第十一幕 聖なる果樹に隠された秘密
異国の伝説ではセイレーンは二人いるとも、三人以上だとも言われている。
「複数いる場合、セイレーネスと呼ぶそうです。彼女達は声を掛け合わせることで力を増幅させる。個々の力は小さくとも、決してあなどることはできません」
「だが先ほどアンジェリーナが見たという女性がセイレーンだとすると証拠はない。まったくの無関係である可能性だって十分にある」
冷静なジルベルトの言葉に、アンジェリーナは眉を下げた。
たしかに証拠はないし、あやしいというだけだ。
ただ、彼女の強い眼差しがアンジェリーナは忘れられなかった。鋭い知性と目を引く存在感は、高度な教育を受けた貴族のご令嬢というほうがしっくりくる。
「もしかするとあの女性は高位貴族のお嬢様かもしれません。それがなぜこんな辺鄙な場所に……?」
「アンジュ、あせりすぎだ。情報が足りない」
アンジェリーナはハッとして顔を上げる。
視線を受け止めたジルベルトはアンジェリーナの頭に手を置いた。
「まずは調査だ。我々はこのアルメタニアの森ですらよく知らない状態にある。今回の件、場合によっては相手の名誉にも関わることだ。だから間違いがないように、情報は一つでも多いほうがいい」
「そうでした、うたがわしいというだけで決めつけるのは良くないですね」
少なくとも、悪意ある噂に翻弄されてきた自分が噂に惑わされてはいけない。
落ち着こうとアンジェリーナは深く息を吐いた。
気持ちが切り替わったところで、ふたたび周囲に視線を巡らせる。すると聖なる果樹の脇に風雨にさらされ苔むした石板がいくつか転がっていることに気がついた。アンジェリーナの視線を追ったジルベルトは目を丸くする。
「魔除けの聖女が使っていたという、石組みの防御結界に似ているな」
「いいえ、これはそれとは違うものです。ですが聖女にとっては馴染み深いものの一つだと思いますよ」
近づいたアンジェリーナは高さを確認するため石に触れた。
「これは祭壇です。ここで祈り、お供え物を捧げます。今は崩れかけていますが、もっときれいなものが亡国セントレアの神殿にもありましたよ」
「祭壇か。そんなものがなぜこの場所に?」
「セントレアとラグイアーナは近隣三ヶ国でもっとも親密でした。そのせいか、祭事も似ているところが多いのです。ですから似たような形の祭壇があっても不思議ではないのですが…… 問題は何を祀っていたか、ということです」
アンジェリーナは聖なる果樹を見上げた。生い茂る枝葉が、時折不自然に揺れている。崩れかけた祭壇の前に立つと、地面に祭事用の酒器の割れた欠片が落ちていた。
困った顔をして、アンジェリーナはジルベルトと視線を合わせる。
「お供え物が必要ということは、祈りを捧げる相手は力ある存在だと思うのです。ですが儀式は行われていない様子。残念ながら、今は力が弱まっていますね」
「そんなことまでわかるのか?」
「はい。ここにお供え物があれば、何か反応があるかもしれません」
「何がいいんだ?」
「果物、お酒、花が定番ですね」
「そうか……アンジュ、手を出して」
差し出したアンジェリーナの手のひらに、ジルベルトは鞄から取り出した赤く熟したリンゴを二つ置いた。あまりにも都合よくお供え物が手に入ったので、アンジェリーナは目を丸くする。アレスティオが思わずつぶやいた。
「準備がいいな!」
「入口の売店で、アンジュがおなかすいたとき用のおやつとして買っておいた」
「遠足か? おまえ、それ保護者」
「いいか、それ以上言うなよ」
ジルベルトににらまれて、アレスティオはニヤニヤしながら口を閉じる。
ふふっと笑ってリンゴを受け取ったアンジェリーナは祭壇の上に置いた。一歩下がったところでアレスティオと視線が合う。
「アンジェリーナは何を祈るんだ?」
「私の場合、祈りも潔斎も厳しいとされる修行もいらないのです。そこにいるだけで勝手に能力が仕事をしてくれます」
力が流れ出ていくのに身を任せて、アンジェリーナは手を組み目を閉じる。
「浄化が選ばれたようです。魔を退け、聖なる力で果樹を満たします」
風の音、花の香り。揺れる木の葉と、生き物の動く気配。
アンジェリーナの感覚が研ぎ澄まされていく。
「空気が澄んでいくな」
何かに気がついたアレスティオが周囲を見渡すと、ジルベルトは満足そうに微笑んだ。アンジェリーナの体を取り巻くように波打ちながら金色の光が舞っている。
自由で自信に満ちた横顔も好きだけれど、静謐な聖女らしいアンジェリーナの姿にも、なぜだかジルベルトの胸を打つものがある。
「きれいだ」
「たしかにああいう姿を見ると聖女なんだなー、とは思うけれど」
ジルベルトには見えないようだが、アレスティオの角度からは口元がゆるみきっているのが見える。アンジェリーナの横顔にあきれたような視線を向けて、ジャミルにボソッとつぶやいた。
「今のアンジェリーナは、絶対に想像の斜め上のことを考えているぞ」
「奇遇ですね、私もまったく同じことを考えていました」
ジャミルは残念なものを見る眼差しをした。
そして当のアンジェリーナはといえば金色に輝く魔力の残さを身にまといながら、邪念に満ちていた。
……今日の夕飯は肉料理が食べたいなぁ。
想像以上にしょうもないアンジェリーナの願いに動揺したかどうかわからないが、静かに何かが動き出した。目を開けたアンジェリーナの視線の先で、まるで葉が枝を這うようにうごめいている。
「枝を残して葉が動くとは、どういうことだ。まさか、魔のつくものか?」
目の前の光景が信じられなくてジルベルトは剣に手を添える。けれどアンジェリーナは彼の手を軽く押さえた。
「大丈夫ですよ、間違いなく魔のつくものではありません」
「どうしてわかる?」
「浄化を使えば、魔獣も魔物も聖なる果樹に存在することは許されません。燃えるか、朽ちるように姿を失います。ですから力の影響を受けないということは、それ以外の存在ということになります」
「では何だ?」
「ちょっと待っていてください。たぶんもうすぐ全身を現しますので」
アンジェリーナの言葉が終わらないうちに、太く頑丈な幹にまとわりつくようにして蛇が姿を現した。固い鱗ではなく、葉と見間違うような柔らかい羽毛からだ。そして聖なる果実と同じ赤い瞳。先ほどまで聖なる果樹と思っていたものの一部は、擬態して身を潜めていた蛇の体だったらしい。
蛇はアンジェリーナを襲うでもなく、幹に絡みついたままただ静かにたたずんでいる。想定外の出来事に残る三人は呆然となった。
「なんだ、この蛇は」
「私にもわかりません。はじめて見ました」
ジルベルトのつぶやきに首を振って答えたアンジェリーナは蛇と視線を合わせる。鱗の代わりに柔らかな羽毛が生えているからか、そこまでおそろしい印象はなかった。
「この独特の姿……あれ、そういえば」
アンジェリーナは、ふとおばあさまの言葉を思い出した。
—―――鱗の代わりに羽毛がはえている。そういう蛇の精霊様がいるそうだよ。
「もしかして……精霊様ですか?」
途端に張り詰めた緊張感が霧散して、蛇はそうだと言うように首を激しく上下に動かした。うれしいという感情がアンジェリーナの脳に直接響いてくる。
「大当たりみたいです、やっぱり精霊様でした!」
「精霊……いるとは聞いたことがあるが実物は、ちょっと」
そこまで言ってジルベルトは言葉を失った。
セイレーンに、果樹園と聖なる果樹、伝説にしかいないはずの精霊まで。アンジェリーナと旅をして大抵のことに慣れたつもりのジルベルトでも、全部をすぐに呑み込むのは無理だった。
「情報量が多すぎる」
「いやそんな、私が率先して情報を増やしている訳ではないのですよ。むしろラグイアーナ王国という場所自体に未知の部分が多かったというだけです!」
不本意という顔で、アンジェリーナは精霊様と視線を合わせる。
先ほどまでのおそろしい雰囲気は消え失せて、羽毛はふっくら、つぶらな赤の瞳はキラキラと輝いていた。
ふさっとした毛並みを揺らして、うれしそうにお供え物のリンゴをいただく精霊の姿を見てアンジェリーナは気がついた。
これ、言わないほうがいいのか……。
ちらっと横目にジルベルトの顔を確認する。さんざん迷った末に、覚悟を決めたアンジェリーナは重い口を開いた。
「ジル、それともう一つ報告があるのですが」
「なんだ?」
「私、精霊様を浄化したようです。あのピカピカ具合は間違いありません」
「は⁉︎」
「浄化が選ばれたのは、てっきり聖なる果樹や空気中に漂う魔のつくものの気配を浄化するためと思っていたのです。ですが本当のところは、どうやら精霊様がそういう悪いものを吸収してくださっていたようで。代わりにどんどん汚れて、危うく魔物に堕ちるところでした。ぎりぎり間に合ってよかったです」
「精霊を浄化……できるのか?」
ジルベルトは言葉を失った。
彼の顔に「常識って何だ」という思考がにじみ出ている。途方に暮れたようなジルベルトの顔に、アンジェリーナは何やら申し訳ない気持ちになる。
あれこれをまとめて咀嚼して、呑み込んで。ジルベルトは深々と息を吐いた。
「そもそもの話、精霊が魔物になるなんてことがあるのか?」
「我々の探すセイレーンも元は精霊ですからね」
真面目な顔でアンジェリーナが答えると、ジルベルトは黙った。
アンジェリーナは指先で崩れかけた祭壇をなでる。
「通常は力ある存在を浄化するために、このような祭壇を使って儀式を行ないます。ただこの荒れ具合では、長いこと儀式を行なっていないみたいですね」
「儀式が行われないとどうなる?」
「長い時間をかけて自然に浄化することもできますが、さすがに限度があります。魔物が増えれば浄化する量も増える、やがて処理できる容量を超えてしまう。魔獣の大移動があって、魔物の数が増えたのも拍車をかけたでしょうね。容量を超えてしまえば自然の力だけでは浄化できなくなります」
聖なる果樹を見上げたアンジェリーナは、木漏れ日に目を細める。
「ここにいる精霊様は聖なる果樹を守るために生きる存在のようです。力が強いので、魔物になってしまうと甚大な被害を与えてしまう。そのためには精霊様の手当てが必要だったようです」
「手当てが必要と判断したのは誰か。誰がアンジュをここに導いたかは、聞くまでもないな」
アンジェリーナと同じように空を見上げたジルベルトは深々と息を吐いた。
「毎度のように思うのですが、もうちょっとわかりやすく導いてくださると助かるのですけれど。女王の聖杯は引き金の一つで、ここにたどり着けるかを試されたようですね」
力の強い精霊が魔物となれば、どれほどの被害を及ぼすかわからない。そして、その被害がラグイアーナ王国だけにとどまるとも限らなかった。
「感情に任せて仕事を断っていたら、後が危なかったです」
「危なかったというのは? 精霊の力が強いからか」
「いいえ、強さとは別の意味で精霊は重要な存在なのです。精霊とは自然界のバランスをとる存在の一つ。このほんわかした見た目にだまされますが、聖なる果樹の生育には欠かせない雨を降らせ、風を吹かせることもできるようです」
「天候を操作できるということか。危なかった、とはそういう意味だな」
天候を左右するだけでなく、強弱まで操作できるとすれば。待ち受けていた過酷な未来を想像して、ジルベルトは黙り込む。
アンジェリーナの視線の先で、リンゴを食べ終わった精霊はするりと長い尻尾を伸ばした。聖なる果樹を揺らすと、落ちた赤い実を器用に受け止める。
流れるように、そのままアンジェリーナへと差し出した。
「もしかして、これをくださるのですか?」
目を細めて、大蛇はコクコクと縦に首をふった。伸ばした尻尾の先でアンジェリーナの頭をなでると、まるで「よくやった」とでも言うように軽くポンポンと叩いた。頭をなでられたアンジェリーナは瞳を輝かせて、くすぐったそうに笑っている。
目の前の光景に呆然としていたアレスティオはハッと我に返ると、深々とため息をついた。
「すまん、ジル。あまりにも平和すぎて反応できなかった」
「私もだ。この期に及んで精霊がアンジュをどうこうするとは思えないが、手を出すことを許した。護衛としては失格だな」
ジルベルトは苦笑いを浮かべる。
果実に顔を寄せて、香りを堪能したアンジェリーナは勢いよくジルベルトを振り向いた。
「ジル! 精霊様からほめられて、ごほうびまでいただきました!」
アンジェリーナの手の上にある赤い実からは、リンゴと桃を足したような甘い香りがする。その顔を見てジルベルトは小さく笑うとアンジェリーナの頭をなでた。
「ちゃんとお礼は言ったか?」
「はい! しかもですね、尻尾の先で頭をなでてくれたときの感触がジルの手の感触にそっくりなのですよ。温かくて、とっても優しいのです!」
「そうか、それは光栄だな」
この時点でジルベルトは全部を理解することをあきらめている。本人が幸せならそれでいいと、あれこれ思うところは全部丸呑みした。
アレスティオはアンジェリーナの手元にある赤い実を見つめて、眉をひそめる。
「それにしてもテオはいい加減なことを……なにが聖なる果樹には問題なしだ」
「そういえば第二王子は聖なる果樹を管理している人間がいると言っていましたよね。その者達が気づかなかったのではないでしょうか?」
思い出した様子でジャミルが答える。
彼の視線を追って、アンジェリーナは果樹園へと続く道へと視線を向けた。すると道の奥から騒ぐ声と足音がいくつもこちらに近づいてくる。
辺りが急に騒がしくなって、警戒するように振り向いたジルベルトは目を細める。程なくして先ほどすれ違った果樹園で働く人々が姿を現した。
「いたぞ!」
兵士の怒鳴り声が響き、喧騒がさらに大きくなる。
この騒ぎは、聖なる果樹を管理する者が気づいたということだろうか。
全員が険しい顔をして、アンジェリーナ達を取り囲むとこちらをにらみつける。
「勝手に聖なる果樹に近づくな、そこは立入禁止だ!」
怒鳴り声が聞こえて、アンジェリーナは一瞬肩を震わせる。ジルベルトがアンジェリーナを守るように前に出た。
「我々は第二王子殿下の許可を得て、ここにいる。調査の一環だ」
「だが、この者たちが聖なる果樹に近づくよそ者がいると通報してきたのだ。落ちた実を拾おうとしているのではないかと」
どれだけ強い風雨にさらされても実を落とさない聖なる果樹が、かつて王家にだけは実を落としたのだという。だから落ちた果実はすべて王家に献上せよと指示されているそうだ。
「記録によると百年以上という長い期間『聖なる果実』を落としてはいないから、むしろ貴重なんだ」
「聖なる果実ですか?」
そう答えて首をかしげると、アンジェリーナが手に持つ赤い実に人々の視線が釘づけになる。一瞬の沈黙が落ちて、兵士が叫んだ。
「それだ、現行犯だ!」
「ええっ、これですか! 違いますよ、精霊様からいただいたのです!」
あわててアンジェリーナは聖なる果樹を振り向いた。けれど精霊はすでに葉に擬態して、姿を消している。人に姿を見せないというのは、どうやら認めた人間以外には姿を見せないという意味らしい。
呆気に取られたアンジェリーナに、こわい顔で兵士が手を差し出した。
「落ちた実でも、王家のものと決まっているのだ。さあ、こちらに寄こせ!」
その瞬間、視線を鋭くしたジルベルトが冷たく言い放った。
「それは落ちたものではなく、浄化の礼として彼女が精霊から受けたものだ。状況を見たわけではないのに奪っていくのは、いくらなんでも乱暴じゃないか」
「そうだぞ、これが原因で国が荒れたら誰が責任を負うんだ」
さらにアレスティオがあおると、兵士は声を荒げる。
「……っ、うるさい。決まりは決まりだ! 精霊なんて見たことがないものを誰が信じるか!」
言葉の応酬を聞きながらアンジェリーナは眉を下げる。
見えないものは信じない。亡国セントレアではそんな人達ばかりだったから、それが普通なのだ理解はできる。でもだからと言って、精霊が与えてくれたものを簡単に手放すわけにもいかない。
困り果てて聖なる果樹を見上げると、赤い実に擬態する精霊の目と目が合った。途端にアンジェリーナの背筋が凍りつく。
……ものすごい怒っていらっしゃるー!
あまりの視線の鋭さにアンジェリーナは震えた。
精霊にだって感情はある。人間の都合で厚意をなかったことにされたら、怒って当然だ。それと同時に精霊から「許す、好きにやっておしまい」という圧力も一緒にひしひしと伝わってくる。
神様といい、精霊様といい……人使いが荒すぎる。
でも仕方ない、人と精霊をつなぐのも聖女の務めとアンジェリーナは腹をくくった。
「静まりなさい」
いつになくおごそかなアンジェリーナの声が響いて、一気に場が静まり返る。アンジェリーナは聖女らしく柔らかくも厳しさのある表情で、兵士と騒ぐ人々の目を見ながらふたたび閉じた口を開いた。
「たった今、精霊様のお告げがありました」
「は、お告げ? なんでそんなことがわかるんだ!」
「私が聖女だからです」
心の中で、「元はつきますが」をつけ加えることは忘れない。そしてゆっくりとアンジェリーナは兵士に赤い実を差し出した。
目を見て、逃がさないとばかりに気合を込めながらアンジェリーナは微笑んだ。
「精霊様はこの果実を『汝が知る、もっとも高貴な者に届けよ』と申されております。では託しましたよ、よろしくお願いしますね」
「は、誰に届ける?」
「もっとも高貴な者に、です。ここにいる全員が証人ですよ。あなたが渡す相手に誰を選ぶか、最終的に誰の手に渡るのか。精霊様はとても楽しみにしているそうです」
アンジェリーナは聖女らしくにっこりと笑ってそう答えた。
もっとも高貴な者に、というお告げはおばあさまに教えてもらった異国に伝わるという古いお話を参考にさせてもらった。そして話の最後にアンジェリーナはニイと笑った。
「もちろん、お告げを無視していただいてもかまいませんよ。あなたの主張では精霊様はいないのですから」
受け取った兵士は不気味なものを見る眼差しで赤い実を見つめている。
どうするのか、誰に渡すのか。
ここにいる誰もが興味津々という顔で彼を見ているから余計に居心地が悪そうだ。真面目な顔をしたジルベルトはアンジェリーナに顔を寄せて、そっとささやいた。
「七十五点。お告げは聖女らしいのに、笑顔がなんで邪悪なんだろうな?」
「あら、セザイア帝国のときから十点も上がりましたね。大きな進歩です!」
「だがいいのか、せっかくいただいたごほうびをあげてしまって」
ジルベルトに視線を合わせて、アンジェリーナは申し訳ないという顔をする。
「ジルやアレス様にもかばっていただいたのに、聖なる果実を手放すことになってごめんなさい。ですが、どうやら精霊様に思うところがあるようです。私は人間と精霊の橋渡しをしただけ、あとは精霊様が好きになさるでしょう」
薄く笑って、アンジェリーナは唇に指を添えた。
「聖なる果実が誰の手に渡って、どんな結末を迎えるか。それは最後のお楽しみということです」




