺たちの出番なのではないか。俺と木下は、顔を見合わせて苦笑する。


「畑はどこ?」

「温室の横にあるじゃろうが」


 浦辺先生は温室の外を指差した。そこには、草ぼうぼうの広場しかない。


「あれ、畑じゃったんじゃ」

「ほうで。まあとにかく、今植えられるものかどうかとか、よう考えんと。よし、ちゃんと一年の計画を練ろう。園芸部らしゅう(らしく)なってきたのう」


 そうして、浦辺先生は嬉しそうに笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ