第2話
「おはこんばんわー。バックアップ所属の恋空クレアでーす! そして」
「おはこんばんわです。バックアップ所属の恋空リースです。そして」
「……え。これ、俺も言わないとダメなのか?」
・ おはこんばんわー
・ 騎士、ノリが悪いぞ
・ ついにコンプリートしたか
「もう! 騎士さん。ノリが悪いですよ。V-TUBERならV-TUBERらしくちゃんと挨拶しないと」
「いや? 俺はV-TUBERじゃないんだが」
「ふふ。騎士さんは既に私達の仲間みたいなものですし、あまり変わりありませんよ」
・ 騎士がV-TUBERか
・ 色んなところに出ているもんな
・ デビュー? したら、登録するぞ
「するか! 俺はしがない一般人だ。てか、あいつはどうした!? 今日は素材を取りに行く配信をするって聞いたから、ここに来たんだぞ」
ルークはいつもの通り、紬希に「手伝って、お願い」と言われてFantasy WORLDのとある街、風の国シルファードにいた。
待ち合わせ場所につくなり、両方から腕を絡められて、気がついたら配信が始まっていたのである。
「ふふーん。今日は紬希ちゃんは諸事情でこれなくなったので代わりに私達が来ました」
「ごめんなさい、騎士さん。ちゃんとお伝えすればよかったのですが連絡先がわからなかったもので」
嘘である。紬希はちゃんとログインしようとしたのであるが、クレアのとあるリークによってゲームどころか配信すらできない状態に陥っていた。
今ごろはタマ子の指導の下、必死になって課題をこなしているところである。
「なに? アイツ、またドタキャンなの? なら、俺は帰ってもいいかな?」
「ダメでーす。てか、こんな可愛い女の子が二人もいるのに帰るとか薄情じゃないですか!?」
「ごめんなさい、騎士さん。私達だけでは達成できないかもしれませんので、お力添えをいただきたく」
どうやら逃げられそうにない。観念したルークはなるべく早めに終わらそうと話しを促した。
「はぁ。とりあえず、何の企画なんだ?」
・ やる気出せよ、騎士
・ 両手に花の状態とかうらやましいぞ
「今回はお姉ちゃん専用の召喚獣をゲットしようと思いまーす」
・ 888888
・ 今日はSummon WORLDか
「召喚獣ってことはSummon WORLDか?」
「うん! 先日、お姉ちゃんと戦ったでしょ?」
「あぁ。リースさんはBattle WORLDの実力者だからな。是非とも手合わせしたくてな」
・ え? そんな面白そうな事をしてたの?
・ なんでそれを配信しないんだー
「ふふ。ごめんなさい。唐突だったから、録画し忘れちゃったの」
嘘である。つい最近、不用意に護衛騎士と会うなと釘を刺されたばかりなのだ。にも関わらず護衛騎士と対戦したなんて紬希の耳に入れば何が起こるかわからない。
リースとしては気兼ねなく戦える相手でもあるので、禁止されたらたまったものではない。
「それで、お姉ちゃんのオプション攻撃を見たでしょ? あれ、実は私の姿を模倣しているんだよ」
「あー。なるほど。既視感があると思ったら、あの時の爆弾を投げた子か」
「そうなのよ! ひどいよね。まるで私は爆弾魔みたいじゃない」
・ みたい?
・ ちょくちょくニトロを使っているよね
・ Guner WORLDではボマーじゃん
「うるさいうるさーい! とにかく、私は不服なの。だからお姉ちゃんにはお姉ちゃん専用の召喚獣を捕まえて貰ってそれを使って貰うことにしました」
「しましたって……。リースさんはSummon WORLDの経験は?」
「初めてです」
「それじゃあ、1日で捕まえるの無理だぞ」
Summon WORLDは魔物を戦わせ、弱らせてから捕まえる必要がある。初心者なら始まりの一匹を貰って、それを育てながら捕まえる必要がある。
リースがどんな召喚獣を所望しているのかはわからないが、捕まえるにはFantasy WORLDと同様に時間がかかるのだ。
・ 始まりのランダム相棒によるな
視聴者の言う通り、始まりの召喚獣はランダム。運がよければ高クラスの召喚獣をいきなり使役することも可能だ。こればかりは運要素が強いのでなんとも言えない所である。
「そこは考えてあるよ。Summon WORLDってチームで行動することも可能でしょ?」
「……パワーレベリングをしろと? それは些かリスクも伴うぞ」
パワーレベリング。低レベルのものが高レベルの者に付き添って恩恵を得る一種のレベリング。成長は確かに早いがそれをやると召喚獣との絆を深めることが難しくなる。Summon WORLDは召喚者が前に立って戦う事を禁止されているのだ。互いの信頼性がないと強くなるのは難しいであろう。
「ううん。騎士さんには、同じように低レベルの召喚獣を新たに契約してもらいます」
「私とクレア。そして騎士さんの三人でそれぞれ一体を育てながら、進めようと思います」
「それは、できなくはないが……」
ルークには既にアレイオーンと言う素晴らしい相棒がいる。他に一体存在するが、それ以上は増やすつもりはないと考えていた。
それにいくら三人同時で初めても結局のところは変わ
らない。召喚獣を強くするには根気よく育てる必要があるのだ。
「そうと決まったら、早速いきましょう!」
「いきましょう!」
「ちょ。おい! 俺はまだやるとは言って――」
クレアに手を引っ張られ、リースに背中を押されながら強制的に連行されたルークはSummon WORLDの始まりの村に連れられるのであった。
「はい、来ました! Summon WORLDです」
「わぁ。たくさんの召喚獣達が一緒になって暮らしているんですね」
Summon WORLDに到着するなり、目を輝かせる二人。初心者の村とも呼ばれる始まりの村サージェスは緑豊かな農村である。NPC達も召喚獣を使役することができ、彼らの力を借りて農作物を収穫している姿が見えた。
「それで、最初は何をするんです?」
・ ノープランかい
・ 騎士に丸投げw
「まずは、ギルドに言って登録して、召喚獣の宝石を貰う。で、合っていましたか?」
「その通りだ。最初の一体は無料で貰えるが、二体目は召喚に必要な鉱石を使うか、捕まえる必要がある」
・ うんうん
・ な、なるほど
・ つまり、護衛騎士は貰えないのか
「その通り。だから俺は鉱石を使って新たに召喚する必要があるんだが……」
「もしかして、持っていないんですか?」
リースの言う通り、必要な鉱石は所持していない。だから無理なんだと言おうとするが、直ぐに考えを改める。
「……いや。もう一つあったな。コインを使って鉱石を交換してもらえば可能だ」
コイン。つまりこの世界の金銭を積めばギルドが保有している鉱石を買うことができる。
「問題は足りるかだな」
しかし、ギルドから買うには莫大なコインが必要になる。アレイオーン達を育てるためにコツコツと貯めていたからそれなりの貯蓄はある。買うことは可能かもしれない。
「なら問題ないね! じゃ、ギルドに向かってレッツゴー!」
「だから引っ張るな! 腕を絡ませるな!」
「いいからいいから!」
またもや強制的に連行されてしまう。力ずくで払うこともできるのにそれをしないルークと楽しげに先行する妹の姿を見ながら微笑むリースは二人の後を追う。そんな三人の後を追うものを知らずに。
「ようこそ、サモンギルドに。依頼の手続きですか?」
「違いまーす。私達、新しく召喚者になりに来ました」
「なるほど。それなら最初に召喚獣と契約しないといけませんね。……あ、けど、そちらの方は既に契約済みですよね?」
ギルドに入るなり、クレアは受付嬢に話しかけて話しを進める。受付嬢も気にした様子もなく平然と営業スマイルで対応していく。
「俺は新たに召喚獣を契約したくてな。鉱石を売って貰えないか?」
「左様でしたか。でしたら、こちらが本ギルドが提供できる品々です」
「拝見させて貰うよ。二人は先に召喚を済ませてくれ」
「はーい! いこ、お姉ちゃん」
「わかったわ。それでは騎士さん、お先に」
「あぁ。いい子と契約できるといいな」
ルークと別れた二人は別のギルドの人間に連れられる。
「こちらが、召喚の間となっております。まだ召喚獣をお持ちではないお二人には、この中から好きな鉱石を使用して召喚獣を呼んでください」
用意された鉱石は様々であった。どれに選ぶか迷う二人。
「うーん。どれにしようかな」
「……私はこれにしようかな」
先に決めたのはリースであった。彼女が手にした鉱石は青の鉱石、ブルーサファイアと呼ばれるものであった。
「えー。お姉ちゃんはもう決めたんだ。私は、しちょうしゃに決めてもらおうかなぁ」
自分で決められなかったクレアは視聴者に決めて貰うことにした。彼女が尋ねると多くの視聴者がコメントを送る。
・ 赤
・ 姉が青なら赤だな
・ クリムゾンルビー
・ レッドルビー
「赤い鉱石が多いね。……んと、じゃあ、これにしよう!」
視聴者のコメントからクレアはファイアートルマリンを選ぶ。
「決まりましたね。最後に3つのワードを作ってください」
3つのワード。これが召喚獣を呼ぶランダム要素に大きく反映される。
クレアは[自由][の][翼]と選定。
リースは[情熱][の][空]と選定し、それぞれ初めての召喚を行う。
魔法陣の中心に置かれた二つの鉱石にそれぞれ選んだワードが注入され、それぞれ発光する。目映い光が強くなり、鉱石が爆ぜるとそこから二体の召喚獣が姿を見せた。
「これが」
「私達の召喚獣ね」
二人が呼んだ召喚獣はどちらも翼ある鳥形の召喚獣だった。クレアは炎を纏った隼、名はフレアバード。リースは氷の翼が特徴的なメジロ、名はブルーバードだ。
・ おー
・ 88888
・ クレアちゃんはレアだね
・ リースちゃんは初めて見るやつだなぁ
「やったね、お姉ちゃん。どちらも珍しいやつみたいだよ」
「そうだね」
互いの肩に止まった初めての相棒をあやす二人。その姿を確認したギルドの人間は拍手を送って祝福する。
「おめでとうございます。これで晴れてお二人は召喚者、サモナーとなりました。相棒と共にこの世界を存分にお楽しみ下さい」
「はーい! ありがとうごさいます!」
「ニックネームをつけると更に愛着がわくと思いますので、素晴らしい名前をつけて上げてくださいね」
「ニックネームですか」
確かにブルーバードと呼ぶのは長すぎるし、種族名で呼ぶのは違う気がする。リースは悩んだ末にブルーバードに考案したニックネームを送った。
「あなたの名前は[アズ]よ。よろしくね、アズちゃん」
・ アズールブルーでアズちゃんか
・ あ、そういうこと?
・ 初めて知った、アズールブルー
「じゃあ、私は[カー]。カーマインのカーちゃん!」
・ カーちゃん?
・ そこはマインじゃね?
「いいの! カーちゃん、よろしくね」
それぞれ名前を与えられて嬉しそうに鳴き声を発すると粒子となって、彼女達の腕に纏わり付いて腕輪へと変化する。
「召喚の腕輪です。最初は無骨ですけど、カスタマイズすることも可能ですので、お金がたまったら試して見て下さいね」
二人はギルドの人間にお礼を言ってその場から去る。ルークも時間的に新しく召喚を済ませているはずだ。合流するために急ぎ足で彼の下に向かうのであった。
「……お。来たか」
既に召喚を済ませて待っていたルークは二人を見るなり、手を挙げて彼女達を呼ぶとクレアは駆け抜けて勢いよく懐に飛び込んだ。
「とと。おい、無闇に飛び込んで来るな。危ないだろ」
「えー。女の子が飛び込んで来たのに、その反応はどうなんですか」
「……あまり、こう言うのは褒められたものではないと思うがな」
実年齢はともかく今の彼女は年頃の女性のなりである。加えてV-TUBERだ。こう言うのを快く思わない者達だっているはずだ。
・ クレアちゃんだからねー
・ 俺達は紳士だから、気にしない
・ うらやけしからん!
・ ↑本音が漏れているぞw
意外とリスナーは気にしていなかった。
「クレア! ごめんなさい、騎士さん。妹にはちゃんと言い聞かせますので」
妹のクレアを引き離し、謝るリースに「大丈夫だ」と伝える。引き離されたリースはぶーぶーと践まん顔であるが、気にすることなく話し続ける。
「それで? 騎士さんはどんな子をお招きしたんですか?」
「あぁ。俺はこの子だよ」
新たな召喚獣を呼び出す。出現したのはコリー犬を思い浮かべる子犬であった。
「わー。かわいー!」
気に入ったのかクレアが子犬を抱き上げようと手を伸ばすが、それを嫌って後ろに跳んでルークの後ろに隠れてしまう。
「あれ?」
「すまんな。こいつ少し気弱みたいなんだ。気を悪くしないでくれ」
抱き上げて、二人の前に見せたルークは新たな召喚獣を紹介し始める。
「こいつはコリードックの[コリー]だ」
「コリーちゃんか。よろしくね、コリーちゃん」
鼻先に手をかざして匂いを嗅がせたリースはそのまま下顎をなで回す。初めはおどおどしていたコリーだが、下顎を撫でられてから、もっと撫でてくれって言わんばかりに顔を押し付けて来た。
「なんでお姉ちゃんならいいのよ!」
「いきなり詰め寄るからよ。ねー」
そうだと言わんばかりに「わん」と吠える。
・ コリーか
・ 騎士、外れを引いたなw
・ 弱者の一角じゃないか
「え、この子外れなの?」
「召喚獣の中では弱い部類らしいな。ま、初めての相棒もそうだと言われていたから、どこまで育つか楽しみでもあるよ」
「そうだよね! こんなに可愛いのに外れなんてひどいよねー」
ね、とクレアが顔を近づかせるとぷいっと顔を背ける。それがショックだったのか、あからさまに残念そうな顔になるクレアであった。
・ クレアちゃんが嫌われるとか意外だな
・ 同じリースちゃんには懐いているのに
「そう言えば、二人はどうなんだ?」
場が重たくなりそうだったので、ルークは話題を変える。
「私はこの子、[アズ]ちゃんです」
「ほぉ。小鳥か。水晶みたいに綺麗な鳥だな」
「はい! ちょっと不安でしたけど、この子を迎えられてとても嬉しいです」
「そっか。それで? そっちは?」
「……私はこの子、[カー]ちゃんよ」
「フレアバードか。レアを引いたな。けど、カーちゃん?」
「可愛くない? カーマインの[カー]ちゃん。この子の瞳の色がカーマインだなぁ、と思って[カー]ちゃんなの」
「そこは[マイン]じゃないか?」
「騎士さんまで視聴者さんと同じ事を言う。可愛いじゃない[カー]ちゃん」
そうか、と疑問に思うが相棒のフレアバードは気にした様子がないので、気にしないことにした。
「んじゃ、早速この子らを育てようか。簡単なレクチャーをしながら進めるでいいか?」
「はい、お願いします」
「はーい!」
二人の了承を得たルークはまずは施設の案内を始める。追従する二人を隠れて見ていた人影はギリッと歯を食い縛り、込み上げる怒りを抑えながら三人の跡を追うのであった。




