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アネモネ  作者: りーた
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第二章 出会い

昼過ぎに一度目を覚まし、リビングに置かれていた昼食をなんとなく口に運んだ。

することもないから少し歩こうと考えていたが、誰かとすれ違うのは嫌だ。

そう思った俺は、夜歩くことにした。

そして、再びベッドに潜り込んだ。


時計の針が深夜を回った頃。

俺は静まり返った夜の街を、あてもなく歩いていた。

すると、前方の街灯の下で、一人の女性とすれ違った。

俺と同じ、高校生くらいだろうか?

薄暗くてよく見えなかったが、肌が白く、小柄で、ハッとするほどの綺麗な人だと思った。

「ちょっと、そこの君」


すれ違いざま、後ろから声をかけられた。

なんだろうと振り返ると、さっきの少女がいた。

「……なんですか?」

「君、高校生?」

「はい、そうですけど」

しまった、もしかして補導中の警察か何かだろうか。そんな焦りが脳裏をよぎる。


「私も高校生なんだよね。なんでこんな時間に歩いてるの?」

「それは……」

なんて言えばいい。

引きこもりだから昼夜逆転して散歩してました、なんて言ったら変に思われるに決まっている。

どうしようかと口籠もっていると、彼女は俺の顔を覗き込んできた。


「君、もしかして引きこもり?」

「は、はい」


核心をつかれてつい正直に答えてしまった。

すると少女は、ぱっと顔を輝かせた。


「奇遇だね!私もなんだよね!」

「……そうなんですか」

「名前、なんて言うの?」

「一ノ瀬、翔瑠です。」

「私は水戸涼花っていうの。よろしくね、翔瑠くん。」

「よ、よろしくお願いします。」


じゃあ水戸さんでいいのかな。

そんなことを考えていると、涼花さんは一歩俺との距離を詰めた。


「これから何かやる予定とかある?」

「ないですけど……」

「じゃあ、ついてきて!」

「おわっ!?」


突然、ぎゅっと手を掴まれた。

引きこもりの俺とは驚くほど違う、温かい手だった。

そのままぐいぐいと引っ張られて、夜の道を連れて行かれる。


どこに向かってるのか聞きたかったけれど、今の俺にはそんな度胸はなかった。


「そういえば、翔瑠くんは何年生?」

「一年、です。」

「じゃあ同い年だね。」

同い年なのか、この人。

「ついたよ!」

涼花さんの弾んだ声に合わせて見上げてみると、そこにはごく普通の家が立っていた。

「どこだ、ここ……」

「ん?ここはね、私の家だよ。」

「そっか〜。水戸さんの家か……って、水戸さんの家っ!?」


「水戸さんなんて他人行儀だし、涼花でいいよ。」

いや、呼び方の話じゃない。異性の家、しかも部屋になんて入ったことないぞ。


「水戸さ、涼花さん。なんで俺を家に連れて来たんですか?」

「翔瑠くんが可愛いかったからだよ?」

「可愛い……?」


俺が首を傾げていると、涼花さんは悪戯っぽく笑った。


「あはは、さすがに冗談!ただね、なんか私に似てる気がしたんだ。あとは、私の直感が『この子はいい子だぞ』って言ってたから!」

「うんうん…。」「それだけっ!?」


直感だけで真夜中に男子を連れてくるものなのか。

静まり返った玄関を通り抜けながら、やっぱりこの人はおかしい、と俺は戦慄していた。


「とーにーかーくー、入って!」

「え?えぇ!?」


再び手を掴まれ、有無を言わさず奥へと引っ張られる。

全力で抵抗したけど、引きこもり生活で鈍った俺の身体は、小柄な彼女の力にすら勝てなかった。

俺、弱すぎないか……?


「お、お邪魔します……」

「はやくはやく!」


誰もいないリビングを素通りして、俺は一つの部屋に案内された。


「ここが私の部屋だよ!」

「ほんとに涼花さんの部屋まで来ちゃったよ……」

本当に女子の部屋に入ってしまった。戸惑う俺の鼻腔を、ふわりと甘く瑞々しい花の香りがかすめる。

部屋の片隅には、見慣れない花が飾られていた。

白くて綺麗な花だ。


「ん?なんかアネモネばっかり見てるね。」

「アネモネ……?」

「そう。これは白いアネモネなんだよ。」

「アネモネって、赤とか青ってイメージがあったな。」

「確かに一般的には赤とか青とかが有名なんだよね。私は白が一番好きなんだ。」

「白いアネモネか……。なんか、光輝いてて、希望って感じがしていいですね。」

「……そこまで真っ直ぐに言われると照れるな。」

「あ、涼花さんのことを褒めたわけじゃないですからね!?」

「えぇー!?ひっどぉーい。」


ぷくっと頬を膨らませる涼花さんを見て、少しだけ緊張が解けていくのが分かった。


「あの、本当に、なんで俺をここに呼んだんですか?」


改めて問いかけてみると、涼花さんは悪戯っぽい笑みを消して、優しく微笑んだ。


「翔瑠くんが、すごく元気なさそうに見えたからだよ。」


どうして引きこもりになったのかそんな無粋なことを聞いてこなかった。

ただ、俺の纏う空気を感じ取ってくれたのだ。

涼花さんは、俺が思うよりずっと優しい人なのかもしれない。


「明日からも、夜になったら翔瑠くんを夜に探すから、ここまで来てね。」

「えっとぉ、それは……」

「来てくれないなら、私、泣いちゃうかも。」


しくしく、と嘘泣きのジェスチャーをする彼女に、俺は苦笑するしかなかった。


「……わかりました。明日から来ます。」

「やったー!約束だからね?」

「はい、約束です。」


それから、俺は涼花さんの家に送り出されるようにして帰路についた。

自宅に戻り、布団に潜り込む。

目を瞑ると、いつもならあの嫌な思い出が再生されるはずなのに、なぜか今夜はすんなりと意識が薄れた。


いつもより、ずっと深く眠れた気がした。

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